先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

全国大会行脚、スタート

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高原先生は10月の予定を見た。
土日はすべて各部の全国大会で埋まっている。
この国は大きく24地区に分かれているので、出場チームは24だ。
バドミントンや卓球、バスケットボールに陸上は2日間で大会が終了する。
バレーボールは祝日を利用して3日間で大会を行う。

各スポーツ連盟は、応援団のことも考えて、それぞれ別の日に大会を開催する。
サッカーやラグビーの全国大会は、他の競技の全国大会が終了してから少しづつ行われる。

「明日はバドミントン…始発で電車乗れば間に合うかな」

金曜日の先祖返りの生徒の集まりに出ているうちにみんなと仲良くなった高原先生は、全国大会に出る全ての部活を応援することが自然になった。
各部の顧問が気をまわしてくれたおかげで、大会シーズンは土日出勤もない。

今日は授業が終わったら河川敷で商店街チームと野球部の合同練習をして、その後また先祖返りのみんなとの集会が夜8時に出て…家に帰ったら10時を回る。
ご飯を食べてお風呂入ったらすぐ寝なきゃな…と思っていたら…

「高原先生のぶんもホテルの予約取ってますんで、今晩一緒に出発しませんか」

とバド部の顧問に声を掛けられた。

「いやあ、そこまで甘えるわけには…」
「いえいえ、応援に来て頂くんですから、これくらい当然ですよ」
「でも、遅くなりますし…夜8時から1時間ちょっと、予定があって」
「ああ、知ってますよ!僕と寮長も10時ぐらいに車で出ようと思いましてね、練習後に用具を積んだり、自分の宿泊セットも用意しないといけませんし…」

知ってるんだ…と高原先生は少し驚きつつ、

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

と返した。

ーーーーーーーーーーーー

夜10時。
高原先生が3日分の宿泊セットを持って待ち合わせの場所に行くと、すでに大きめのバンが止まっていた。

「すいません、お待たせして!」
「いえいえ、大して待ってませんよ!
 先生、すいません、狭いんですが後部座席へお願いします」
「こちらこそ…疲れたら運転代わりますね」
「いえいえ!会場まで5、6時間ですし、僕と寮長で間に合いますから。
 ずっと寝ていてもらっても良いですよ!
 サービスエリアに着いたらお知らせしますね」
「じゃあ出発しますか」

三人で車に乗り込んで学校を出発する。

「どこの部も、こうやって前日に向かうんですよ。
 部員たちは部長と先に電車で出ましたから、現地で集合です」
「そうなんですか、大変ですね」
「いえいえ、全国大会に出るともなればOBやOGからいくらか寄付も貰えますし、学生を安く泊めてくれるプランもあったりで、それほど金銭的に困ることは無いんですよ」
「いや、お金のこともですけど、こうやって長距離移動したり、生徒の生活を支えたり…ホテルの予約だけでも大変でしょう?こうやって強豪部を支えるっていうこと自体が大変だなって。
 野球部にはそれが無いからなあ」
「まあ、確かに」
「比較するのも何ですが…野球部は地区大会までしか出られないですし。
 その代わり、地域の方と野球を通じて仲良くなったり…そのつながりで地域の色んな行事にも参加できますし、野球以外のことも色々やってたり、部活の内容が違いすぎますからねぇ」
「半分生徒会みたいですよね」
「そうですね、ただ学内で活動が留まらないので、そこの調整が大変ですかね…」
「どちらかというとPTAみたいですね」

PTAとは何だろう?
高原先生は疑問に思ったが聞くのは止めた。
小学校や中学校の記憶が無いと言うと、また変な空気になると思ったからだ。

「でもいいんじゃないですか?
 スポーツを通じての交流って、なかなかできる事じゃないですよ」
「そうですね、学校のグラウンドが無くなったときはショックでしたけど、結果的にそれが良かったです。
 これで来年、野球部に入ってくれる子が増えてくれたらいいんですけど…」
「近所の中学校に行って地域活動に興味のある子に声を掛けてもいいかもしれませんね。
 僕らは実績のある子のところへ勧誘に行ったりもするんですよ」

いやいや、強豪部は活動範囲が広くて大変だな…
と、他人事のように高原先生は思った。



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