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幕間 2

猟犬会議

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北の猟犬は勝手に野営地にと決めた学園の庭の隅でたむろしている。

学園…だから、学生も教師も当然いるのだが、彼らを咎めることなく、むしろ興味深く見ている。

------北の猟犬の生態は以下である。

剣を打ち合わせる者、体を鍛える者、洗濯する者、食料を調達しにいく者。

学園の敷地には広大な畑があり、色んな野菜が育っているが、それを盗むものはいない。
ただ、手伝いをして、野菜を分けてもらうのだ。
肉は裏山で狩りをして採ってくるが、この前大きな熊を倒したのでまだ余裕があるらしく、今日は狩りに行かないようだ。

これに「殿下」のお世話をする者と部屋の前で警備する者が加わる。
全ての仕事は持ち回り制だ。

これを上官の指示なく自然とやっているのが、学生たちには不思議なのだ。
兵士が話し合いで物事を決め、かつ上下なく働くというのは、こちらの国でもあまりない光景であった。

--------------

今日午前中のお世話担当が、野営地に戻ってくる。

「…というわけだ。
 それで…北に帰りたいやつ、いるか?」

先程、学園の医学部に併設されている病院から帰ってきた男が言う。

「俺は…一旦帰ろうかな」
「俺は残る!殿下が幸せになるまで見届ける」
「俺は幸せになっても残る」
「だな、貴族とかって…側仕えだか給仕だかいっぱいいるんだろ?俺はそういうのがいいなって思う」
「貴族になりたいってか?」
「違ぇよ、殿下に貴族みてえな生活さしてやりたいってことだよ、俺がなりたいのは…執事だな」
「執事いいな」
「教養ねーのに出来んのかよ~」
「とりあえず、帰りたいやつはどんくらいいる?」

いくつか手が挙がる。

「…5人だな」
「うむ、殿下が我々のために頑張ってくださったのだろう?そのお気持ち…無碍にはできん」
「俺もだ。んで、また帰ってくる」
「行き来できるかはまだわかんねーって」
「平気平気、国境警備に捕まらなきゃいいんだろ」
「だな、その道を確保するためにも、俺らが一回帰ってみんのもありだろ」
「なるほどね、そういうことなら…もうちょい人がいてもいいんじゃねえか?」
「道も一本きりじゃ頼りねえからな」
「選択肢は多いほうがいいって、殿下も言ってたし」
「じゃ、そういうことで、帰りたいやついるか?」

今度はもう少し多くの手が挙がる。

「12人か」
「じゃあ、3人ずつ組んで、それぞれ別の道を通っていこうぜ」
「どうせどれも山越えだけどな」
「迷子になんなよ~?」

山は慣れてねえからな、と誰かが言ってどっと笑う。

「国境といえばさ、西の砦に、ソラ、いんだろ」
「あいつ、今回の戦で死んだらしいぜ…」
「まじかよ、あの鬼神を倒したの、誰よ」
「それが、あの王子様らしいぜ」
「…やべえな」

俺らもっと強くなんねえとな。
…と誰ともなく声が上がる。

「連携だな、連携を強化する」
「組み合わせを考えなおす必要があるかもな」

…あいつが殿下を傷つけたら、殺さなきゃならんからな…

----何とも物騒な事を誰かが言い、全員が頷いた。
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