先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

新しい生活

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学校からバスで最寄り駅まで行き、そこから電車で20分。
どこに行くにも便利で、ほどほどに自然が残っているような人気の住宅街にある高級マンションの一室が、高原先生の新しい住所だ。
所有者は碧…今まで使いどころも無く淡々と蓄積された給与でポンと支払ったというが、本人は借りたつもりだったのだから世間知らずも甚だしい。

碧は
「家や建物はとても高価だから、破壊は最小限に留めろとしつこく指導されただろう?だから借りるのでもこれほど高いものなのだなと思ってな。
 フドーサンヤサンに一回の支払いでどれだけ住めるのか聞いたら、あとはジチカイヒとコーネツヒを払うだけで飽きるまで住めますと言われて、安いと思ってここに決めたんだ」
と自慢気だったが、それを聞いたケイジが、
「経済観念くらい身につけてから外に出せよ…
 極端なんだよ「機関」は……」
…と、ボヤいていた。

自分も与えられた部屋に住んでいただけで、家にかかるお金は人任せだったから、申し訳なくなって碧と一緒にケイジに謝った。

「年一回、固定資産税も払うんだぞ!」
とケイジに言われたが、碧は
「私は税金を貰っているのに、何故払わんといかんのだ?最初から引いておけばいいのに」
とトンデモな発言をしていた。

高原先生は自分を棚に上げて、「碧さん、やってけるのかなあ」…とぼんやり思った。



歩いて家につくと、碧とケイジが出迎えてくれた。

「ちゃんと帰って来れたな」
「当然だろう、一郎は賢いんだから」

この程度で褒めてくれる碧は激甘だ。
姉としての距離の詰め方が少しおかしい。

「今日は冷蔵庫に炊飯器に鍋…お前らでも料理できる自動調理鍋を買ってきたからな。
 碧に使い方は教えたが、一郎も覚えるんだぞ」

そう言ってぐりぐりと頭を撫でられる。
ケイジの距離の詰め方もまたおかしかった。

「カレーというのを作ってみたんだ、こいつと一緒に…なかなか手こずったが、上手くできたと思う」
「炊飯器で米も炊いたしな。碧にしちゃあ頑張ったほうだろう」
「カレーって?…あ、美味しそうな匂い…」

こいつもカレーを食った事が無いのか…とケイジは複雑な気持ちになった。

***

「美味しい!碧さんすごいね」
「碧がすごいんじゃなくて、この鍋がすごいんだよ…。煮物はこれでほぼ出来るから、色々作ってみような」
「はい」

3人で一緒に食卓を囲んで話をする。

「一郎、次の土曜日は私と一緒にこのあたりを探検しよう」
「駄目だ、まずは家事と炊事を覚えるのが先だ。俺がきっちり教えてやるからな、一郎」

2人は一郎を取り合う様子を見せる、が…

「あ…っと、それが、ちょっと、用事があって」
「…何だ?」
「サッカー部の練習試合があるからって…顧問の北島先生が」

一日樫原君を貸し出した見返りを要求された形で、有無を言わさず参加することになっていた。

「キタジマ?ああ、あの同性愛差別丸出しの…」
「最近は何も言われなくなりましたよ?それに、野球部にグラウンドを手配してくれましたし」
「あのおっさん、反省はできるんだな」

どうやら土曜日は樫原君のものらしい。
2人はため息をついて、日曜日の予定を組みなおすことにした。

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