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【過去ばなし】チート魔術師とチャラ男令息

幸せ家族

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ロンバードは有翔だった。

だけど、今生ではロンバードという立派な名前があり、公的にも私的にもすでにその名前で通っているから、混乱を避ける為に今後もロンバードと呼ぶことにした。

二人目の息子、セジュールが持って来てくれた奇跡。
俺は二人の事がかわいくて仕方なかった。
それなのに…。

「たった6ヶ月しか育休が無いとは…」
「仕方ないよギゼル。
 君はもう魔術局長なんだからさ」

この世界に育休と言う概念は無い。
ただ、出産後しばらくは母乳(父乳?)で育てる事が推奨されており、俺もそうするつもりだった。
この世界には、母乳を代替できるミルクが無い。
どうしても足りない栄養価がある…ヒト由来の魔力とかだ。
だから当然、乳飲み子の間は仕事を休まざるを得ない…と、思っていた。
なのに…。

「俺が居なくても困る事など無いと思うがな」
「じゃあ書類だけでも家に届けてもらう?」
「届けるだけで帰るなら良いけど、あいつら居付くからな…」

ロンバードを産んだ時の話だ。
俺は魔術局長になりたてで、おまけにギルドも発足したばかりだったから…
引継ぎはしたけど、心配な事があればいつでも家に来てくれって言ったんだ。

そうしたらこの家が、半分魔術塔の支部みたいになってしまった。

「ヨークに至っては毎日毎日朝から晩まで…
 あいつ学生もやってたのに、大丈夫なのかって…」
「ああ、あの子…もう今年卒業だっけ?」
「確かな」

ヨークはあの日一緒に売られた子どもたちの一人だ。
俺の3歳下で、ロンバードが生まれた時にはまだ学生だった。
今年卒業予定で、配属先は戦闘班…

「ああ、あの子か…もう良い人いるの?
 紹介したい子がいるんだよね、僕」
「いやまだ気が早いだろ」
「そんな事無いよ!あの子も子爵家の養子だもん、貴族は18歳までに婚約するのが普通だからさ」
「って言ったって、ヨークも別に貴族だった訳じゃないし…今年魔術塔に入ったばっかなんだから、急がなくてもさ」

今や、魔術塔は貴族だけのものではない。
セーユ殿から紹介してもらった魔法道具の職人たちや、ヨークみたいに途中から貴族になった奴。
少し前の俺の様に、騎士たちと行動を共にする平民出身の魔術師たち…
魔術師ギルドも入れれば、出会いはいくらでもある。

「だけどさぁ、あの子ギゼルの事好きでしょ?
 失恋させちゃった責任はとるべきかなって」
「そりゃ好かれてはいるけど、恋愛では無いと思うぞ?」
「…あやしい」
「怪しくないっての!」

ヨークは弟として俺に懐いてるんだ。
そんだけだって。

「だけど、毎日家にやってきてはワイワイやられたんじゃ、メルバにも迷惑だよな…。
 …と言うか、あいつらが寄ってたかって構うから、ロンバードに魔法の才が目覚めたんじゃないだろうな」
「君にしては非論理的じゃないか、ギゼル」
「そうは言うが、あまりにも恐ろしいぞ…あの『能力』も含めて」

あれからロンバードは次々に魔法の知識を欲しがっては、いつの間にか魔法で物を作り出して遊んでるし…。

良いか?
世の中の3歳児はな、生まれたばかりの弟のスタイを作ったりしない。
布を型紙通りに魔法で切り抜くとか無茶苦茶だし、うっかり針を刺した指を流れるように治癒したりもしない。
それから、木を魔法で器用にカットしておもちゃを作ったりもしない。
積み木のピースはもはや100を超え、それなのにまだ材木店が訝しむレベルで端材を買い込んでいる。

俺は息子が末恐ろしくて仕方ない。
だから元々こっちで生まれる予定だったのかもしれないと、最近では思うようになった。

イレギュラーで前世の世界に生まれてしまったから、大いなる意志か何かで強引に呼び戻された……
とすれば、多分俺もそう……かも、しれない。

「ロンバードは早い段階で、俺を超えるだろうな」
「そうなの?」
「ああ、そうなれば俺はロンバードに局長の席を譲って……悠々自適の生活を送らせてもらうか」
「それ、いいね!
 新婚さんらしい事、何もしてないもん」
「…そうか?」

いや、思いっきり三日三晩…その、えー…

しょ、しょ…しょや、って、ふつう一日だとおもうんだけど?
あんなにその、ずっと、あれ、あの…

「どうしたのギゼル、顔が赤いよ?」
「な、何でもないっ!!」

と、その時、セジュールの鳴き声が聞こえて…
俺は色々誤魔化す為にも、ゆりかごへと小走りで近づいた。

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