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聖人様になる旅路

略奪の狼煙 ~ミシェル視点~

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シゲルは「反対意見は聞きたくない」とばかりに強い決意を見せながら私に言った。

「もう、トモに嫌な思いをさせたくない。
 だから、ここまでの旅の経費で余ったお金を貯めてあるんだ、それで何とかならないかな…って」

どうやらその為の準備もなさっていたらしい。
それも節約して資金をご準備なさるとは…。

しかし、旅の経費とは?
あれは、宿や領主から王宮へ直接請求が行くもののはずだが…?

疑問に思う私に、シゲルは革袋を取り出して私につき出してきた。


……これは……?


「っ!」
まさか、この任務に支払われている給与か?
確かにまあまあ貰っているが、これが旅費だと思っていらっしゃるのか…?

そういえば、マキタ様からのお話によれば、シゲルは幼少の頃より家計を預かり、少ないお金で何とか家を切り盛りしていたのだ…とのことだった。
シゲルはまさか、この金額の中から宿代を捻出し、馬の餌代、食事代も出しているのか……!?

早急にクリスチーヌに問い質さねばなるまい。


…清貧を良しとするシゲルには秘密にしているが、正直な話、こんなもので足りないくらい湯水の如く金を使うのが「浄化の巡礼」の習わしだ。

この旅の目的は「国の浄化」と、もう一つ。
闇の力で疲弊した地方にいくらかでも金を落とすことで、ひとまずの救済をすることだ。

要は、ものを買ったり、飯を食ったり、人足を頼んだりしてどんどん金を配るのだ。
今までの苦労をねぎらうために、地元の人間全員の酒代を奢ってやったりもする。

それを知らないシゲルは、不安そうに俯く。
足りなかったらどうしよう…という顔だ。
そして、娼館の相場を知らないシゲルの出してきた金額は…とても、足りない。

私はシゲルに尋ねる。

「それで、お菓子を買うのを我慢してたんですか?」

シゲルは、甘い物が大好きだ。
王都周辺での浄化に出掛けた時、休憩中に笑顔で焼菓子を頬張っていたのを思い出す。
だからこの旅でもその可愛らしい姿を見られる…と思っていたのに、一向にその気配が無かったのだ。

シゲルはプイと横を向いて拗ねたように言った。

「…だって、高いし…」
「お茶を飲むのも?」
「…だって、井戸水に浄化を掛けたら飲めるし」
「靴や、服も?」
「だって別にそれほど…クリスチーヌさんが毎日洗濯してくれるし、靴は頑丈だし、浄化もしてる」

なるほど…それで、最近神々しさに磨きがかかっているのか。
私はシゲルの姿をしっかりと見る。
やはり神々しい…光を纏っているような。

シゲルはまた俯く。

「本当はいっぱい買い物するほうが、村や街の人たちの為には良いと思うんだけど。
 今回は浄化をいっぱい頑張るから…許して、もらって…、宿も、ちょっと安くしてもらった。
 馬の餌も家畜を治すお礼に半額にしてもらった」
「そうだったのですか……」

シゲルも本当は分かっていたのだ。
金を使う大事さを……、それでも。

「俺、やっぱりこの国より、トモとの友情が大事なんだ。
 薄情で…ごめんなさい」
「……」

…シゲルは、シゲルなりに、考えがあって「娼館」という答えを出したのだろう。

そうまでして、マキタ様との友情を守りたい…
この心が恋や愛でないと、なぜ言えるのだろう。
シゲルはやはりマキタ様の事を……。

「…シゲル様は、マキタ様がなのですね」
「……うん」
「だから、マキタ様とのは無理だ、と」
「うん」

だが、シゲルはそれに気づいていない。
前の世界で、男同士の恋愛は差別と侮蔑の対象だったからだろう…

だから、私はそこにつけ込ませてもらう。

「シゲル様、なりません」
「どうして?足りない?」
「金の問題ではありません。
 祠での封印の儀式が一体何を表しているか、もうお気づきでしょう?」
「え…えっと、それは」

聡いシゲルが気づかないはずがない。
私はそれでも、敢えて口に出す。

「一組のペアが、出会い、仲良くなり、惹かれ合い、触れ合い、そして恋人同士になり、結ばれる。
 それを追体験するのが封印の儀式です。
 ですが、娼婦と客の恋愛は疑似でもご法度。
 ですから、封印の儀式に参加する条件を満たせない可能性が高いのです」
「えっ…、そうなの?」

シゲルは驚いた様子で革袋を握りしめた。

相場も知らないこの子が、娼館の決まり事など知るはずもない。
ただ自分でも相手を探せる方法がこれだった……

それは重々分かっている。
でも悲しい。

「適任が、ここにいるではありませんか」
「…えっ…」

せっかくここまで貯めた努力カネを無駄にしてしまうようで心苦しいが…

それでも、許せないものがある。

「なぜ私にお命じになられないのですか」
「ええええええっ!!?」
「ラジオタイソウも覚えました。
 残りの祠は、私が封印の間へお供致します」
「えええええ……」

シゲルは大いに驚き…
私の顔をまじまじと見た。

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