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プロローグ
王子・ダリルの感情
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ここは王宮の一室。
最も警備の厳しい部屋の一つで、ダリルは一人微笑む。
「あと3年…3年したらロンバードを手に入れられる」
学園から戻り執務をこなし、自室に入って婚約証明書を眺めるのが彼の日課だ。
それから王子は自室の机の引き出しを開け、蕩けたような笑顔になる。
そこには沢山の宝物が透明ケースに入れられて並んでいる…
ロンバードがくれた手紙。
ロンバードがくれた髪留め。
ロンバードがくれたブローチ。
ロンバードがくれたキラキラ包装紙の飴玉…。
心がすさんだ時にこれを見ると、癒される。
何故ならこれは、ロンバードの…
「全てが、魔法を使って出来ているなんて…」
手紙の文字は、インクを自在に操る魔法で書かれ。
髪留めやブローチの繊細な細工は、ガラスを溶かして操る魔法で作られ…しかも護身の効果まで付与されている。
極め付きはこの飴、ロンバードの代表作。
「これを食べるだけで、誰でも一回だけ魔法が使えるようになる…」
それは魔力を人に与える魅惑の飴。
食べれば一度だけ、自分の使いたい魔法が使える魔法の飴玉だ。
ロンバードはホイホイと他人にやるが、本当はお気楽に配って良い物ではない。
「本人は人を見て配っていると言っているが…困ったものだ」
怪我をして泣いている子ども。
誰かの病気を治したい子ども。
水が欲しくて泣く子ども…。
そんな子に「おまじないの飴だ」と言ってこれを配っている姿は、どう見ても「善人」そのもの。
なのに、最近になって急に弟を虐め始めた。
いや、謎の2人遊びを始めた…という方が正確だ。
学園の生徒は誰一人として本気にしていない。
どこの誰が見ても動きはおかしいし台詞は棒読みだし、あれを本当だと思う方が無理だろう。
今では「アレは本当の事としてしたり顔で報告してくる馬鹿を炙り出す罠なんじゃないか」とまことしやかに囁かれている…
そして、誰も炙り出されない。
THE・無駄の極み。
「大体、お前の人となりは有名だというのに…無理がありすぎるだろう」
おかげで、学園では変な噂が立ち始めた。
曰く、新しい魔法に失敗した後遺症で変になった。
曰く、第一王子の婚約が重荷になり変になった。
曰く、懐胎の秘術を受けるのが嫌で変になった。
曰く、弟が好き過ぎて変になった。
……最後の一つは、ロンバードの弟・セジュールが流したものに違いない。
年下の癖に生意気である。
この前、ロンバードに付いて王宮へ遊びに来た時もそうだった。
『えっ、ダリル殿下は婚約者なのに、お兄様の飴、それだけしか持ってないんですかぁ?
僕は食べ飽きる程頂いてるのに…ふふっ」
…殴っても良いと思う。
12歳児だけど。
「思い出したら腹が立ってきたな」
だが18歳と12歳、こっちは大人であっちは子ども。
だから殴るのはどうにも分が悪い。
不公平だ…弟だからって同じ家に住んでいるのもムカつく。
『私、お兄様とは今でも一緒にお風呂に入るんです…ふふっ、殿下は後3年、おあずけですね♡』
……殴っても良いと思う。
12歳児だけど!!
「…いかん、どんどん腹が立ってきた」
それというのも、最近ロンバードがあの弟と自分をくっつけようとしてくるからだ。
何処をどう見てそう思ったのか謎だが、自分がロンバードの卒業まで学園に研究生として居座る事を決めてから急に、
『ダリル様とセジュールって気が合うんですね!』
とか言い出して…。
「…まさか、俺が学園に残ったのを、勘違いしているのか?」
いや学園の研究室は3年制だぞ。
お前の卒業と同じタイミングで卒業なのだぞ。
お前の弟は入学したてだから、卒業まであと6…
あっ。
「まさか、飛び級すると、踏んで…」
いや、あの弟は確かに優秀だが。
今回の試験結果次第では、兄と同じ学年…
「っ、…あのクソガキ…!!」
こうしてはいられない。
あやつに出し抜かれてなるものか…!
