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先祖返りの君と普通の僕
イチゴミルク氏と一郎 2
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その沈黙をどう捉えたのか、イチゴミルク氏は言った。
「一郎がこの国を捨てて大陸に来るなら、もう準備は出来てる。
すでにこいつは「マギス」の一員になってて「機関」の管理からも切り離されてる。
「機関」の言うことを聞かなくてもいいし、命令させるつもりもない。
だからこいつを「監視」してた連中は全て排除し、代わりにマギスの「護衛」を付けている。
「機関」に関わらず、こいつに手を出すやつは容赦しない。全員敵と見做して対応する。
…ただ、一郎は今の仕事が気に入っているようだし、楽しそうにもしているから…ここにいるのがこいつにとって幸せならそれでもいいか、と、この国にいる事を許容している。
仕事が辛いようならさっさとウチへ連れて帰る。叔母さん夫婦も待ってるしな」
樫原君は言った。
「…先生のご両親は、生きてるのか?」
「ああ、生きてる。
事故に見せかけて殺されそうになってたのをこっちで保護したからな。
……2人は一郎を連れて、逃げようとしたんだ。
この国の魔導師に対する扱いを知っていたから。
でも一郎は手放さざるを得なかった。叔母さんはずっとそれを後悔している…。
だから、今からでも幸せになってもらいたいし、そうしなきゃいけない」
「…うん」
イチゴミルク氏は続けた。
「俺はな、勇人。
一郎が幸せになるためだったら、お前が不幸になろうが知ったこっちゃない。一郎の幸せの為に必要だって言うんなら、お前にはサッカーも学校も辞めてもらうし、全ての人間関係を絶ってもらう。
本気で一郎とパートナーになりたいっていうんなら、その程度の覚悟がなければ許容できない」
「…うん」
「だけど、お前を不幸にしたら、一郎が気に病む。だからしない。それだけだ」
「…うん」
ふと碧が口を挟んだ。
「朱紅がマギスの人間になったということを、本人は知っているのか?」
「ああ、それは…まだ」
「早く伝えてやれば、ここまで朱紅が悩むことは無かったんじゃないのか」
「…確かに、そうなんだが」
「お前、朱紅と樫原の事を試したのか?」
「それは…!だけど、そんなの当然だろ!?
あんな目に合わされてるのに、なんで男と一緒にさせないといけないんだよ!!女のほうがまだトラウマを刺激しなくて済むだろ!?」
確かにそうだ。
イチゴミルク氏が見た記憶で、高原先生を凌辱していたのは男なのだ。だから男との性的な触れ合いに、拒絶反応が出る可能性は高いと思った。
だから試した。
お互いが想い合っていても、無理な事だってあるのだから。
碧は自分の考えを述べた。
「だが朱紅は女にもいい思い出は無いと思うぞ?
男に切り替えられる前には、女とのあれこれを全て試させられていたのだからな。
もしかしたら、樫原は「先祖返り」だからこそ大丈夫なのかもしれん…。
「機関」には獣人の職員がいないんだ」
「あっ、くそ、そういうことか…!
