56 / 72
乗取
しおりを挟む
巻き戻った時、アデライトがしたのはサブリナと自分の立場を入れ替えることだった。
それは、自分を裏切ったリカルドと婚約したくなかったのもあるが――幼い頃から交流があり、好意を持たれていたサブリナではなく、アデライトが婚約者に決まれば一回目同様、拒絶されると思ったからだ。
お茶会からの帰り道。馬車の中で、アデライトはノヴァーリスと話していた。
「王妃や侍女達には、気に入られることも出来たでしょうが……リカルドは、親が決めた婚約者では誰であろうと拒否したでしょうからね」
「無駄な努力なんて、しなくて良いよね」
「フフ、ええ」
ノヴァーリスの言葉に、アデライトは笑って頷いた。
だが、一方で――一回目のサブリナを見る限り、王子妃教育を終えられないと思っていた。外交官である父親経由の話題や、貴族令嬢らしからぬ距離の近さをリカルドは気に入っていたが、逆にそれが許されていたのはサブリナが婚約者ではなかったからである。学力や言動を見る限り、サブリナには無理だ。
そしていくらリカルドから好意を持たれていても、いつまで経っても王子妃教育を終えられなければ、サブリナの地位は危うくなる。
「肝心のリカルドからの愛情も、嫌っている私への反発もあったでしょうから……婚約者になった上、私がいなければいずれ破綻すると思っていました。もっとも自分達のことを棚に上げて、炊き出しをするサブリナを馬鹿にする程とは思いませんでしたが」
そこまで疎まれているサブリナに、けれどアデライトは躊躇せずとどめを刺した。一回目でのサブリナの案を、わざわざ本人の前で横取りしたのだ。
「炊き出しでうまくいかなかったのなら、挽回する為にも私がいる時に言いに来ると思ったんですよね……ノヴァーリス、教えて頂きありがとうございました」
「これくらい、お安い御用だよ……リカルドも、すっかり君に落ちたみたいだしね」
アデライトがお礼を言うと、ノヴァーリスはそう返して――どこからかハンカチを取り出すと、アデライトの手の甲を拭いた。先程、アデライトの手を握ったリカルドが「君こそ、王太子妃に相応しい」と言って口づけたのだ。
「一回目のサブリナと違って、卒業パーティーまで恋人になるつもりはないですけどね……断罪した直後は問われないかもしれません。ですが、いくら評判が悪くても婚約者がいるうちに付き合っては、不貞でしかありませんから」
そう思っているからこそ、アデライトはリカルドに口づけを落とされた時、申し訳なく見えるように目を伏せて言ったのだ。
「過分なお言葉ですが……サブリナ様が、いらっしゃいます」
「すまない。きちんと話をつけてから、君を迎え入れるから……その時は、どうか私の気持ちに応えてほしい」
「……ええ、リカルド様」
嘘はつかない。けれど、それ以外なら出来る限り何でもする。
正直、手の甲とは言え勝手に口づけられて嫌悪感しかなかったが――心を無にしてやり過ごしたし、こうしてノヴァーリスが気遣ってくれたことが嬉しかった。
そして微笑みながら、アデライトは話を締め括った。
「話をつけるそうですから、これからリカルドはサブリナの粗探しをするんでしょうね……まあ、私と違って自分で助成金を使いきったようなので、本当に横領するしかないでしょうから。断罪には、好都合ですね」
それは、自分を裏切ったリカルドと婚約したくなかったのもあるが――幼い頃から交流があり、好意を持たれていたサブリナではなく、アデライトが婚約者に決まれば一回目同様、拒絶されると思ったからだ。
お茶会からの帰り道。馬車の中で、アデライトはノヴァーリスと話していた。
「王妃や侍女達には、気に入られることも出来たでしょうが……リカルドは、親が決めた婚約者では誰であろうと拒否したでしょうからね」
「無駄な努力なんて、しなくて良いよね」
「フフ、ええ」
ノヴァーリスの言葉に、アデライトは笑って頷いた。
