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聖人様になる旅路

初めての恋バナ

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ミシェルからの告白を受けた後、俺は何とか部屋まで戻った。
頭ん中が混乱して、ベッドの上でゴロゴロしつつ唸っていると、トモアキが戻ってきた。

「どしたんシゲ」
「あ…えっと、そのぅ」
「ああ、トラさんに告られて悩んでんの?」
「…えっ、何で知って」
「うん、さっき略奪宣言されたとこだから」
「はああああ!?」

ちょ、ちょっとまってよ!
そういうことは隠しておくもんじゃないの!?


理解しがたい出来事に俺がアワを食っていると、トモアキが更に情報を追加する。

「トラさんがね、おれんとこ来て、シゲに告った報告ついでに『これでマキタ様と私はライバル…ということで、よろしいですね?』とか言ってさ」
「何でそんな事言っちゃうかな!?」

だから、俺とトモアキは別に付き合ってねーって!!
愛とか恋とか無いから!
あるのは友情のみだから!!

「「はぁぁあ…」」

俺とトモアキは2人して盛大なため息…

「なんでみんな通じないのかなあ…」
「それには俺も困ってる」
「えっ、やっぱり?」
「クリスチーヌさんが『マキタ様にはカラタニ様がいらっしゃいますものね』フェイスで俺の口説き文句をことごとく躱してくるんだ…」
「あっ…あー…なんか、すまん」

あんなにキラキラしい笑顔を奮発してんのに、やっぱ駄目なんか…
ガードが堅いというか、何というか。

「困ったもんだな…」
「何かさあ、こっちの世界って、向こうより恋愛に対する比重が大きいっぽいよな」
「確かに、全員どっかしら恋愛脳っぽいとこある」
「あの神様の影響だろうけど、恋愛とか無縁過ぎる俺にはちょっと難しい文化だな…」
「恋愛よりエロ寄りの思考だからなあ」
「良く考えると最低だな」

俺、おっぱいがどうとか、お尻がどうとか、そんなんばっかでその人の事を見るなんて事もなくここまで来た。
中身を知れるほど、他の人と仲良くなれなかったと言うか…出来なかったと言うか。
おっぱいより尻のほうが好きなのも、正面きっておっぱい見たりできない俺にはそれがせいぜい…というか。

だけど、ただ後ろ姿を見るだけだったのが、いつしか「おしりっていいな」と思うようになった。
見ると何だかほっこりした気持ちになるというか…
癒やされるっていうか。

「お尻って、何か良いんだよな……」
「どうしたシゲ、いきなり」
「俺、おっぱいよりお尻じゃん?
 なんでかなあと思って」
「そういや高校生でお尻好きって少数派かもな」

そうなのか?
トモアキとしかこんな話しないから分からん。

俺は理想のお尻についてトモアキ相手に語った。

「なんかこう…腰からのこの…こういう丸いラインがたまらん、というかだな…。
 俺、赤鷹のヘレナさんみたいなお尻が好きなんだよね。こう、遠慮なく『ボンっ!』ってしてるのが良いんだよ、その上のくびれも大事だけど、細すぎても理想じゃないというか…」
「ああ、それは何となく分かる」

トモアキはおっぱい派だけど、俺の感覚に何やら共感はできるものがあるらしい。

やっぱりお尻もいいもんだよね!
うんうん。

「んじゃ、トラさんのお尻はどうなん」
「えっ…ええー、気にした事無いし分かんねぇ」
「気にした事無いの?」
「無いよ!トモだって男の胸見るか?」
「…見ないな」
「だろ!そんな興味ないじゃん、そもそも」
「っていうか、シゲって恋愛自体に興味ないよな」
「は?そんなことねーし!」

俺だって健全な男子高校生だぞ!
気になる子ぐらい…いた…は、ず…?

いたよな?

いただろ、それこそ小学校…
いや、中学…中学校では、えー…

「………あ、れ……?」

だめだ、クラスメイトの顔が、思い出せん。
女子も、男子も…。

「うーん…」

それどころか、色んな人の記憶が薄くなってる…ような?
俺に絡んできた妹の病院の看護師さん、助手さん、ヘルパーさん、お医者さん、妹の友だちの家族…

「おかしいなあ」

あんなに殴られたのに、あの先生の顔も分からないし。
空き教室で襲ってきた先生の顔もぼんやりだし。
家に押しかけてきたあの先生も、帰り道で車に押し込もうとしてきたあの先生の顔ももう……

日本じゃ夢で何度も見るくらい怖かったのに。

これって異世界に来た副作用みたいな……?

「あ、もしかして」

だから初恋の相手も、忘れかけてる…とか?

「なあトモ、俺の初恋の人って誰だっけ…?」
「俺に聞いたってどうするよ!
 ただ、俺、シゲと恋バナすんの初だと思う」
「……まじで?」

俺、初恋まだだった…のか?

そんなはず、無ぇって……

無ぇって、何で笑い飛ばせないんだろ。
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