「今以上に、ロンバードとの時間を作らねば」
学園でも、その他の場所でも見せつけてやらないと。
むしろ王妃教育を理由に王宮へ住まわせ…
「…だが、ギゼル殿に反対されている以上、それは出来んしな…」
義父のギゼル殿は真に恐ろしい人だ。
怒ると本当に雷が落ちる。
その傷跡は今でも王の間がある棟に残されて…
「…そうか、ギゼル殿に聞いてみれば、真意が分かるかも…」
ギゼルは選ばれた者しか入れない塔で、魔術局の局長をしている。
その塔へ入れるのは、カルト級に魔法の知識があるか、魔力が一定量を越えている人間だけ…
ロンバード程、とは言わないけれど。
「はぁ……」
王子はため息をついた。
そしてまた1人、呟いた。
「……メルバに聞く方が、早そうだな」
最も警備の厳しい部屋の一つで、ダリルは一人微笑む。
「あと3年…3年したらロンバードを手に入れられる」
学園から戻り執務をこなし、自室に入って婚約証明書を眺めるのが彼の日課だ。
それから王子は自室の机の引き出しを開け、蕩けたような笑顔になる。
そこには沢山の宝物が透明ケースに入れられて並んでいる…
ロンバードがくれた手紙。
ロンバードがくれた髪留め。
ロンバードがくれたブローチ。
ロンバードがくれたキラキラ包装紙の飴玉…。
心がすさんだ時にこれを見ると、癒される。
何故ならこれは、ロンバードの…
「全てが、魔法を使って出来ているなんて…」
手紙の文字は、インクを自在に操る魔法で書かれ。
髪留めやブローチの繊細な細工は、ガラスを溶かして操る魔法で作られ…しかも護身の効果まで付与されている。
極め付きはこの飴、ロンバードの代表作。
「これを食べるだけで、誰でも一回だけ魔法が使えるようになる…」
それは魔力を人に与える魅惑の飴。
食べれば一度だけ、自分の使いたい魔法が使える魔法の飴玉だ。
ロンバードはホイホイと他人にやるが、本当はお気楽に配って良い物ではない。
「本人は人を見て配っていると言っているが…困ったものだ」
怪我をして泣いている子ども。
誰かの病気を治したい子ども。
水が欲しくて泣く子ども…。
そんな子に「おまじないの飴だ」と言ってこれを配っている姿は、どう見ても「善人」そのもの。
なのに、最近になって急に弟を虐め始めた。
いや、謎の2人遊びを始めた…という方が正確だ。
学園の生徒は誰一人として本気にしていない。
どこの誰が見ても動きはおかしいし台詞は棒読みだし、あれを本当だと思う方が無理だろう。
今では「アレは本当の事としてしたり顔で報告してくる馬鹿を炙り出す罠なんじゃないか」とまことしやかに囁かれている…
そして、誰も炙り出されない。
THE・無駄の極み。
「大体、お前の人となりは有名だというのに…無理がありすぎるだろう」
おかげで、学園では変な噂が立ち始めた。
曰く、新しい魔法に失敗した後遺症で変になった。
曰く、第一王子の婚約が重荷になり変になった。
曰く、懐胎の秘術を受けるのが嫌で変になった。
曰く、弟が好き過ぎて変になった。
……最後の一つは、ロンバードの弟・セジュールが流したものに違いない。
年下の癖に生意気である。
この前、ロンバードに付いて王宮へ遊びに来た時もそうだった。
『えっ、ダリル殿下は婚約者なのに、お兄様の飴、それだけしか持ってないんですかぁ?
僕は食べ飽きる程頂いてるのに…ふふっ」
…殴っても良いと思う。
12歳児だけど。
「思い出したら腹が立ってきたな」
だが18歳と12歳、こっちは大人であっちは子ども。
だから殴るのはどうにも分が悪い。
不公平だ…弟だからって同じ家に住んでいるのもムカつく。
『私、お兄様とは今でも一緒にお風呂に入るんです…ふふっ、殿下は後3年、おあずけですね♡』
……殴っても良いと思う。
12歳児だけど!!
「…いかん、どんどん腹が立ってきた」
それというのも、最近ロンバードがあの弟と自分をくっつけようとしてくるからだ。
何処をどう見てそう思ったのか謎だが、自分がロンバードの卒業まで学園に研究生として居座る事を決めてから急に、
『ダリル様とセジュールって気が合うんですね!』
とか言い出して…。
「…まさか、俺が学園に残ったのを、勘違いしているのか?」
いや学園の研究室は3年制だぞ。
お前の卒業と同じタイミングで卒業なのだぞ。
お前の弟は入学したてだから、卒業まであと6…
あっ。
「まさか、飛び級すると、踏んで…」
いや、あの弟は確かに優秀だが。
今回の試験結果次第では、兄と同じ学年…
「っ、…あのクソガキ…!!」
こうしてはいられない。
あやつに出し抜かれてなるものか…!
「今以上に、ロンバードとの時間を作らねば」
学園でも、その他の場所でも見せつけてやらないと。
むしろ王妃教育を理由に王宮へ住まわせ…
「…だが、ギゼル殿に反対されている以上、それは出来んしな…」
義父のギゼル殿は真に恐ろしい人だ。
怒ると本当に雷が落ちる。
その傷跡は今でも王の間がある棟に残されて…
「…そうか、ギゼル殿に聞いてみれば、真意が分かるかも…」
ギゼルは選ばれた者しか入れない塔で、魔術局の局長をしている。
その塔へ入れるのは、カルト級に魔法の知識があるか、魔力が一定量を越えている人間だけ…
ロンバード程、とは言わないけれど。
「はぁ……」
王子はため息をついた。
そしてまた1人、呟いた。
「……メルバに聞く方が、早そうだな」
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