だが、一方で――一回目のサブリナを見る限り、王子妃教育を終えられないと思っていた。外交官である父親経由の話題や、貴族令嬢らしからぬ距離の近さをリカルドは気に入っていたが、逆にそれが許されていたのはサブリナが婚約者ではなかったからである。学力や言動を見る限り、サブリナには無理だ。
そしていくらリカルドから好意を持たれていても、いつまで経っても王子妃教育を終えられなければ、サブリナの地位は危うくなる。
「肝心のリカルドからの愛情も、嫌っている私への反発もあったでしょうから……婚約者になった上、私がいなければいずれ破綻すると思っていました。もっとも自分達のことを棚に上げて、炊き出しをするサブリナを馬鹿にする程とは思いませんでしたが」
そこまで疎まれているサブリナに、けれどアデライトは躊躇せずとどめを刺した。一回目でのサブリナの案を、わざわざ本人の前で横取りしたのだ。
「炊き出しでうまくいかなかったのなら、挽回する為にも私がいる時に言いに来ると思ったんですよね……ノヴァーリス、教えて頂きありがとうございました」
「これくらい、お安い御用だよ……リカルドも、すっかり君に落ちたみたいだしね」
アデライトがお礼を言うと、ノヴァーリスはそう返して――どこからかハンカチを取り出すと、アデライトの手の甲を拭いた。先程、アデライトの手を握ったリカルドが「君こそ、王太子妃に相応しい」と言って口づけたのだ。
「一回目のサブリナと違って、卒業パーティーまで恋人になるつもりはないですけどね……断罪した直後は問われないかもしれません。ですが、いくら評判が悪くても婚約者がいるうちに付き合っては、不貞でしかありませんから」
そう思っているからこそ、アデライトはリカルドに口づけを落とされた時、申し訳なく見えるように目を伏せて言ったのだ。
「過分なお言葉ですが……サブリナ様が、いらっしゃいます」
「すまない。きちんと話をつけてから、君を迎え入れるから……その時は、どうか私の気持ちに応えてほしい」
「……ええ、リカルド様」
嘘はつかない。けれど、それ以外なら出来る限り何でもする。
正直、手の甲とは言え勝手に口づけられて嫌悪感しかなかったが――心を無にしてやり過ごしたし、こうしてノヴァーリスが気遣ってくれたことが嬉しかった。
そして微笑みながら、アデライトは話を締め括った。
「話をつけるそうですから、これからリカルドはサブリナの粗探しをするんでしょうね……まあ、私と違って自分で助成金を使いきったようなので、本当に横領するしかないでしょうから。断罪には、好都合ですね」
30
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
幼女からスタートした侯爵令嬢は騎士団参謀に溺愛される~神獣は私を選んだようです~
桜もふ
恋愛
家族を事故で亡くしたルルナ・エメルロ侯爵令嬢は男爵家である叔父家族に引き取られたが、何をするにも平手打ちやムチ打ち、物を投げつけられる暴力・暴言の【虐待】だ。衣服も与えて貰えず、食事は食べ残しの少ないスープと一欠片のパンだけだった。私の味方はお兄様の従魔であった女神様の眷属の【マロン】だけだが、そのマロンは私の従魔に。
そして5歳になり、スキル鑑定でゴミ以下のスキルだと判断された私は王宮の広間で大勢の貴族連中に笑われ罵倒の嵐の中、男爵家の叔父夫婦に【侯爵家】を乗っ取られ私は、縁切りされ平民へと堕とされた。
頭空っぽアホ第2王子には婚約破棄された挙句に、国王に【無一文】で国外追放を命じられ、放り出された後、頭を打った衝撃で前世(地球)の記憶が蘇り【賢者】【草集め】【特殊想像生成】のスキルを使い国境を目指すが、ある日たどり着いた街で、優しい人達に出会い。ギルマスの養女になり、私が3人組に誘拐された時に神獣のスオウに再開することに! そして、今日も周りのみんなから溺愛されながら、日銭を稼ぐ為に頑張ります!
