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聖人様になる旅路
再会と嫉妬
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最後の村から最初の村への道には何も出なかった。
気になるくすみをいくつか浄化しただけで済んだから結構早く進めて、2日目のお昼前に到着できた。
村の入口にはちゃんとゲートができていて、前に来た時には分からなかった村の名前が明らかになった。
「…最初の村って、『最初の村』っていう名前だったんだな」
「えらく変わった名前だなぁ…なんか不思議」
すると、クリスチーヌさんがその疑問に答えてくれた。
「内周の祠を擁する村は、巡礼が行われる度にどの順で行ったのかが分かる様に村の名前を付け直すのです…巡礼の歴史を保存する一助として」
クリスチーヌさん曰く、浄化の巡礼をスタートさせる村は神様のお告げによって毎回変わるらしい。
この「最初の村」も、巡礼が始まるまでは「10番目の村」という名前だったそうだ。
「前回最初に行った祠が分からないと、次の出発地点が分からなくなります。
巡礼の間隔は200年と大きい為、前回の巡礼を覚えている者は一人もおりませんし、紙の記録は燃えてしまったら終わりです。
今回もお告げは『前回始まった場所より数えて北へ3つの祠から、左回りに順』とのこと。
前回の最初が分からない事には始めようも無いのです」
「村の名前くらい覚えてくれよ神様…」
「ですが、神に人が付けた村の名を使えと強要するわけにはいきませんし」
「確かになあ…」
…とまあ、そんな話をしながら歩いているうちに宿屋についた。
宿の前では宿屋のご主人と従業員の人たちが俺たちを出迎えてくれた。
ご主人の隣では、あのときぐったりしてた猟犬が元気にワンワンと挨拶してくれた。
「その後お変わりないですか?」
「はい、皆元気に働いております!…犬も」
犬は俺の顔を覚えているのかパタパタと尻尾を振る。
かわいい。
撫でても良いか聞いてみよう…と思った矢先、ミシェルが宿屋のご主人に尋ねる。
「王都からの使者は?」
「はい、すでにお越しになっておられます。
皆様のご到着を知らせに、従業員が向かっております」
「では食堂で待たせて貰おう。主人、荷物を頼めるか」
「かしこまりました」
従業員の皆様が俺たちの荷物を手荷物預かりに運び入れる。
犬はこっちを見てまだ尻尾を振っている。
かわいい…
「…シゲル、行くぞ」
「あ、ああ、うん…」
なんかミシェルの様子がおかしい。
もしかして犬嫌いなんかな…と思ったその時、マルコさんが言った。
「ミシェル、犬にまで嫉妬するなよ」
「えっ!?」
そ、そんなことないよね…?
とミシェルの顔を見たら、ブスくれてあっちを向いた。
まじか。
***
食堂で待っていると、王都の使者さんたちがやってきた。
赤鷲騎士団長のヘレナさんと、黄獅子騎士団長のマキシマさんも一緒だ。
これにはセレスさんとハイドさんもびっくり。
「団長がまさかお越しになるとは」
「うむ、王子自ら使者として赴くと仰るのでな」
「えっ…王子!?」
「ディーデライヒ王子妃殿下もご一緒だ」
「奥さんも!?」
理由を聞いて、残りの6人もびっくり。
王子と奥さんは今、村長さんの家に訪問しているそうだ。
「視察も兼ねて、一度内周の村を回りたいと仰ってな。
なに、黄獅子の連中がついているから安心してくれ」
「それから魔導師のセト殿も王子に同行している。
リラ、すまんがもう少し待ってやってくれんか」
「分かりました、ヘレナ団長」
うん?魔導師のセトどの?
ってことはあの日ホールにいた人の一人かな…って言ったって、全員の顔なんて覚えていないんだけどね。
覚えてるのはトモアキと二人全裸だったって事と、ミシェルがマント貸してくれたって事。
それとトモアキにマントを貸してくれたのはマルコさんだって事と、王子様の美形ぶりとクリスチーヌさんの御意ってセリフ、あと、俺とトモアキが付き合ってるって勘違いされたのと、トモアキが本当に恋人ならどれほど良かったか、って思っ、…
あっ、そうか。
俺は思わず小さい声で呟いた。
「もしや、俺の初恋って、トモ…」
するとその言葉を聞き逃さなかったトモアキが、同じく小さい声で俺に聞いた。
「何、シゲって俺とセックスしたかったの?」
「えっ…、いや、ちっとも」
「ちっともかい!じゃあキスは?」
「それも…ちっとも」
「ちっともかよ!」
うん、トモアキとキスしたいとか、セックスしたいとか、そういうのは全然無くて。
「単に、ずっと一緒で、こうして馬鹿話していられたら良いな…って思っただけ」
「ってことは、今の関係で叶ってんじゃん」
「まあ、確かに…
って、これって初恋カウントで良いのか?」
小学生レベルの恋愛…といえば、恋愛?