無駄に苦しめちまった…ごめんな、一郎」
イチゴミルク氏は寝ている高原先生の頭を優しく撫でる。
碧は彼に物申す。
「…樫原には?」
「言ったろ、そいつが苦しもうがどうだっていい」
「ひっでえ言い方だな」
「黙れクソガキ。外でこれ見よがしに一郎にキスしやがって…殺されないだけありがたいと思え」
確かに彼は言っていた。
手を出したら容赦しないと。
場の雰囲気が少し明るくなり、高原先生もスヤスヤと寝ている。
そういえば、樫原君には気になることがあった。
「一郎っていう名前は、どこから?」
朱紅という名前と、あまりに共通点が無くて不思議だったのだ。
「一郎の両親が、こいつに付けた名前だ」
「…………何?」
「こっちの魔導師は戸籍が無いからな。
死亡届さえ面倒臭がるやつらのことだ…こいつが外で暮らすとなったとき、一々届け出も面倒だからと出生時に叔母さんたちが登録した戸籍を利用したんだろう。
苗字も偶然「高原」だったからな」
偶然ながら、両親のくれた名前を名乗っていた。
小さな幸運は、そこから始まっていたのかもしれない。
「一郎がこの国を捨てて大陸に来るなら、もう準備は出来てる。
すでにこいつは「マギス」の一員になってて「機関」の管理からも切り離されてる。
「機関」の言うことを聞かなくてもいいし、命令させるつもりもない。
だからこいつを「監視」してた連中は全て排除し、代わりにマギスの「護衛」を付けている。
「機関」に関わらず、こいつに手を出すやつは容赦しない。全員敵と見做して対応する。
…ただ、一郎は今の仕事が気に入っているようだし、楽しそうにもしているから…ここにいるのがこいつにとって幸せならそれでもいいか、と、この国にいる事を許容している。
仕事が辛いようならさっさとウチへ連れて帰る。叔母さん夫婦も待ってるしな」
樫原君は言った。
「…先生のご両親は、生きてるのか?」
「ああ、生きてる。
事故に見せかけて殺されそうになってたのをこっちで保護したからな。
……2人は一郎を連れて、逃げようとしたんだ。
この国の魔導師に対する扱いを知っていたから。
でも一郎は手放さざるを得なかった。叔母さんはずっとそれを後悔している…。
だから、今からでも幸せになってもらいたいし、そうしなきゃいけない」
「…うん」
イチゴミルク氏は続けた。
「俺はな、勇人。
一郎が幸せになるためだったら、お前が不幸になろうが知ったこっちゃない。一郎の幸せの為に必要だって言うんなら、お前にはサッカーも学校も辞めてもらうし、全ての人間関係を絶ってもらう。
本気で一郎とパートナーになりたいっていうんなら、その程度の覚悟がなければ許容できない」
「…うん」
「だけど、お前を不幸にしたら、一郎が気に病む。だからしない。それだけだ」
「…うん」
ふと碧が口を挟んだ。
「朱紅がマギスの人間になったということを、本人は知っているのか?」
「ああ、それは…まだ」
「早く伝えてやれば、ここまで朱紅が悩むことは無かったんじゃないのか」
「…確かに、そうなんだが」
「お前、朱紅と樫原の事を試したのか?」
「それは…!だけど、そんなの当然だろ!?
あんな目に合わされてるのに、なんで男と一緒にさせないといけないんだよ!!女のほうがまだトラウマを刺激しなくて済むだろ!?」
確かにそうだ。
イチゴミルク氏が見た記憶で、高原先生を凌辱していたのは男なのだ。だから男との性的な触れ合いに、拒絶反応が出る可能性は高いと思った。
だから試した。
お互いが想い合っていても、無理な事だってあるのだから。
碧は自分の考えを述べた。
「だが朱紅は女にもいい思い出は無いと思うぞ?
男に切り替えられる前には、女とのあれこれを全て試させられていたのだからな。
もしかしたら、樫原は「先祖返り」だからこそ大丈夫なのかもしれん…。
「機関」には獣人の職員がいないんだ」
「あっ、くそ、そういうことか…!
無駄に苦しめちまった…ごめんな、一郎」
イチゴミルク氏は寝ている高原先生の頭を優しく撫でる。
碧は彼に物申す。
「…樫原には?」
「言ったろ、そいつが苦しもうがどうだっていい」
「ひっでえ言い方だな」
「黙れクソガキ。外でこれ見よがしに一郎にキスしやがって…殺されないだけありがたいと思え」
確かに彼は言っていた。
手を出したら容赦しないと。
場の雰囲気が少し明るくなり、高原先生もスヤスヤと寝ている。
そういえば、樫原君には気になることがあった。
「一郎っていう名前は、どこから?」
朱紅という名前と、あまりに共通点が無くて不思議だったのだ。
「一郎の両親が、こいつに付けた名前だ」
「…………何?」
「こっちの魔導師は戸籍が無いからな。
死亡届さえ面倒臭がるやつらのことだ…こいつが外で暮らすとなったとき、一々届け出も面倒だからと出生時に叔母さんたちが登録した戸籍を利用したんだろう。
苗字も偶然「高原」だったからな」
偶然ながら、両親のくれた名前を名乗っていた。
小さな幸運は、そこから始まっていたのかもしれない。
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