上 下
163 / 206
向かえ!大団円

一夜明けて

しおりを挟む
魔物を数えきれないほど殺した、翌朝。

「誰も死ななくて、良かった…のかな」

まだぼんやりする頭で、宿屋のベッドから出る。
昨日アドレナリンを出し過ぎたのかな…
何だか体がだるいし寝汗も酷い。

隣のベッドを見ると、ヨークさんが毛布を跳ね飛ばして寝ていた。

…お腹が冷えたらいけないな。

俺はそっと毛布を掛け直して、ヨークさんを起こさない様に静かに部屋を出た。
取り敢えず水でも貰おうと、俺は食堂へ向かう事にした。
他の人も寝てるかもしれないのでできるだけ静かに階段を降りると、食堂の方から話し声が聞こえた。

「…の仕業で間違いなさそうです」

そこではブレックさんと騎士の人たちが話をしていた。

「やはり、自然にはあり得んと思ったのだ」
「ああ、繁殖期だとしても多すぎる」
「実は他の分隊から先程…」

他の、分隊…?
そうか、昨日のは石碑の前だけじゃ無かったんだ、他の所でも…!!
俺はブレックさんたちに駆け寄ろうとして、気が付いたブレックさんに制される。

「ロンバード様、お早うございます!
 お早いお目覚めですね、朝食はまだ先ですよ」
「あ、ああ、はい…水」
「ああ、お水ですね!
 …後ほどお持ちしますので、お部屋でお待ちください」
「は、はあ」

今すぐ飲みたいという程でも無かったし、よく考えれば水ぐらい自分で出せる。

「じゃあ、部屋で…待ってます」

何だかブレックさんの笑顔が少し怖かったので、大人しく引き下がる。

「何だったんだろう…」

さっきの話だと、他の場所でも何かあったみたいだ。
それに、自然にはあり得ないって…

一体、何が?

***

部屋に戻って待っていると、ブレックさんがレモンの輪切りが入った水を持って来てくれた。

「少し塩と蜂蜜を足しております」
「有難うございます」

良く冷えた蜂蜜レモン水を飲んで、一息つく。
ヨークさんはまだ寝ている…
昨日は遅くまで帰ってこなかったし、疲れてるんだろうな。

「その、ブレックさん…」
「先程は失礼致しました。
 一瞬、敵の間者ではと」

ブレックさんは俺に頭を下げ、小さな声で言った。

「スミス殿から、先ほど連絡がありました。
 索敵能力で分かる範囲と目視で確認できる範囲において、怪しい者は全て排除したそうです。
 ですが、念の為に防音の魔法を」
「…はい」

俺はこの部屋の中の音が外へ出ないように、しっかりと魔法をかけた。
それを確認してから、ブレックさんはごく控えめな声で話し始めた。

「今回の魔物は、人為的に引き起こされたもののようです」
「…やっぱり」
「驚かれないのですか?」
「その…、グリフォンの、卵を盗んだ人が…」
「…見てしまわれたのですね」
「……はい」

ブレックさんは静かに目を伏せて…

「…それなら、話は早い。
 森の中に人間が魔物の巣を荒らした形跡が多数見つかったそうです。
 まだ幼い魔物を殺し、高く売れる部位を切り取って捨てた跡も、同じく」
「そんな、むごい…」

相手が魔物だから何でもしていいわけじゃないって、なんで分からないの?
何でそんな事しようとするの?
第27騎士団から手柄を奪いたかったから?
それとも、騎士団に狩られる前に狩って、金儲けをしたかったから?
それとも、騎士団員を襲わせたかったから?

「その惨たらしい行いの報いを受けただろう死体も、多数発見されております」
「は…え、た…多数…?」

多数、となると組織的な犯行って事だ。
だったら理由は分からなくても、バックにいる人間は分かる。

「ってことは…バレン」
「ええ、奴が賊を森の中へ放ったのです。
 南東の農場にいた、ならず者どもを…」
「えっ、南東の…!?」
「しーっ…これはまだ、機密ですから」

ブレックさんによると、南東の農場はすでに奴らの手中に落ちた…とのこと。
比較的罪の軽い魔術師を移送した後すぐの出来事だったそうだ。

「あそこは現在、凶悪犯罪者のみを収監する場所になっております。
 刑場も併設されておりますし、元々そういう場所だったそうですしね」

ブレックさんによると、前王の治世下でいつの間にか「魔法が使える平民を収監する場所」として使われ始め、それが慣習になって「魔法を使える犯罪者専用の服役所」みたいになっていたらしい。

つまりダリル様の手によって「単純に」元に戻っただけの事なんだな。
だからこれだけの早さで動けたのか…。

「…証拠は、あるんですよね」
「ええ、この村の手前で優雅に野営をしていた魔術師がいたのを捕まえましてね」
「えっ…なんで?」
「何故、というのはこれから聞いてみないと何とも…」

ええ…何の為にそこで待ってたんだろ…
見物か何かか?
悪趣味だな…

「しかし、捕まえるのは簡単でしたよ。
 確かに魔術塔の方の言う通りでした…
 『魔法発動前に殴れたら勝てる』って」
「ああ…そうですよね」

やっぱり魔術師って基本的には後衛だよな…
って、あれ?
そう言えば、俺が見た隊には魔術師がいなかったけど…

「そういえば他の場所にいた隊に、魔術師は?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

【完結】気づいたら6人の子持ちで旦那がいました。え、今7人目がお腹にいる?なにそれ聞いてません!

愛早さくら
BL
はたと気づいた時、俺の周りには6人の子供がいて、かつ隣にはイケメンの旦那がいた。その上大きく膨らんだお腹の中には7人目がいるのだという。 否、子供は6人ではないし、お腹にいるのも7人目ではない?え? いったい何がどうなっているのか、そもそも俺は誰であなたは誰?と、言うか、男だよね?子供とか産めなくない? 突如、記憶喪失に陥った主人公レシアが現状に戸惑いながらも押し流されなんとかかんとかそれらを受け入れていく話。になる予定です。 ・某ほかの話と同世界設定でリンクもしてるある意味未来編ですが、多分それらは読んでなくても大丈夫、なはず。(詳しくは近況ボード「突発短編」の追記&コメント欄をどうぞ ・男女関係なく子供が産める、魔法とかある異世界が舞台です ・冒頭に*がついてるのは割と容赦なくR18シーンです。他もあやしくはあるんですけど、最中の描写がばっちりあるのにだけ*付けました。前戯は含みます。 ・ハッピーエンドは保証しません。むしろある意味メリバかも? ・とはいえ別にレイプ輪姦暴力表現等が出てくる予定もありませんのでそういう意味ではご安心ください

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移要素はありません。

処理中です...