先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

来たるべき冬

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冬休みがやって来る。

サッカー部は決勝リーグへ駒を進めた。
ラグビー部もまた、決勝を控えている。
試合はラグビー部の方が早く、サッカー部はその後だ。

「どっちも遠いなあ…いいのかな」

どちらも二泊はしないと無理なスケジュールだ。

決勝リーグは3チーム総当たり戦だ。
この国は大きく27の行政地区があり、○○地方、という言い方になると3つに分かれる。
その地方代表が決勝リーグで戦う。

「お互いが一勝ずつになるとどうなるんだろう…」

高原先生は得失点差という制度をまだ知らなかった。

***

冬は比較的災害が少ない。
魔獣は寒さに弱いんだ、という笑い話もあるほどだ。
機関では、大陸の魔導師組織「マギス」からの圧力により多くの魔導師を社会に出すことに決めた。

社会経験を積ませるなら今のうち…。
大勢の魔導師が一般社会になじむために機関の外へ出る事となった。

「問題は多禍原家だな」
「…碧まで外へ出たんだ、出さないわけにいくまい」
「それはそうだが…問題はあまりにも世間知らずだということだ。
 碧はもう30代に差し掛かって、それなりに市街地での討伐もしてきたからそこそこ外界に慣れていたが…
 まだそれほど討伐経験のない者は全くもって外の世界を知らない」
「金を使わずとも生きていける環境に慣れきって、買い物という概念の無いものすらいる」
「何でも給与天引で与えてきたからか…」
「…その給与を貰っていることすら知らない者すらいる」
「…こんなことになるとは…」

魔導師が外の生活を羨ましがることを恐れ、外界に一切触れさせてこなかった弊害がここにきて噴出していた。

「転移が出来ない魔導師についてはどうする?」
「公務員として各地に配置するしかあるまい。何の仕事が出来るのかは分からんが…」

機関と地方自治体はそれなりに繋がりもある。
給料はこちらから払うから置いてやってくれというしかあるまい…

「今、魔導師の訓練をしている者については?」
「それは今まで通りだ。
 魔導師未満の者まで社会に出せとは言われていないからな」
「しかし魔導師として現場に出る様になったら、社会に出すのだろう?どうやって教える」
「…もう魔力が無くなって外で暮らしている者に面倒を見させよう」
「余計な仕事が増えたな」

…不安はある。
しかし、大陸の圧力には逆らえない。
言う事を聞かなければ、朱紅を大陸へ連れて行く…と言われては、どうしようもない。
あの男と戦える者が、今の機関にはいない。
よしんば勝てたとしても、それが大陸を刺激する…結局お終いだ。
従う以外の手は残されていなかった。

「本当に、災害に対応できるのだろうか」
「…やはり全員を外に出すのは危険だ」

それでも誠意を見せる為に、今年の冬には何人か外へ出さねばならない。

「まずは転移魔法の使える者から…」
「しかし、転移が出来る者は能力の高い者ばかりだぞ」

誰を外に出し、誰を残すのか…。
会議はまだ始まったばかりだ。

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