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恋人同士になる試練

南の祠 2 ~ミシェル視点~

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「…、ようやく、前室だな…」
「みんな良く、頑張った…」

今までの祠の倍近く時間をかけながら、私たちは何とか封印の間の前室へ着いた。
ここは石畳だ。ざっと見たところ穴も見当たらない。
だから安全な場所だろうとは思うが…

「念の為に最後に光、撒いとく」
「シゲル、体力は大丈夫か?」
「うん、それに封印の間に入ればいくらでも休めるし」
「そうか…」

シゲルが何かを唱え、部屋全体に光を撒く。
いつ見ても心打たれるような美しさだ…
何時にも増して素晴らしい。

シゲルはここまで暴走する事なくやってきた。
計画的に光の力を使えていたのだろうか、表情には余裕が見える。
強くなったのだな…シゲル。

「えっと、封印の間は…あれかな」
「ああ、そのようだ」

いつも頑張って練習しているし、民衆はそれを見ている。
街でも、練習がてらで良ければと、光を望む者たちに力を与えていた。
あれで信者が増えない訳がない…

シゲルを好きになる者が増えるのは、私としては業腹…実にむかむかしイライラする事ではあるが、その事がシゲルを守っているのだと思うと…複雑な気持ちだ。

私は未だにその事に折り合いを付けられないでいる。
自分だけのものにしたい気持ちは膨らみこそすれ消える事は無いのだ…駄目だと分かっているけれど。

「では、行こうか」
「うん」

私はシゲルと手をつなぎ、封印の間へと入る。
いつも通りに、入ってきた扉は消え、壁へと変化する。

「…良かった、合ってたね」
「ああ、もしこれが罠だったら神を恨むな」

「ほんとにね!今回は大変だったね」
「そうだな、光の力があって尚あれだけ出て来るとは…。
 無ければどれだけの魔物が詰まっていたものか、恐ろしいな」

「それね、通路の浄化に力取られて魔物まであんま届いてないかもしんないと思って」
「そうなのか?」
「うん、水イメージにした分、上の方には届きにくくなったかも…
 だから、使い分け…」
「シゲル!?」

急にシゲルの身体がぐらつく。
慌てて支える。

「大丈夫か?」
「うん、何だか急に疲れが…」
「先に休むか?」
「うん…」

シゲルは着替えるのも面倒なのか、ベッドに腰掛け、ブーツに手をかける寸前で私に言った。

「ごめん、ミシェル、脱がせて…」
「えっ!?あ、ああ!」
「だめだ、ねむ…」

くたり、とシゲルの身体から力が抜ける。
やはり無理をしていたんじゃないか…
困った子だ。

「…シゲル?」

どうしよう、シゲルが寝てしまった。
どこまで脱がせて良いのか…とりあえずブーツと、靴下、上着…ズボンも汚れてるから…脱ぐ、よな?

「…どきどきする」

どうしてだろう、今まで風呂に何度も入れているし、裸で抱き合ったり、セックスまでしてるのに…。

「…上のシャツも、かな…」

服を脱がせるたびシゲルの匂いが強くなる。
その匂いを肺いっぱいに吸い込む。

「風呂は…後でも、良いか」

それでも、シゲルは汚れた体でベッドに転がるのを嫌がるから、濡れタオルで全身を拭いておこう。

「その前にシゲルの匂いを堪能してから…だな」

良いよね?
だって、禁止事項ににおいを嗅ぐ事は入ってないし。
風呂に入れてくれとは言われてるけど…今すぐで無くても、良い…

「はぁ…、いい匂い、する…」

シゲルの匂いはお日さまの匂い。
落ち着く…この匂いが何よりも好きだ。
汗臭いからとシゲルは気にするが、この匂いが良いんだ…ふふ。

「浄化の巡礼が終ったら、けっこんしよう…」

ハンバーグの移動販売がしたいのなら、馬車も道具も私が用意しよう。
マキタ様に結納の品だと言って渡すのだ。
そうすれば、マキタ様とて突き返せまい。
その上で、私も当然旅に同行する。
テントは二つ積もう、私とシゲルの分、それからマキタ様とクリスチーヌの分。
それから…それから…。

「この匂いを、一生嗅いでいたい…」

何もかも包み込んでくれる、落ち着く…だけど、嗅いでいるうちに、次第に…体が、熱くなる…匂い。

「はぁ…っ、シゲル…」

こんな事をしている場合じゃないと、分かっていても、止められない。
好きだ…。
身体の奥底から、君を求めている。

「シゲル…シゲル」

巡礼が終っても、どうか、私のそばにいて。
一緒に生きていきたい…

ずっと一緒に、生きていきたいんだ。
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