リバース!

渡里あずま

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リバース!2

vs水

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 骸骨野郎は火、そして明珠は風の超能力者だ。
 だが、前にニュースになったのであと一人、水の超能力者がいるとは思っていた。

(思っていたけど……まさか、この子が?)

 短い黒髪は、サイドが顎のラインで切り揃えられていて。目尻の吊り上がった目は猫を思わせる。そして俺よりも小柄で細い体は、丈の短いジャンパースカートとボレロの制服に包まれていた。
 どう見ても、俺より年下なんで中学生だと思う。つまりは女子供だ。まあ、俺も小学生の時に小悪党退治してたから、人のことは言えないけどな。

「永愛……学校は、どうしたんだい?」
「二人が、何か隠してるみたいなので行ったフリをしました……私、言いましたよね? この人と、勝負したいって」
「えっ?」
「まあ、僕達も休んだから一日くらいは見逃すけど……僕も言ったよね? 私怨を許す気はないって」

 そう言って、左衛がやれやれと言うようにため息をつくけど――勝負って、つまりは俺と戦いたいってことか? しかも私怨だなんて、何だか物騒な話になってきたな。

(初めて会う子だよな……恨まれてるって言うんなら、単に能力勝負したいだけじゃないよな?)

 咄嗟に椿へと目をやったが、椿も見覚えがないらしく首を横に振るだけだ。と言うことは、やっぱり前に会ったことはないのは間違いない。

「……私怨じゃないのなら、単なる優劣をつけたいだけなら良いですか?」

 そんな俺達の疑問は余所に、女の子――永愛と呼ばれた娘が、淡々と左衛に問いかけを続ける。相変わらず俺を睨んだままなので、まるで説得力はないけれど。

「ああ、それなら良いよ……完全に、施設(ここ)を破壊しない範囲ならね」
「ちょっ……!」
「解りました」

 解っているだろうに、笑顔で白々しく許可を出した左衛に文句をつけようとしたが――その前に、永愛の右手に水の塊が現れたのを見て、俺は慌てて腰を落として次の動きを待った。

 骸骨野郎と能力対決をした後、俺はテレビで炎vs水の戦いを見た。
 勿論、俺達みたいな能力者の対決じゃない。火炎放射器の炎を、放水車が消せるかってやつだ。
 結果は水、放水車の圧勝で――だが、骸骨野郎と戦った俺としては必ず水が勝てる訳じゃないのは知っている。
 そのことを思い出したのは、永愛があの時の放水車を思わせる流水を、俺へと放った時だった。
 塊のまま、水をぶつけられることを期待したが、やっぱり俺は運がないらしい。

(塊なら、まだ弾くか流すか出来たかもだが……風じゃあ、流水は斬れない)
(大地系の魔法で、コンクリートの壁を……いや、一階じゃないから、壁や床を使って崩れたら厄介だ)

 そこまで考えて、俺は骸骨野郎みたいに魔法の炎を身に纏った。そして、水に消されないくらいの高温をイメージした。

「「っ!」」

 ……息を呑んだのは俺と永愛、どちらが先だったのか。
 俺の炎に触れた水が、ジュウッと音を立てて蒸発する。刹那、一気に立ち上がった湿気に顔をしかめていると、キッと永愛が先程以上のきつさで俺を睨みつけてきた。

「……よりによって」
「えっ?」
「あなたが、亮と同じことを……っ」

 拳を握って、悔しげに聞いたような名前を口にされたのに戸惑って――そこで俺は、あの骸骨野郎の名前だったと思い出した。

「こーら、永愛」

 そんな中、この場の雰囲気をぶち壊すような呑気な声が割り込んでくる。
 いや、声だけじゃなく――声の主である骸骨野郎が、笑顔で永愛を背後から抱き締めた。

「……セクハラです、亮」
「酷っ!」

 骸骨野郎が言う通り、確かに言葉は酷いが――永愛は、回された腕を振り払おうとしなかった。
 それは、骸骨野郎も解っているんだろう。笑顔のまま、永愛に話しかけ続ける。

「どうした? 話がついたんなら、お前が出てこなくても良かっただろ?」
「亮には、関係ありません」
「俺の敵討ちなのに?」
「自惚れないで下さい」

 先程同様に、ズバズバと永愛が問いかけをぶった切る。そう、否定はしているんだが逆に、だからこそ骸骨野郎の言葉が俺を睨んだり、勝負を持ちかけた理由なんだって思った。初めて会った俺ですら思うんだから、俺よりずっと付き合いの長いだろう骸骨野郎は尚更だ。

「……女の子の永愛を使って、リベンジって卑怯じゃねぇ?」

 それ故、わざとそんな酷い言い方をして――刹那、ハッとして息を呑んだ永愛の頭を優しく撫でた。
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