先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

地区大会とその帰り

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今日もたくさんの差し入れを捌き、すっかり関係者扱いになってしまった先生は、スタンドからではなくベンチからサッカー部を応援する。

「いけー!頑張れー!」
「すごい!」
「えー!なんで!?」

サッカー観戦は2回目だが、先生は未だにオフサイドなるものがよく分からない。

「ルール覚えなきゃなあ…」
「はは、時々変わりますから大変ですよ…ディフェンス!気を抜くな!」

小田君がいるから大丈夫…という慢心が見える「らしい」ディフェンス陣に、部長が檄を飛ばす。
高原先生もつられて、応援をする。

「守備も頑張れー!」

・・・・・・・・

終わってみると6-0。
サッカー部は危なげなく次に駒を進めた。

「良かった!みんなすごいね!かっこよかった!ね、北島先生!」
「そうですな。みんな、よくやった!」

ベンチに帰ってきた生徒たちを一人一人労う先生と顧問。

「うはは、先生がまさかこんな近くで見てるとは思わなかった」
「先生の声、部長より小さいのによく聞こえるんだよな~。応援ありがとう!先生!」

小田君に矢吹君も帰ってきて言う。最後に帰ってきたのは樫原君。

「先生、こんなところで見てたんだ」
「うん、関係者の方はこちらですよって、大会運営の人に案内されたの。
 樫原君、すごくかっこよかったよ!」
「本当?どのへん?」
「全部!」
「お…おう、あ、ありがと…」

まるでカップルのような二人の会話に、全員が「聞いてないふり」をした。


----------

午後はラグビー部の応援だ。

グラウンドに入る前に先祖がえりの河本君と少し話したのを見られたのか、ここでもやっぱり多少の差し入れを受け取る係になった。
もはやいつものことなので気にしない。
地区大会にいく先々で、差し入れを受け取る担当になってきたからだ。

ちなみに一番大変だったのは卓球部の猫型獣人、本山さんのときだ。
外国から見に来た人がいて、一生懸命慣れない外国語を話すはめになった。
その人は、それはそれは情熱的で…「お前は彼女のなんだ!」と喧嘩になりかけたことを思うと、

「平和だな…」

高原先生はそう呟いて、差し入れを保管しにロッカールームへ行く。
またもそのままフィールドに案内される。

「関係者の方はこちらですよ!そっちはスタンドです!」

やっぱり関係者に見えるんだな…悪いなあ。
でも、違います、ただの応援ですって言えない雰囲気なんだよな…。

実は「高原先生の声には、生徒たちを奮い立たせる何かがあるようだ」と気が付いた各部の顧問及び部長が、「応援の声が届く位置に高原先生を…」という思惑から、当人には無断で関係者として登録しはじめているからなのだが…
肝心の当人は、それに気が付くことは無かった。

「すいません金山先生、僕、ここへ案内されてしまって…先生から、係の人に、言ってもらえないですか?
 この人は関係者じゃないですよって…」

ラグビー部の顧問から言ってもらえば、きっと間違いだとわかるだろう。
そう思って先生はどこの部でもそうお伺いを立てるのだが…

「問題ないですよ!差し入れの受け取りをして頂いてますから、関係者のようなものですよ」

と、どこの部でも「ここで見ていいよ」と言われるのだ。

「先生、試合が始まりますよ!」
「あっ、はい!みんな、リラックスだよ!頑張ってね!」
「どっちだよ先生!」
「あ、ほんとだ…どっちだろ?どっちもかな!ファイト!」
「おー!」

河本君にツッコまれて照れる先生、笑顔になる生徒たち。
完全に力みがなくなり、程よい緊張感だけが残る。

高原先生の力が何なのかはわからない。
でも、全員にいい影響を及ぼしてくれる存在であることは確かなようだ。
サッカー部に独占されなくて良かった…と、ラグビー部の顧問はにっこり笑った。

・・・・・・・・・・・

ラグビー部の結果は65-24で勝利。
高原先生はみんなに頑張ったね、と声をかけ終わってから、
河本君の毛並みが悪くなっていないか確かめた。

針で指をさしてちょっとだけ出た血を分ける。
河本君の毛にツヤがでる。

「元気になった!ありがとう先生!」
「うん、ちょびっとでごめんね。急にふさふさになると色々言われちゃうからさ」
「全然!応援、ありがとね。みんなも喜んでた。
 次の試合も、見に来てね!」
「うん、都合がついたらね」

高原先生は、いつも「絶対来る」とは言わない。
しかし、都合がつけば本当に来る。
なるべく嘘のない人生を送りたいから。




帰りもサッカー部のバスに乗って帰る。
行きと同じように樫原君の隣に座って、
今日一日の事を考えながらウトウトし…
先生は浅い眠りにつく。

薄いもやの向こうで小田君の声がする。

「かっしー、その、さ。
 あんま独占欲前に出さないほうがいいぜ?」
「何がですか?」
「告白してOKも貰ってねえのに彼氏ヅラすんの、本当は良くないからな?外堀から埋める作戦なのは分かるんだけどさ…露骨すぎんのよ」
「……はい」
「ちょっとヤキモチ焼く、程度に収めとけよ。
 自分のせいでかっしーがチームメイトから嫌われるようになったりしたら、先生が辛いだろ」
「……はい」
「大丈夫だって!
 先生もかっしーの事、好きだと思うぜ」……

うん、そうだよ、樫原君のことは…好き。
一緒にいたいなって思うこともあるよ。
だけど、僕、教師だからさ……

「……ごめんね、かしはらくん……」
「!!!」



急に寝言で謝罪を口にされた樫原君の複雑な胸中を察してか、小田君が言う。

「……卒業式で告ったらいいじゃん。今どうしても誰かと付き合いたいって訳じゃないんだろ?」
「……」
「それか、来年全国獲ったら付き合ってくれって、今から言っとくか」
「……そうします」
「んじゃ決まりだな…あ、当然今年も獲るから。
 そのへんヨロシクな!」
「はい」



実は小田君も、隠れて付き合っている彼女に
「お前の為に全国獲るから!」と約束していることが分かるのは…


小田君の結婚式でのこと。
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