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先祖返りの君と普通の僕
【機関にて】混乱 1
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「どういうことだ!?」
「わかりません、我々が行ったときにはもう、魔獣は討伐されており…魔石だけが」
「すぐに定点カメラの映像を確認しろ!」
分からない。
災害が起きて23分、その地区を担当するチームが到着したときにはすでに魔獣はおらず、7つの魔石が転がっていただけだった。
誰が倒したのか想像もつかない。
「海中から出てきたんだったか」
「そうです」
「7体?」
「魔石の数からすれば、そうです」
「大きさは?」
「魔石の大きさからするに、中型かと」
中型の魔獣を7体も……。
それを1人で倒せるものなど限られる。
可能性としては…
「多禍原家か」
「……ですが3人とも出動していません」
現在の「多禍原家」は3名だけ。
それも動いていない。
そもそも彼らは大型の魔獣、もしくは10頭以上の魔獣がまとめて現れた時にしか出動しないことになっているため、出動要件を満たしていないのだ。
ということは…。
前回の大災害で、魔力の高い「多禍原家」に属する魔導師は3人が死亡し、1人は行方不明。
今いるメンバーは、当時まだ教育機関にいた2人と、唯一生き残った1人で構成されている。
今の状態で大災害を迎えれば、戦線は崩壊するだろう。
だが、行方不明の彼が戻ってくれば、問題は解決する。
上層部では緊急の会議が行われた。
「最強はまだ一郎のままなんだろう?」
理事長が答える。
「ええ、そうです。
教師として働くことで何かいい刺激があればと…
ですが、多禍原朱紅としては起動しません。
マギスに壊されたうえ、別の記憶を刷り込まれましたので」
彼女は無表情でそう告げる。
別の男と理事長が話す。
「魔獣を前にすれば、動くということは?」
「どうでしょうか…。
ただ、災害が起きた場所からほど近い場所に彼がいたことは分かっています」
「ならば、この魔獣を倒したものは彼…という可能性が非常に高い?」
「そうです、ただ確実な事はわかりません。
彼に変化も見られません」
「そうか…」
「試しに魔獣の前に放り出してみたらどうかね?
そうすれば命惜しさに起動するかもしれん」
理事長が言う。
「その為に他の魔導師を危険にさらすのは…。
確かに起動条件さえ分かれば、すぐにでも彼をクビにして機関へ復帰させられますが」
「問題ない、連れていくものは命の危険があれば転移してくるだろうし、使えないものが死んだところで大勢に影響はない…魔石さえ回収出来れば」
その時だ。
どこかから声がする。
「ま~だそういうこと言ってんの?
だから駄目なんだって。
何度言ったら分かるの?
脳味噌ないの?
機関は馬鹿の集まり?
今すぐ乗っ取ってやろうか」
「な…!誰だ!?」
「誰だ~だってよ、ははははは。
マギスのもんだよ、バーーーーカ」
「な…!」
「悪いけど、あいつ大陸で貰うわ。
本人はそっちでの今の生活が気に入ってるみたいだから、そっちで暮らせるようには計らってやるけどさ、お前らが変に手出ししたらきっついお仕置きくらわすから。
監視もこっちでつけとくし、よろしく」
ズズーー、と何かをすする音が聞こえて、静寂。
機関がその後大混乱したのは言うまでもない。
「わかりません、我々が行ったときにはもう、魔獣は討伐されており…魔石だけが」
「すぐに定点カメラの映像を確認しろ!」
分からない。
災害が起きて23分、その地区を担当するチームが到着したときにはすでに魔獣はおらず、7つの魔石が転がっていただけだった。
誰が倒したのか想像もつかない。
「海中から出てきたんだったか」
「そうです」
「7体?」
「魔石の数からすれば、そうです」
「大きさは?」
「魔石の大きさからするに、中型かと」
中型の魔獣を7体も……。
それを1人で倒せるものなど限られる。
可能性としては…
「多禍原家か」
「……ですが3人とも出動していません」
現在の「多禍原家」は3名だけ。
それも動いていない。
そもそも彼らは大型の魔獣、もしくは10頭以上の魔獣がまとめて現れた時にしか出動しないことになっているため、出動要件を満たしていないのだ。
ということは…。
前回の大災害で、魔力の高い「多禍原家」に属する魔導師は3人が死亡し、1人は行方不明。
今いるメンバーは、当時まだ教育機関にいた2人と、唯一生き残った1人で構成されている。
今の状態で大災害を迎えれば、戦線は崩壊するだろう。
だが、行方不明の彼が戻ってくれば、問題は解決する。
上層部では緊急の会議が行われた。
「最強はまだ一郎のままなんだろう?」
理事長が答える。
「ええ、そうです。
教師として働くことで何かいい刺激があればと…
ですが、多禍原朱紅としては起動しません。
マギスに壊されたうえ、別の記憶を刷り込まれましたので」
彼女は無表情でそう告げる。
別の男と理事長が話す。
「魔獣を前にすれば、動くということは?」
「どうでしょうか…。
ただ、災害が起きた場所からほど近い場所に彼がいたことは分かっています」
「ならば、この魔獣を倒したものは彼…という可能性が非常に高い?」
「そうです、ただ確実な事はわかりません。
彼に変化も見られません」
「そうか…」
「試しに魔獣の前に放り出してみたらどうかね?
そうすれば命惜しさに起動するかもしれん」
理事長が言う。
「その為に他の魔導師を危険にさらすのは…。
確かに起動条件さえ分かれば、すぐにでも彼をクビにして機関へ復帰させられますが」
「問題ない、連れていくものは命の危険があれば転移してくるだろうし、使えないものが死んだところで大勢に影響はない…魔石さえ回収出来れば」
その時だ。
どこかから声がする。
「ま~だそういうこと言ってんの?
だから駄目なんだって。
何度言ったら分かるの?
脳味噌ないの?
機関は馬鹿の集まり?
今すぐ乗っ取ってやろうか」
「な…!誰だ!?」
「誰だ~だってよ、ははははは。
マギスのもんだよ、バーーーーカ」
「な…!」
「悪いけど、あいつ大陸で貰うわ。
本人はそっちでの今の生活が気に入ってるみたいだから、そっちで暮らせるようには計らってやるけどさ、お前らが変に手出ししたらきっついお仕置きくらわすから。
監視もこっちでつけとくし、よろしく」
ズズーー、と何かをすする音が聞こえて、静寂。
機関がその後大混乱したのは言うまでもない。
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