先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

樫原君のきもち

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樫原君は、今も魔導士の話をするのが苦手だ。

前は、お父さんとお母さんの死んだ瞬間を思い出して辛くなるから…だった。
今は、高原先生を思い出して困るから…だ。

入学式で高原先生を見かけて、あんまりあの日の魔導士に似ていたから、驚いた。
本物だろうと思って、喧嘩を売ったり、有りもしない罪を責めたりしたけれど…何もまともに答えてくれなくて、イライラが募って、酷い事を沢山言って。

お兄さんを亡くしたことを教えられて。
魔導士も死ぬんだって聞かされて。
うそだ、そんなわけない…と思ったけど、
「魔導士も人ですからね」って…言われて、
言い返せなくて。

そうしたら、一学期の途中に、明日から会わなくて済むようにすると言われて…

全然会えなくなってしまって。
でも何とか会いたくて…謝らなきゃいけないから。
謝らないと自分が駄目になるって…身勝手な理由で、謝りに行って、そしたら許してくれて。

「君のほうが大事だよ」

って、それで、仲直りしてくれて…

「応援してるよ」

って、微笑んでくれた。

その時から樫原君のなかで、魔導士の話で思い出すのは両親でなく高原先生になった。

なのに、そのあと、急に高原先生が休職して…
また、会えなくなった。

でも、高原先生は帰ってきた。
今度は頻繁に会えるようになった。
何があったのか分からないけど、帰ってきた高原先生は、去年と雰囲気が違って、

体力が無さすぎて、すぐへばるし。
体力が無さすぎて、どこででも寝るし。
体力が無さすぎて…心配になるし、
細すぎて…心配になる。

何より、優しすぎて、心配になる。

先生は、自分が普通だと思っているけど、
朝飯は食べないし、お人好しだし……無防備だし。

小田先輩に囓ってもいいよとか言うし、そのうえ、川田にまで囓らせてやる約束をするなんて…!
贔屓はいけないって、そういうことじゃない!

前の先生は、心配なんて必要なかった。
そういうところを見せてくれなかっただけなのかもしれないけれど、冷たい雰囲気だった。

「尻尾に触りたい」

なんて、絶対に言わなかった。

あの日の先生は、すごく可愛くて、甘やかしてあげたくなって…だから尻尾も、頭も、触らせてやった。
そしたら幸せそうな顔で寝てしまって…。
その顔を思い出すと、心が熱くなる。

随分距離が近くなった。
守ってあげられる距離に、なった。
朝飯も、自分の金でじゃないけど…面倒みてあげられる距離になった。

先生を普通の人間にしてあげたい、
樫原君はそう強く思った。

先生は、優しすぎるとこを付け込まれて、どんな目に合わされるかわかったもんじゃない。

今までだって…
勉強についていけない生徒にせがまれたからって特別授業をやらされたり、野球部のやつらに頼まれたからって顧問をやらされたり、うちの顧問のやつにグラウンドを奪われたり、…先祖がえりの生徒みんなに詰め寄られて、血を舐められたり…

あの後の、「行き過ぎたスキンシップ」も…
許して、くれたり。


つけ込んでるのは自分もじゃないか?
そう思うと、樫原君は、自己嫌悪に陥る。

でも、どうしてもそうしたくて。
先生の味を…いや、汗の味を知りたくて…
囓るのを許してくれるんなら、舐めるくらい…
許されると思って…。

そ、そういうとこが、無防備だっていうんだ!
やっぱり俺がちゃんと見てやらないと…
駄目だな!!


………
樫原君はそんなことを考えながら、今日も夜まで一通りの練習をした。
この後は、夢も見ないで寝る予定……

今日は水曜日。
高原先生の血を舐めさせてもらえるのは、金曜日。

だから、今日はしっかり寝なくちゃ…





そんな彼が恋を自覚するのは…

3日後に見る、夢。


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