先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

納得いかない!

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ここ最近の練習は決勝リーグにむけての調整で、遅くまでグラウンドに残ることも無くなった樫原君は寮へ向かって歩いていた。
各部の寮は外部からの人間が訪問しやすいように校門近くにある。
つまり樫原君は校門の近くへ向かっていた。
そこで見てしまった。
あの女に支えられながらタクシーに乗ろうとしている先生を…

あの日の記憶が蘇る。
あの日、妙に軽薄な男に車に詰め込まれた先生。
あの日から、学校に来なくなった先生。
来なくなった理由は…考えたくもないけれど、きっとあの男に何かされたからだ、と思っている。

「阻止しないと」

樫原君の足は2人のほうに向かい…
その足の速さで、タクシーに碧が乗り込もうとするタイミングに間に合った。
そして女を問い詰めた。

「おい、先生をどこへ連れて行く気だ」
「家まで連れて帰る」
「誰の家に?」
「一郎の家だ」
「本当だろうな」
「嘘を言って何になる」
「先生をどこかへ連れて行って、酷い目に合わせるつもりだって事を隠せる」
「貴様…あ、おい一郎、大丈夫か」
「先生!?お前、先生に何をした!」
「何もしていないし何もしない。心配ならついて来い」
「分かった」

そう言って助手席に樫原君が乗り込む。

「か、しはら、くん…ぶちょう、さんに、おこられ、るよ…だいじょうぶ、だから…」
「そう言って前どんな目に合わされたんだよ!!駄目だ、ついていく、何があっても」
「…一郎の家から連絡を入れればいい。すまん、こいつの家…おい一郎、家はどこだ」
「立花2丁目のパレス立花。お願いします」

樫原君が高原先生の住所を答え、タクシーは走り出した。

「先生、大丈夫?俺、付いて行くから。ひどい目に合わされそうになったら、俺が守るからな」
「…信用が無いな」
「前にも先生をこうやって連れて行ったやつがいた。その時はタクシーじゃなかったけど…そいつは先生に…っ、人には、言えないような、酷いことを…、した。だから、車に押し込まれて連れていかれる先生を見過ごせない」

暗にお前もそいつの仲間だろう、と樫原君は言っているのだ。
そして、碧にも覚えが無いわけでは無かった。
自分の身に起きた事ではないが、機関にいたときの朱紅には時々…「搾り取るため」の日があった事を。
それがどういう事だったのか…世間を全く知らずに生きてきた碧にも分からないわけでは無かった。

「外でも、やっていたんだな」
「は?」
「こちらの話だ」

聞きたいことがあるなら、こいつの家で話す。
そういって碧は、静かになった。



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