別にこいつとは付き合ってませんけど？

愛を誓ったその先に

北の街のお祭り

人の姿になったドラゴンちゃんに「先にバンデリンへ帰りなさい」と言ったところ、またもリゲルさんを掴んで空を飛んで行こうとしたので結局一緒に北の街へ戻る事に。

「んで、今までの巡礼は『外周の祠は右回り』ってなってるみたいなんだけど、最初は違ったんじゃないか、って」
「外周…内周は決まってないのか？」
「お告げで右か左が決まるんだ、今回は左」
「ふむ…不思議だな」
「まあ、不思議かどうかはさておきだ。
　右回りと決められている物を左回りにすると何か良からぬ事が起きる可能性があると思ってな」
「それで祠の中へ入ったかどうかを聞いたのか」
「ああ」

トモアキとリュールミエール王子が馬車で話をしているのを横で聞きながら、俺はずっと信仰の対象を「光の力」、つまり「光の力の源である神様」にする方法を考えていた。

とは言っても、みんなが信仰している対象が俺とも限らないしな。
そこを確認してからでないと…うーん。

「お城で教わったのと実際の所がズレてるかもしれないな…」

やっぱりみんなに聞いて回った方が早いか。
祈るのはカテキョの先生じゃなくて街や村のみんなだもんな。
カテキョの先生も「聖人様ならばご存じでしょう」って感じで、教義の事はさらっと教えてくれただけだし、自分でちゃんと調べないと。

そうでないと、神様ってどんな人なのって聞かれた時に困るもんな。
っていうか、本当は女の神様なんだよって事をどうやって伝えるかってのも問題だし…。

「けど、まずは隠された祠が先だな」

浄化の巡礼が終わっても、する事はいっぱいある。
まだ俺たちは道半ばなのだ。
だけど…

と、その時、御者台のクリスチーヌさんが言った。

「もうすぐ北の街で御座います」
「えっ…あ、ほんとだ！」

馬車の窓から身を乗り出して、進行方向を見る。
門の外まで人や馬車が溢れ、楽しそうな雰囲気が伝わってくる…。

あれから５日。
俺たちは無事に北の街へ戻った。

＊＊＊

街の外で馬車を停め、歩いて北の街へ入る。
みんな楽しそうに買い物をしたり食事をしたり、音楽を演奏したり、踊ったり…。

「すごい…お祭りだ」
「みんな楽しそうで何よりだ」
「なあトラさん、夕方まで自由行動にしようぜ」
「ええ勿論…
　皆！夕刻に領主の館へ集合。それまでは自由とする」
「「はい！！」」

ミシェルの号令で、リラさんはセトさんと、マルコさんはハイドさんと、セレスさんは王子と…

「がるぅ♡ぽにぽに」
「だから、子熊ではないと」

うーん、リゲルさんとドラゴンちゃんはどうしようかな。
リゲルさんはまだしも、ドラゴンちゃんに人間のルールとか分かるんだろうか…

「ドラゴンちゃん、リゲルさんのいう事ちゃんと聞ける？」
「ふふん、もしゅるぅい、うがうご！」
「…シゲル様、彼は何と？」
「宿屋にしけこんどけばいいんだろ、って」
「駄目じゃん」

仕方ない、俺とミシェルが一緒に付いていくしか…。
そう思ってミシェルに話しかけようとした途端、トモアキが言った。

「しょうがねえ、俺らのとこはトリプルデートだ」
「えっ」
「それぞれ手を繋いで、はぐれない様にな！
　じゃあ出発！」

トモアキはクリスチーヌさんの手を取り、ドラゴンちゃんはリゲルさんの背中に乗り…

「ミシェル、ごめんね」
「いや、何となくこうなる気はしていたから」

俺はミシェルの手を捕まえて、歩き出す。

「ねえ、俺、お腹すいた！」
「では食べ物を売っている店を探すか」

前に来た時はくすんでて、みんな元気が無くて…。
だけど今は子どもたちが笑って、楽しそうにしてる。
お店にはお客さんがいて、活気があって…

「あっ、聖人さまだ！」
「聖人さま！光を有難うございます！」
「聖人様！！」

俺に気付いて沢山の人が声をかけてくれる。
俺も嬉しくなって手を振りかえす。

「もう調子の悪い人はいない？」
「はい、おかげさまで！」
「それは良かった！」
「聖人様、有難う！」
「ありがとうせいじんさま！」
「うん、どういたしまして！」

俺はみんなに手を振って歩く。
キラキラした光が手から零れる…

「はは、やっぱシゲは凄いな」
「ええ、歴代最強であらせられます」

みんながありがとうって言ってくれる。
だから嬉しい。
だから俺も笑える。

「ほら、ミシェルも！
　聖騎士団の団長さんなんだから」
「えっ？」
「一緒に手を振ろう！ほら！」

こんな俺でも、一つ成し遂げられた事が嬉しくて…
俺は夕方までたっぷりとお祭りを楽しんだ。