先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

災害は立て続けに 1

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「この前の試合は大変でしたね!」
「はい、でもこの前、幸田先生が色々教えてくれたので、スムーズに避難できました。
 見回りもして、逃げ遅れた人に手を貸すこともできましたし…訓練は大事だなって思いました」

あの災害から2日たった月曜日、高原先生は幸田先生に災害に合った時の報告をしていた。
バスケ部の顧問に怒られたことは抜きにして。

「そうですね!やはり練習あっての本番ですから!何事も!」
「テレビで災害に襲われた場所を見ましたけど…建物、あんなに壊れちゃうなんて」
「いやいや!かなり被害は少なかったそうですよ!死者も出ませんでしたし!」

いち早く魔導師が来てくれたんだろう…と、幸田先生が言うので、高原先生はそうなんだろうと思った。

「バスケ部の全国大会、続きは2ヶ月後ですか!」
「そうなんです、あの辺りに住んでる子もいるでしょうし、すぐには…。体育館は無事でしたけど」
「災害の季節は始まったばかりですしね!時期が過ぎるまで待つ方がいいでしょうね!」
「そうですね、ただ順当にいくと、サッカー部の決勝と被りそうなんですよね…どうしよう」
「大丈夫ですよ!決勝戦は各校の応援団の都合もありますから!日程は被らないように調整されると思いますよ!」
「へえー、そうなんですね」

それならありがたい。
どちらからも誘われている身としては、カドが立たなくてほっとする。

「それにしても、よく応援に行かれますよね!
 スポーツお好きなんですね!」
「あ、はあ、見るのは…ですけど」
「ジョギングはまだ続けてらっしゃるんでしょ!
 良かったら長距離走るコツ、教えますよ!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」

じゃあ明日の朝に…と話をしていたその時。
大音量のサイレンが鳴った。

「皆さん、北20kmの地点で災害が発生しました。
 到達予想まで後20分。急いで避難して下さい。
 皆さん、災害が発生しました……」

「幸田先生…!」
「まだ登校時間です、我々は校門へ!」
「はい!」
「私が正門へ行きます、高原先生は南門へ!
 鍵はそこの壁に!」
「えっ、でも、北は!!」

正門は学校の北側にあたる。
少しでも到達が遅いほうを高原先生に譲り、幸田先生はサムズアップして言った。

「1秒差で、助かる命もありますから!」

1秒…1秒か。
どこかで…。

いや、今そんなことは考えるな。
高原先生も南門の鍵を握りしめ、走り出した。
今は生徒を守ることが大事…。

必死で走り、南門を開ける。
外でもサイレンが鳴っている。
生徒に混じって通勤中の人たちも入ってくる。

「入口は…!」

入口にはすでに各部の顧問が待機し、走ってくる人たちを誘導していた。
訓練の賜物だ。
外へ出て誘導するべきか…悩んでいたその時、サッカー部の部長がこちらへ走ってきた。

「高原先生!僕が外を見てきます!
 シェルターへ行ってください!」
「はい、でも、部長さんは!?」
「僕なら大丈夫、走るのは得意ですから!」

どうやら2日前のやらかしが、各部へ回ったようだ。
先生は素直にその言葉に従ってシェルターへ…

「そうだ…!」

学校の北側。
そこは商店街のある場所。
ここよりも早く魔獣が到達するはず…。

「みんな、無事かな…」

魔獣を討伐するのは魔導師の仕事だ。
魔導師しか討伐はできない。
普通の人間には、祈ることしか…

「北、20㎞…警報から今…3分」

魔獣の速度は時速60㎞。
車と同じ速さで走っている。

「時速60㎞、なら、中型から大型」

何匹いる?避難指示の範囲はどのくらい?

先生はゆらり、と向きを変え、理事長室へと向かう。
そこになら情報があると確信している。
シェルターへと急ぐ人たちに、先生の姿はすでに見えない。
そこにいるのは…

影。
人ならぬ影のようなもの。


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