先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

文字の大きさ
上 下
45 / 88
先祖返りの君と普通の僕

【機関にて】混乱 1

しおりを挟む
「どういうことだ!?」
「わかりません、我々が行ったときにはもう、魔獣は討伐されており…魔石だけが」
「すぐに定点カメラの映像を確認しろ!」

分からない。
災害が起きて23分、その地区を担当するチームが到着したときにはすでに魔獣はおらず、7つの魔石が転がっていただけだった。
誰が倒したのか想像もつかない。

「海中から出てきたんだったか」
「そうです」
「7体?」
「魔石の数からすれば、そうです」
「大きさは?」
「魔石の大きさからするに、中型かと」

中型の魔獣を7体も……。
それを1人で倒せるものなど限られる。
可能性としては…

「多禍原家か」
「……ですが3人とも出動していません」

現在の「多禍原家」は3名だけ。
それも動いていない。
そもそも彼らは大型の魔獣、もしくは10頭以上の魔獣がまとめて現れた時にしか出動しないことになっているため、出動要件を満たしていないのだ。

ということは…。

前回の大災害で、魔力の高い「多禍原家」に属する魔導師は3人が死亡し、1人は
今いるメンバーは、当時まだ教育機関にいた2人と、唯一生き残った1人で構成されている。
今の状態で大災害を迎えれば、戦線は崩壊するだろう。
だが、の彼が戻ってくれば、問題は解決する。

上層部では緊急の会議が行われた。

最強シュクはまだ一郎のままなんだろう?」

理事長が答える。
「ええ、そうです。
 教師として働くことで何かいい刺激があればと…
 ですが、多禍原朱紅タカハラシュクとしては起動しません。
 マギスに壊されたうえ、別の記憶を刷り込まれましたので」

彼女は無表情でそう告げる。

別の男と理事長が話す。
「魔獣を前にすれば、動くということは?」
「どうでしょうか…。
 ただ、災害が起きた場所からほど近い場所に彼がいたことは分かっています」
「ならば、この魔獣を倒したものは彼…という可能性が非常に高い?」
「そうです、ただ確実な事はわかりません。
 彼に変化も見られません」
「そうか…」
「試しに魔獣の前に放り出してみたらどうかね?
 そうすれば命惜しさに起動するかもしれん」

理事長が言う。

「その為に他の魔導師を危険にさらすのは…。
 確かに起動条件さえ分かれば、すぐにでも彼をクビにして機関へ復帰させられますが」
「問題ない、連れていくものは命の危険があれば転移してくるだろうし、使えないものが死んだところで大勢たいせいに影響はない…魔石さえ回収出来れば」

その時だ。
どこかから声がする。

「ま~だそういうこと言ってんの?
 だから駄目なんだって。
 何度言ったら分かるの?
 脳味噌ないの?
 機関は馬鹿の集まり?
 今すぐ乗っ取ってやろうか」

「な…!誰だ!?」

「誰だ~だってよ、ははははは。
 マギスのもんだよ、バーーーーカ」

「な…!」

「悪いけど、あいつ大陸で貰うわ。
 本人はそっちでの生活が気に入ってるみたいだから、そっちで暮らせるようには計らってやるけどさ、お前らが変に手出ししたらきっついお仕置きくらわすから。
 監視もこっちでつけとくし、よろしく」

ズズーー、と何かをすする音が聞こえて、静寂。

機関がその後大混乱したのは言うまでもない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

螺旋の中の欠片

琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★

【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。 キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。 高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。 メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。

処理中です...