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傍若無人

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「田舎者? とんでもない。お前のような料理を作れるものは、他にいない。だからこそ、我が国でその素晴らしい腕を存分に振るってほしい」
「……いやいや、いますって」

 グルナの店の前には、人混みが出来ていた。それらをかき分けながら前に進むと、恵理の耳にそんなやりとりが聞こえてきた。

(グルナってば、謙遜して……でも、我が国でって)

 確かに、恵理も色んなどんぶりを作って店まで出しているが――そもそもの技術は、まるで違う。だから、グルナは恵理のことをいると言っているんだろうが、王子が恵理ではなくグルナに目をつけるのは、悔しいが理解は出来るのだ。
 しかし、だからと言ってニゲル国の料理人として連れていかれると困る。
 嫌な予感が当たったことに恵理が焦っていると、ニゲル国の王子は更にとんでもないことを言い出した。

「確かに、別の料理人がカツ丼やカツカレー丼を作っていたが……材料さえあれば、お前も作れるだろう? しかも、もっとうまく」
「「っ!?」」

 その言葉に、グルナだけではなく恵理も息を呑んだ。意味ありげな発言は、王子が異世界――日本のことを知っていることを意味している。

「確かに! グルナの料理は、最高だけど……だからこそ! 交流だけならともかく、永久就職なんて認めないわ!」
「恵理!?」

 周囲が今の言葉を疑問に思う前に、これ以上余計なことを言われたくない。
 そして何よりグルナをニゲルに連れていかれたくなくて、恵理はグルナの店に飛び込んで叫んだ。王子と家臣らしい男達が、ギョッとして振り返る。
 そんな彼女に驚いて目を見張り、次いでホッとしたように目を笑みに細めると、グルナは口を開いた。 

「あー……彼女の言う通り、食文化交流だけならともかく、ずっとそちらに行くのはお断りします。帝都からの引き抜きも、断ってるんですよ。更に遠くになんて、行く気はありません」
「グルナ……っ!?」

 はっきり断ってくれたのが嬉しくて、思わずグルナに駆け寄ろうとした恵理だったが――刹那、巻き起こった風が壁のように恵理の行く手を遮った。
 そんな恵理には構わず、再び目をやったグルナの肩を引き寄せて、王子が言う。

「君に拒否権はない……そんな訳で、彼を連れていく。お嬢さん、ごきげんよう」
「グルナ!」
「恵理!?」

 王子がそう言った途端、王子達の周りの風が勢いを増して強風となり――弾き飛ばされ、たまらず尻餅をついた恵理が顔を上げた時には、王子達もグルナもその場から文字通り消え失せていた。
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