別にこいつとは付き合ってませんけど？

聖人様になる旅路

友だちの正体 ～トモアキ視点～

……うーん、そっか。

シゲには今のところトラさんと付き合うつもりが無い、と……。

ただまあ、時間の問題なんだよな。
シゲの性格から言うと、人を救う確実な手段がそこにあるなら、自分の気持ちとか無視して突っ走るだろうから。

「ほんと、仕方ねえなぁ」

シゲは自分が合理主義者で、非情で、腹黒い奴みたいに振舞いたいっぽいけど…
それは他人の為を自分の為にすり替えて考える癖がついちまってるだけなんだよな。

最初の最初から言うと。
晩餐会に出たくないのは、マナーが無くて笑われるからとか面倒くさいからとかは後づけで。
自分のために金を使うくらいなら、もっと困ってる人に金を使って欲しいからだ。

さっさと練習したかったのは…
まあ、それは心配性だからだと思う。
だって今まで毎日金の心配に妹の心配に母親の心配に、将来の不安に備えるために節約して…

未来が不安に満ちてる。
だから安心材料を常に求めてる。
確実に「できる」方法を探す。
他人の為になら、なおさら。

できるかどうか分からない恋人を作るより、お金さえ払えば疑似恋愛をしてくれる人を探すみたいに。

だから、トラさんの話に、心が付いて行かなくても結局は乗っかる事になるだろう。
だって確実に恋愛をしてくれる人がいるんだからさ。

…でもなあ。

この世界の為に、トラさんに身を預けて恋愛ごっこするのを受け入れるってのも、違うと思うんだよな。

そこにシゲの本当の気持ちが乗ってないと…
せっかく、あの母親から逃げられたってのにさ。

俺だって分かってるよ？
シゲの母ちゃんだけが悪いんじゃないって。
シングルマザーで子ども２人、しかも１人は障がい児…って、育てるだけでも大変なのは分かるよ？
だけどさあ…

何か、どうにも、信用ならないんだ。
シゲの事悪気なく利用するのやめないし。
シゲが自分の事好きでいてくれるからって、調子に乗ってるっていうか…

子どもが親のこと好きなのは仕方ないけど。
でも、あの母親を好きでいるシゲは…何ていうか、報われないっていうか。
早い事呪縛が解けて欲しいって、思ってたから…

本当は、あんな家族いなきゃいいって、ちょっと思ってたし。

シゲの妹にもよく会ってたけど…
シゲの事を使って当然な顔してるの、やっぱ嫌だし、ありがとうの一言くらいあったって良いのにってずっと思ってた。
でもそれって、母親がシゲにありがとうって言わないからなんじゃないかって勘ぐったりして。

してもらって「ごめんなさい」って言われるのも困るけど、してもらって当然ってのも変だろ。
だから「ありがとう」って言葉があるんだし。

人間は、謝られたくて世話焼くんじゃないんだ。
感謝されたくて世話を焼くんだから……

「あれ？」

もしかして……シゲって、感謝されるって思ってないのに、人に優しくしてたってこと、か……？

「やべえ」

それって完全に「聖人」ってやつじゃん。



……シゲは歴代最強の聖人だ、ってクリスチーヌさんは言う。
そりゃそうだ。
元の世界でも聖人様だもん。

光の力が使えなかっただけで…

とっくにシゲは、聖人様だもん。

すげえはずだよ。