先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

イチゴミルク再来

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「ホントまじでどーなってんの、おたくら」

医務室のベッドの上に虚ろな顔で座る高原先生を見て、イチゴミルクの男は溜息をつく。

「これで「うちは壊してない」って、ほんと良く言うよね、遅かれ早かれ壊れてたんじゃねーの、こいつ」

理事長は言い返す。

「今回のことは、彼にも問題があります!
 彼が朝早く学校に来て体力作りなどしなければ、サッカー部の生徒と交流を持たなければ、」
「それ本気で言ってんの?
 言ってんじゃん、ちゃんと人権守りましょうねってよ、おたくらさあ、人権って何かわかる?」

そこまで言うと、彼はまたイチゴミルクを飲む。
急に高原先生がしゃべりだす。

「じ、じんけん、にんげんは、うまれながらにもってる、けど、まどうし、ない」

「た、タカハラ!!!?」

「かわりに、ませきある、がまん。くにに、ほご、されて、いいくらし。ぜいきん、くう、だから、ぎむ、ぎむ、はたす、たくさん。そしたら、ふつう、なれ、なる、やくそく、した。ま、じゅう、ひとり、で、ひゃく、ころす。ふつう、してやる、だ、だから、こうよ、と、おれ、がんばった、のに、こうよ、さき、しんだ、」

「お、おい!?」

「ぎ、ぎむ、はたした、だから、ふつう、なった、でも、ぎ、ぎむ、ぎむ、まだ、ぎむ、ぎむ、」
「やめろ、タカハラ!」
「や、やだ、いやだ、でも、いや、だめ、だめ、いや、けんり、ない、ない、なんで、ぎむ、ぎむ、
う、うあ、あーーーーー~~」

「タカハラ!」

イチゴミルクの男が叫ぶ。
プツ、と電源が落ちるように、高原先生は倒れ…

すぐに、むくっと起き上がった。

「…あれ、刑事さん?」
「……た、たか、はら?」
「うん、そうだよ、高原一郎だよ。ちゃんと会いに来てくれたんだ。僕ね、野球部の顧問になったんだよ。サッカー部の先生が意地悪でね、僕らのこといじめるんだ。だから、河川敷のグラウンド借りようかなって考えてるの。兄さんの遺産もあるし、お金には困ってないからさ、少しぐらいいいよね。それとね、今日、サッカー部の子がね、いい匂いするっていうから、ちょっと囓らせてあげたの、そしたらみんなモフモフになってね、すごいジャンプするの。不思議だよね。」
「へぇ、そうか、不思議だな。お兄ちゃんが魔導士だから、一郎にもそういう力があるのかもな」
「そう、それで、みんなでびっくりしてたらね、サッカー部の先生がやってきて、僕にね、オカマ野郎って言ったんだ、酷いよね。今はさ、そういう差別するような言葉、使っちゃいけないのに!」
「そうだな、駄目だな。先生なのにな」
「そうだよね、僕に、教師やめろっていうの、おかしいよね、そっちのほうがだめなのにさ」
「うん、そうだな。理事長、どう思う?」

急に理事長は話を振られて、慌てて言葉を返す。

「そ、そうね、駄目よね。私からしっかり指導しておきますからね」

イチゴミルクの男はキレた。

「は?クビにしろ。」
「でも、サッカー部は、今年は全国優勝が」
「問題のある顧問が付いてる方がリスクだろ、馬鹿なのお前。他人の性指向を決めつけて・差別して・恫喝するのが、マトモな指導者のやることか?
 今、すぐ、すげかえろ。ここでだ」
「で、でも、」
「呼び出してクビにしろ」
「は、はい、」

高原先生が、男を止めた。

「やめてよ!クビなんて、可哀想だよ」
「そうかな?うーん…やめて欲しい?」
「う…うん」
「分かった、じゃあクビは無しだ」

男はわしゃわしゃと一郎の頭を撫でた。

「うわあ~」
「お前は優しいなぁ」
「えへへ、そうかなぁ」
「うん、優しい。優しすぎる…ほんとに」

これだけの魔石持ちだ、嫌なら我慢せずぶち撒けてしまえば、機関を潰すまではいかなくても相当のダメージを与えられたはず。
そうしなかったのは、彼がとても優しい人間に育ったからだ。

「おたくら、人権への意識が無さすぎる割に、教育だけはしっかりしてんのな…ああ、この学校を褒めたわけじゃねえから、調子乗んなよ?」

購買でイチゴミルクしこたま買ってこい、と男は理事長に命令した。

理事長が不承不承出て行ったあと、彼は一郎と「好きなものについて」話し始めた。


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