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恋人同士になる試練

遠い国の王様 1 ~マルコさん視点~

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「…転移魔法ってのは便利だな」
「ああ、転移先を移動させちまえば好きなとこへ敵を呼び込める」
「この場所は…私が見た風景とは違うな」

俺たちは転移していきなり敵に囲まれた。
リュールミエール王子お気に入りの庭園にあったはずの転移陣が、城から離れた場所へ移動させられていたようで、そこで待ち伏せを食らったのだ。

「兄上、お覚悟!」
「何をする、ヴァンデミエール!」
「それは兄上が一番ご存知の筈だろう!」

どうやらこいつは第二王子様らしい。
そしてその後ろにいるのは第二王子様の私兵…つうか、部下…のほうが正しい表現かもな。

なんせ王子様の後ろで彼を邪魔しないように立っているわけだからして。

俺は軽くハイドとセレスに治癒を掛ける。
酔った感覚が無くなった2人も剣を抜き、敵に向かって立つ。

「王座欲しさに父に毒を盛った卑怯者め!」
「どの口が抜かすか、この愚か者共が!」

転移に慣れているリュールミエール王子は直後に敵に囲まれても落ち着き払って、俺たちより早く剣を抜き、飛びかかってきた弟と応戦している。

「父に毒を盛り、その足で何処へ逃げていた!」
「は、私とリゲルが居なくなった事をこれ幸いと、悪事を働いているのはそっちだろうが!」

しかし、この場に本人が出てきてこの状態ってことは…こいつ、悪巧みが出来るタイプじゃないな。
んー…ってことは、この作戦の裏で糸を引いてんのは第三王子か?

漁夫の利を狙うのは三つ巴の常道だし。

ここは一つカマかけてみるか…

「おい、第二王子様よ、弟に唆されて、こんなとこで戦ってる場合か!?」
「何っ!?」

リュールミエール王子じゃない方の虎耳の動きが止まる。
周りの連中は未だに戦闘中だが、こっちが引っかかれば充分だ!

「いいか、あんたが毒を盛った側でなけりゃ、三番目の王子様が盛ったんだ!」
「煩い!よそから急に来た者に何が分かる!!」
「あんたが毒を盛ったんでない事位は分かる!」
「なっ…んでだ!?」
「分かるさ、あんたの怒りには嘘が無い」

そう言うと、ヴァンデミエール王子は俺の顔をまじまじと見た。

どうやら当たり、らしいな。

まあ、本当は嘘だろうが良いのさ。
この場が取り敢えず収まって、出来ればあっちと手を組んで、さっさと王様を治癒しちまえば答えが分かる。

「俺はバンデリン王が毒に倒れたと聞いて、トラネキサムから派遣された治癒師だ」
「何っ!?」
「あんたが父親を助けたいなら、ここで争ってる場合じゃない。
 俺たちを王様のとこへ連れてってくれ!」

盛ったのがこいつだったとしても、父親が治せると部下の前で言われたら従わざるを得ない。
部下共のカッカした目を見れば、こいつらが義憤で動いているのが分かる。

とはいえ、これも一種の賭けだが…
と、リュール王子の方が俺の言葉に乗って弟に話しかけた。

「ヴァンデミエール、この方はトラネキサムの聖人様から遣わされた使者だ!」
「聖人様の!?」
「そうだ、この方々は、今行われている浄化の巡礼の合間を縫って、ここに来て下さっている」
「…!!」

どうやら聖人様の威光はこの国まで届いているらしい。
こいつは何よりだ。

「早くしないと、彼らにも時間が無い。
 巡礼の旅を遅らせる事は世界を裏切る事。
 …分かるだろう?」
「…ああ、分かった!
 皆の者、剣を納めよ!
 この方は父王を治癒するために聖人様がお使わしになった治癒師だ!
 急げば父は助かるかもしれん!行くぞ!!」

第二王子は部下に号令をかけると、俺たちに付いてきてくれ、と叫んで駆け出した。

***

服を脱ぎ、獣の姿になった彼らの背に乗って一目散。

リュール王子はセレスを乗せ、俺はリゲル殿に背負われ、ハイドは狼の部下に背負われて、平原を抜け、広場を突っ切り…

「父はまだ城か!?」
「そうだ、城の中の……っ!」
「……やっぱそう来るか」

城の前には軍が展開していた。
そして、城門の上から三人目の虎耳が吠えた。

「みんな!あの人たちが、お父様を殺そうとしたんだよ!
 ぼく、許せないよ!やっつけてよ!」
「はっ!」

なるほど、あっちは子どもであることを最大限に利用するタイプか。

「となると、なかなか面倒だな」

まだ子どもの第三王子に大それた事は出来まいと皆が思い込まされているんだろう。

子どもだろうが、やるときはやるさ。
王家の血ってのはそれほどのもんだ…
でなければ、後ろで糸を引く大人がいるか。

俺はリゲル殿に聞いた。

「…城門の上にいる王子様と一緒にいる奴は?」
「あれは…うちの近衛だ」
「ただの?」
「…いや、騎士団長…だ」
「そういやリゲル殿の肩書を聞いていなかったが」
「…ただの侍従だ」
「は、嘘こけ」

まあいい、別にリゲル殿が何だろうが構わん。
俺はリュール王子に聞く。

「俺たちが王の命を救いに来た事、あいつらに伝えられるか」
「ああ、呼びかけるくらいはしてみよう」

…さて、これであっちがどう出るか。

さっさと城の中へ入れれば良いがな…。

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