先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

サッカー部、順調に勝ち進む

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ピッ、ピーーーーー

試合終了のホイッスルが鳴る。
今日の試合は、前半の最初に取った1点を守り切る戦いになった。
相手チームにも先祖返りの子が3人いて、1人はキーパー…こっちと同じ布陣だ。

そんな中、前半の1点を決めたのは、ノーマークだった上尾君という3年生だ。
「上尾君!思い切り蹴って!決めちゃえ!」
高原先生が言った次の瞬間、決まってしまった。

相手だって、その距離から普通の生徒がシュートを撃って入るとは思わなかったのか、シュートをはじいた後の展開を考えて一瞬隙ができたところを、見事に左上のコーナーに叩き込んだ。

上尾君はそもそもディフェンスの選手だ。
そこまで上がっていることも想定外だった。
相手だけでなく、味方もだ。

相手に動揺が走った。
何度も何度もフォワードの先祖返りの子がシュートを撃ちこんできたけれど、小田君には勝てなかった。
もちろんこちらも、何度も何度も攻め込んだけれど、そこから先の点を取ることは出来なくて…。
それでも1点を守り切った。
次は決勝リーグだ。

「お疲れ様、みんな…大変な試合だったね」
「うっす…」
「緊張感、すごかった。集中してたね、みんな」
「そう、っすね」
「あっそうだ、上尾君、今年度初ゴールおめでとう!」
「あざっす!!」

それだけ言うと、高原先生はロッカールームから出て行った。
午後からラグビー部の試合を見に行くそうで、
「ここからタクシーに乗って…ぎりぎりかなあ」
と話していた。

ラグビー部も順当に勝ち進んでいた。
サッカー部と同じく、3回戦にコマを進め、これを買ったら決勝リーグにコマを進められる。
もしそうなれば創部以来初めての快挙だそうで、絶対絶対来てください、と女子マネの横田さんに懇願されたそうだ。

「忙しいな、高原先生」
「迎えの車ぐらい回してんじゃね?ラグビー部のやつらも」

…誰かが言ったその読みは、当たっていた。

----------

試合後のミーティングも終わり、帰り支度。
いいところを見せられなかった樫原君はちょっとへこんでいた。
マークがきつすぎてパスが回ってこなくて、それならとボールを奪いに行ったらイエローカードをもらってしまい、本日、自分的にはいいところなしだ。

「気にすんなよ樫原。
 お前がガッチガチにマークされてくれてたおかげで、俺のシュート入ったんだからさ」
「…はい」
「大丈夫だよ、そういう縁の下の力持ち…的なやつも、見てくれてるって」
「…はい」

そして大活躍の小田君が言った。
「んだよかっしー。そんな顔する暇あったら水族館デートに誘えっての」

ざわっ…
ロッカールームの空気が変わる。
坂下君が呆れたように言う。

「かーしーはーらー。
 お前何してんだよ!キンタマついてねーのか!」
「ついてますよ!」
「そんなら今日中に誘え、そんでOKもらえ」
「そんな、無茶な」
「うるせー!おい、矢吹、小田!
 こいつをラグビーの試合してるとこまで連れてけ、逃げられるなよ!」
「「えええ!」」

ロッカールームから3人をぎゅうぎゅうと送り出す、部員たち。

「頑張れよ!」
「行ける!行けるよ!信じろ!」

試合の興奮の残り香が、部員たちのテンションをおかしくしていた。
そして、小田君と矢吹君もまた、おかしくなっていたのか…堂々とみんなに宣言した。

「水族館デート、必ず勝ち取ってくる!
 俺らもぜってー優勝して、2人を最高の状態で水族館に連れてってやろうぜ!」
「うおー!!!」

奇妙な一体感だった。

先祖返りと普通の生徒の間にあった壁のようなものは、すでに無い。
身体能力が優れているだけで、中身は普通の人間だということが良く良く分かってしまったからだ。

自分たちより格段にフィジカルに恵まれた先祖がえりの樫原君を見て、彼らが思うことは…

「このヘタレ野郎」

の一言であった。

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