ただずっといっしょにいたい、それだけの話…
でも、トモアキはそれを馬鹿にしたりしない。
「無事に初恋が思い出せて良かったな、シゲ」
「おう、俺、人の心ちゃんと持ってたわ」
「人の心って大げさだな…あっ!」
「どしたトモ」
「いや、トラさんの顔が過去イチやべえ」
「えっ」
そう言われて振り向くと、確かにそこには…
今すぐ誰かを殺しそうな顔のミシェルがいたのだった。
気になるくすみをいくつか浄化しただけで済んだから結構早く進めて、2日目のお昼前に到着できた。
村の入口にはちゃんとゲートができていて、前に来た時には分からなかった村の名前が明らかになった。
「…最初の村って、『最初の村』っていう名前だったんだな」
「えらく変わった名前だなぁ…なんか不思議」
すると、クリスチーヌさんがその疑問に答えてくれた。
「内周の祠を擁する村は、巡礼が行われる度にどの順で行ったのかが分かる様に村の名前を付け直すのです…巡礼の歴史を保存する一助として」
クリスチーヌさん曰く、浄化の巡礼をスタートさせる村は神様のお告げによって毎回変わるらしい。
この「最初の村」も、巡礼が始まるまでは「10番目の村」という名前だったそうだ。
「前回最初に行った祠が分からないと、次の出発地点が分からなくなります。
巡礼の間隔は200年と大きい為、前回の巡礼を覚えている者は一人もおりませんし、紙の記録は燃えてしまったら終わりです。
今回もお告げは『前回始まった場所より数えて北へ3つの祠から、左回りに順』とのこと。
前回の最初が分からない事には始めようも無いのです」
「村の名前くらい覚えてくれよ神様…」
「ですが、神に人が付けた村の名を使えと強要するわけにはいきませんし」
「確かになあ…」
…とまあ、そんな話をしながら歩いているうちに宿屋についた。
宿の前では宿屋のご主人と従業員の人たちが俺たちを出迎えてくれた。
ご主人の隣では、あのときぐったりしてた猟犬が元気にワンワンと挨拶してくれた。
「その後お変わりないですか?」
「はい、皆元気に働いております!…犬も」
犬は俺の顔を覚えているのかパタパタと尻尾を振る。
かわいい。
撫でても良いか聞いてみよう…と思った矢先、ミシェルが宿屋のご主人に尋ねる。
「王都からの使者は?」
「はい、すでにお越しになっておられます。
皆様のご到着を知らせに、従業員が向かっております」
「では食堂で待たせて貰おう。主人、荷物を頼めるか」
「かしこまりました」
従業員の皆様が俺たちの荷物を手荷物預かりに運び入れる。
犬はこっちを見てまだ尻尾を振っている。
かわいい…
「…シゲル、行くぞ」
「あ、ああ、うん…」
なんかミシェルの様子がおかしい。
もしかして犬嫌いなんかな…と思ったその時、マルコさんが言った。
「ミシェル、犬にまで嫉妬するなよ」
「えっ!?」
そ、そんなことないよね…?
とミシェルの顔を見たら、ブスくれてあっちを向いた。
まじか。
***
食堂で待っていると、王都の使者さんたちがやってきた。
赤鷲騎士団長のヘレナさんと、黄獅子騎士団長のマキシマさんも一緒だ。
これにはセレスさんとハイドさんもびっくり。
「団長がまさかお越しになるとは」
「うむ、王子自ら使者として赴くと仰るのでな」
「えっ…王子!?」
「ディーデライヒ王子妃殿下もご一緒だ」
「奥さんも!?」
理由を聞いて、残りの6人もびっくり。
王子と奥さんは今、村長さんの家に訪問しているそうだ。
「視察も兼ねて、一度内周の村を回りたいと仰ってな。
なに、黄獅子の連中がついているから安心してくれ」
「それから魔導師のセト殿も王子に同行している。
リラ、すまんがもう少し待ってやってくれんか」
「分かりました、ヘレナ団長」
うん?魔導師のセトどの?
ってことはあの日ホールにいた人の一人かな…って言ったって、全員の顔なんて覚えていないんだけどね。
覚えてるのはトモアキと二人全裸だったって事と、ミシェルがマント貸してくれたって事。
それとトモアキにマントを貸してくれたのはマルコさんだって事と、王子様の美形ぶりとクリスチーヌさんの御意ってセリフ、あと、俺とトモアキが付き合ってるって勘違いされたのと、トモアキが本当に恋人ならどれほど良かったか、って思っ、…
あっ、そうか。
俺は思わず小さい声で呟いた。
「もしや、俺の初恋って、トモ…」
するとその言葉を聞き逃さなかったトモアキが、同じく小さい声で俺に聞いた。
「何、シゲって俺とセックスしたかったの?」
「えっ…、いや、ちっとも」
「ちっともかい!じゃあキスは?」
「それも…ちっとも」
「ちっともかよ!」
うん、トモアキとキスしたいとか、セックスしたいとか、そういうのは全然無くて。
「単に、ずっと一緒で、こうして馬鹿話していられたら良いな…って思っただけ」
「ってことは、今の関係で叶ってんじゃん」
「まあ、確かに…
って、これって初恋カウントで良いのか?」
小学生レベルの恋愛…といえば、恋愛?
ただずっといっしょにいたい、それだけの話…
でも、トモアキはそれを馬鹿にしたりしない。
「無事に初恋が思い出せて良かったな、シゲ」
「おう、俺、人の心ちゃんと持ってたわ」
「人の心って大げさだな…あっ!」
「どしたトモ」
「いや、トラさんの顔が過去イチやべえ」
「えっ」
そう言われて振り向くと、確かにそこには…
今すぐ誰かを殺しそうな顔のミシェルがいたのだった。
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