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恋人同士になる試練

疑わしい事だらけ

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15番目の祠も無事終了し、外へ出ると夕方。

少し進んだ場所に無人宿泊施設があるというので、ちょっとばかし馬車で移動する。
馬車には俺とトモアキだけだ。
クリスチーヌさんは準備の為に先に行ってしまったからな。

「…ところでさ、トモは何でこの世界に呼ばれたんだろうな」
「そこはさすがに偶然だろ!疑り深くなってんなぁシゲ」

そう、なんもかんも疑わしい。
この世界が全部疑わしい。

「どこまでが偶然で、どこまでが作られた事なんだろうな」
「神はサイコロを振らないかどうかって?」

神様が用意したのは最初だけ…と考えるか、今も影響を及ぼしていると考えるか。
最初から全てを読んで作ったとしたら?

「知恵の実かぁ…」
「食ったら楽園追放されるってか?」
「この世界が楽園ならな!」

魔物は出るし闇の力は出るし、楽園とはちょっと言い難い。
人も服を着ているしな。
ああ、でも…

「なあ、闇の力を鎮めたら…トラネキサムは楽園になるのかな」
「うーん…そうしないために、闇の力をちょっと残すのかもしんないな」

なるほど、何事もバランスが大事。

「もし、浄化し過ぎたらどうしよう…」
「さすがに神様が止めに来るんじゃね」
「それが勢い余って死んだらどうするよ」
「先にお告げしてくれって言っとくしかないな」

…結局神頼みか。
なんかめっちゃ不安。

***

宿泊所に着いたら、早速お食事だ。

今日はいつもの豆スープとパン。
作ったのは俺とミシェル。

これが噂の聖人様料理か!なんて、みんな言いながらハフハフ食べる。

「…俺が作った料理って、光の力ある?」
「光の力っていうか、完全に浄化されてるから、身体の中が中和されるんじゃね?
 そんで元気になる」
「なるほどなぁ」

やっぱ物に光の力を宿すのは無理か。
って事は俺が行って光を浴びせないと駄目か。

「ところでリゲルさん、花の事なんですけど」
「おお、セレス様からお預かりした花ですな。
 あれはバンデリンで最も人気のある花の一つで、王家の所有する庭には必ず植えられております。
 大変育てやすく、種を撒いて2~3ヶ月で花が咲き始めます」

リゲルさんのその後の話に拠ると、この花には野生種と園芸品種があり、色と大きさが違うらしい。
野生種は森の中のあまり光の届かない場所を好み、園芸品種は光のある場所でも咲く。
そしてこの花は…

「色と大きさからするに、野生種でしょう。
 もしかすると、我々があの扉から出てきた時に種が付いていたのやも…」
「でも、それにしたってここまで飛んでくるには遠すぎません?」
「…確かに、そうですな」

するとセレスさんが言った。

「もしかしたら、バンデリンとトラネキサムは昔、交流があったのかもしれません」
「えっ」
「バンデリンの転移技師は、トラネキサムから来た女性の子孫だそうです。
 トラネキサムでは、魔力保有量は遺伝に寄りません。
 多かれ少なかれ全員が持っていますし、少ない同士結婚しても先祖がえりという事も多々あります。
 ですがバンデリンのように魔力を持たない者だけで出来た国であれば、魔力に遺伝が大いに関係するのでは?」
「……なるほど?」

セレスさんの話では、転移技師の数と魔力保有量からするに、魔力を持った人間が来た数は複数回が妥当ではないか…という事だ。
なるほど、そう考えると昔交流があったと考えても良さそうだ。

マルコさんが言った。

「それどころか、同じ国に住んでたかもしれないな」
「えっ、何でですか?」
「バンデリンとトラネキサムで、同じ言葉が話されているからです」
「え、この世界って単一言語じゃ…」

すると、一緒にテーブルを囲んでいた、年かさの行商の人が言った。

「いや、隣国じゃ言葉は別です」
「えっ!?」
「闇の力が酷くなる前は、他の国から多少の行商人が来てましてね。
 確かに違う言葉を喋ってましたよ」
「……!?」

…って事は、あの扉がバンデリンに繋がってるのは、もしかしたら偶然じゃない…?
リュールミエール王子の、バンデリンで見つからない運命の番が、トラネキサムで見つかるのも、偶然じゃなかったとしたら?

「…リゲルさんは、まだ運命の番が見つかっていないんですよね?」
「は、そうでございます」
「もしかして、リゲルさんの運命の番さんも、トラネキサムにいるかもしれませんね」
「もしそうであれば嬉しいですが、そう出会えるものでもありませんぞ?」
「はは…でも、希望はありますよ」

そう、そしてリゲルさんの運命の人がトラネキサムで見つかったら…
二つの国の間には、何かがあるって可能性が高まる。

トモアキが俺にだけ聞こえる程度の声で言った。

「俄然面白くなって来たな」

確かに旅は順調すぎる…内周で馬車が壊れた以外は。
記録を取り続けてるトモアキには、何が見えているんだろう。

やっぱりトモアキがこっちへ来たのも…
偶然じゃないと、したら…?

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