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聖人様になる旅路

覚悟、発表

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祠から出て村へ戻り、またも沢山の人からお出迎えを受け、村を上げての宴会が開かれ…
なんだけど、俺とトモアキは疲れを理由に宿へ早々に引き上げた。
宿ではクリスチーヌさんが王宮へ送る経費の申請を書いていた。

「この宴会の費用も、全て国から支給されるのです」
「そうなんですか」
「ええ、表向きは我々からの奢りという形になりますが、実際は「浄化の巡礼」予算から供出されております」

クリスチーヌさんによると、浄化の巡礼は地方にお金を落とす事も目的になっているそうで、国が予算をしっかり付けているんだそうだ。

それを聞いたトモアキがクリスチーヌさんに聞いた。

「へえー、じゃあ宿代とかも?」
「ええ、カラタニ様がお支払い頂いた分は、最初の村へ戻った際に全額精算されて戻って来ますよ」
「本当に!?だったらケチケチしなきゃ良かった…」

外周までにお金戻ってくるんなら、無理して節約しなくても良かったな…
でも、そうなるとあれは何のお金なんだろう。
王子が旅の資金って言ってたからてっきり…。

「と言いますか、本来はこちらから心付けを渡すだけで、後は宿や馬屋が王宮へ直接請求するのです。
 ですから、カラタニ様がお支払いになれなかった分は請求を回させておりますよ」
「そうなんですか、良かった…あれ?」

じゃあ俺、何の為にお金払ったの?
手間を増やしてしまっただけなのでは…?

悩む俺に、クリスチーヌさんが答えた。

「いいえ、カラタニ様がお支払いくださるお金は、つなぎの資金として喜ばれております。
 請求した額が王宮から支給されるまでに、1ヶ月はかかりますから…」
「そっか…良かった!」

つまり立て替える為のお金、って事か!
だったら今まで通り…

うん?
立て替える?
それって俺のお金を代わりに払う事だよね?
あれ?

じゃあ結局何のお金なんだろう…と俺が「旅の資金」について考えていると、クリスチーヌさんが言った。

「あれはカラタニ様へのお礼で御座います。
 これまでの聖人・聖女様方にも、我が国の誠意を示す物として受け取って頂いています」
「ええっ!」
「巡礼の後、有効にお役立て頂ければ」
「あっ…なるほど、そういう事かぁ」

つまり退職金みたいなものか。
だからいっぱい入ってたんだ…納得。
 
「それよりも、宴はもう終わったのですか?」
「いや、まだやってる。
 俺たち先に抜けて帰ってきたんだ、シゲが自力で暴走できるようになったのも聞きたいし、その…な」
「…うん、ちょっと、大事な話があって」
「そうでしたか、ではお部屋の鍵を…」
「いや、ついで…っていうのも変なんですけど、クリスチーヌさんにも聞いて貰いたいかな…って」
「私にですか?」

祠からの帰り。
トモアキに話した、俺の気持ち。
この世界では、恋愛事は秘密にするものじゃないらしい。
だったら、一人一人にちゃんと説明したいんだ。

「はい、ご報告、というか…。
 俺、ミシェルと外周の祠、回る事に決めたので」
「そんな!マキタ様はそれで良いのですか!?」

予想通りに、クリスチーヌさんはそれに反対した。
トモアキはそれに静かに反論した。

「クリスチーヌさん、前も言ったでしょ。
 俺、シゲが相手だとしても、男相手じゃ抱くのも抱かれるのも無理だって。
 そういうのが伴う以上は、俺はこの先どうしても一緒には行けないからさ」
「でも、」
「…俺とシゲじゃ、どっちも不幸になるだけだ。
 この決断がシゲの幸せに繋がるかどうかは分かんないけど…まあ、トラさん次第って事で」
「…カラタニ様は、それで、良いのですか」

クリスチーヌさんは俺の顔をじっと見ている。
本心を見透かそうとしてるみたいに。
だから嘘は止めて、本当の事を言う。

「俺、やっぱり恋愛の事とかよく分からない。
 けど分からない事を理由に止まりたくない。
 だからまず形から入ってみようかな、って。
 男同士って、俺のいた所では…まあ、女同士でもなんだけど、差別とか偏見があってさ。
 俺自身も男の人とは…その、色々、だけど、…、ミシェルとなら…いいかな、って」
「カラタニ様……」

クリスチーヌさんは、俺とトモアキが一緒にいるのは良い事だって思ってくれてる。
だからこの先が、言える。

「それでね。
 最悪ミシェルと合わなかったら、俺、浄化の巡礼の後逃げるから、先に言っとこうと思って」

クリスチーヌさんは目を丸くする。

「…その時は、マキタ様も?」
「うん、トモアキも俺と一緒に来てくれるって」

俺がそう言うと、クリスチーヌさんは一瞬ホッとした顔をして…またキリッとした顔に戻った。
その顔を見てから、トモアキがクリスチーヌさんに言った。

「良かったら、クリスチーヌさんも一緒に来ない?」
「私がですか!?」
「うん」

クリスチーヌさんはまたも目を丸くする。
俺はそこに畳み掛けるように言う。

「クリスチーヌさんが居てくれたら、心強い。
 トモとクリスチーヌさんがいれば、何でもできそうな気がする」
「ですが、私は…」

クリスチーヌさんは何かを言い淀む。
だけど俺…多分トモアキも、だけど、何となくクリスチーヌさんがただのお世話係じゃない事は分かってる。
俺はミシェルからクリスチーヌさんの話を聞いて、思ったんだ。
それに、さっきそっと隠した手紙…ちらっと見えた。

「…王宮の人も、聖人様が居なくなったら困るでしょ。
 クリスチーヌさんが付いてくるなら、国を挙げて大捜索…なんてしなくて良いからさ」
「…ご存じだったんですか」
「ううん、何となく。
 でも、クリスチーヌさんが王宮に俺の事報告してくれるんなら、大騒ぎにならなくても済むから…
 利用するみたいで、悪いんだけど」
「っ、そんな事は御座いません!!
 カラタニ様がそう望まれるのなら、私はどこへでもついていきます。
 マキタ様と二人、カラタニ様について参ります」
「本当に!?やったぜ」
「さすがクリスチーヌさんだぜ!」

…こうして俺は覚悟を決めたついでに、最強の逃げ道を用意した。
ついでにトモアキとクリスチーヌさんが、この先何があっても一緒にいられる事にもなった。


俺たちってなかなかの策士かもしれない…
ふふふ。
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