エメルロ一族には重大な秘密があり……。
そして、隣国の騎士団参謀(元ローバル国の第1王子)との甘々な恋愛は至福のひとときなのです。ギルマス(パパ)に邪魔されながら楽しい日々を過ごします。
聖女として王国を守ってましたが追放されたので、自由を満喫することにしました
ルイス
恋愛
天候操作、守護結界、回復と何でも行える天才聖女エミリー・ブライダルは王国の重要戦力に位置付けられていた。
幼少のことから彼女は軟禁状態で政権掌握の武器としても利用されており、自由な時間などほとんどなかったのだ。そんなある日……
「議会と議論を重ねた結果、貴様の存在は我が王国を根底から覆しかねない。貴様は国外追放だ、エミリー」
エミリーに強権を持たれると危険と判断した疑心暗鬼の現政権は、エミリーを国外追放処分にした。兵力や魔法技術が発達した為に、エミリーは必要ないとの判断も下したのだ。
晴れて自由になったエミリーは国外の森林で動物たちと戯れながら生活することにした。砂漠地帯を緑地に変えたり、ゴーストタウンをさらに怖くしたりと、各地で遊びながら。
また、以前からエミリーを気にかけていた侯爵様が彼女の元を訪ね、恋愛関係も発展の様相を見せる。
そして……大陸最強の国家が、故郷の王国を目指しているという噂も出て来た。
とりあえず、高みの見物と行きましょうか。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
婚約破棄予定と言われたので透明になって見たら婚約者の本性を知り悩んでいます
白黒
恋愛
侯爵家令嬢の私…イサベル・マリア・キルシュは昔からの親同士の決めた会ったこともない婚約者ニルス・ダーヴィト・シャーヴァン公爵令息様と
16歳の学園入学の際にラーデマッハ学園で初めてお会いすることになる。
しかし彼の態度は酷いものだった。
人混みが嫌いでこの世から消えたいと思い透明薬の研究を進めてついに完成したイサベルは薬で透明になり婚約者の本性を知っていくことに…。
【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~
Rohdea
恋愛
侯爵令嬢のフィオナは、取り立てて目立つところの無い平凡令嬢。
仲の良い家族を見て育った事もあり、昔から素敵な恋に憧れていた。
そんなフィオナの元にある日舞い込んだのは、公爵令息ダーヴィットとの縁談話。
平凡令嬢の自分に一目惚れしたなどと彼は言っているけれど──……
(ちょっと胡散臭い気がするけど、もしかしたら、これが素敵な恋になるかもしれない)
そう思って婚約することにしたフィオナ。
けれど、そんなある日、ダーヴィットが自分のことを『便利な女』だと仲間内で嘲笑っている所を聞いてしまう。
(違う! 私の素敵な恋の相手はこの人じゃない!)
色々と我慢出来なくなったフィオナは婚約解消を願い出ることにした。
しかし───……
✿“つまらない女”と棄てられた地味令嬢、拾われた先で大切にされています ~後悔? するならご勝手に~
──こちらの主人公の娘の話です。
✿“可愛げがない女”と蔑まれ続けた能面令嬢、逃げ出した先で幸せを見つけます ~今更、後悔ですか?~
──こちらの主人公の孫の話です。
※過去二作は読まなくても、特別問題はありませんが、一読して頂けると、
この家系の血筋による最初の男運の悪さがよく分かります。
【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
聖女の代役の私がなぜか追放宣言されました。今まで全部私に仕事を任せていたけど大丈夫なんですか?
水垣するめ
恋愛
伯爵家のオリヴィア・エバンスは『聖女』の代理をしてきた。
理由は本物の聖女であるセレナ・デブリーズ公爵令嬢が聖女の仕事を面倒臭がったためだ。
本物と言っても、家の権力をたてにして無理やり押し通した聖女だが。
無理やりセレナが押し込まれる前は、本来ならオリヴィアが聖女に選ばれるはずだった。
そういうこともあって、オリヴィアが聖女の代理として選ばれた。
セレナは最初は公務などにはきちんと出ていたが、次第に私に全て任せるようになった。
幸い、オリヴィアとセレナはそこそこ似ていたので、聖女のベールを被ってしまえば顔はあまり確認できず、バレる心配は無かった。
こうしてセレナは名誉と富だけを取り、オリヴィアには働かさせて自分は毎晩パーティーへ出席していた。
そして、ある日突然セレナからこう言われた。
「あー、あんた、もうクビにするから」
「え?」
「それと教会から追放するわ。理由はもう分かってるでしょ?」
「いえ、全くわかりませんけど……」
「私に成り代わって聖女になろうとしたでしょ?」
「いえ、してないんですけど……」
「馬鹿ねぇ。理由なんてどうでもいいのよ。私がそういう気分だからそうするのよ。私の偽物で伯爵家のあんたは大人しく聞いとけばいいの」
「……わかりました」
オリヴィアは一礼して部屋を出ようとする。
その時後ろから馬鹿にしたような笑い声が聞こえた。
「あはは! 本当に無様ね! ここまで頑張って成果も何もかも奪われるなんて! けど伯爵家のあんたは何の仕返しも出来ないのよ!」
セレナがオリヴィアを馬鹿にしている。
しかしオリヴィアは特に気にすることなく部屋出た。
(馬鹿ね、今まで聖女の仕事をしていたのは私なのよ? 後悔するのはどちらなんでしょうね?)
聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます
香木あかり
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。
どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。
「私は聖女になりたくてたまらないのに!」
ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。
けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。
ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに……
なんて心配していたのに。
「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」
第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。
本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる