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執事と執事

産休と引継ぎと ~ルース視点~

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「あの…ウルフレッドさん?」
「あっ、ああ、はい、聞いています!」
「…大丈夫っすか?」
「大丈夫っす!」

いや大丈夫じゃないじゃん。
アレクさんの口調が感染ってるし。
敬語とマナーはどこに行ったの?

俺がちょっぴり頭を抱えていると、隣の執務室から殿下が現れた。

「ルース、この案件…ん?今日から引継ぎか?」
「はい、明日からアレクさん時短なんで…」

どうやら本日のスケジュールが殿下に伝わっていなかった模様…
朝から混乱してんなぁ。

「殿下、どうしてウルフレッド君なんですか?」
「ああ、ルースに懸想しそうな感じが無かったからだな」
「そんな理由で!?」
「はは、冗談だ」

殿下によると、執事ウルフレッド君が側付きウルフレッド君になる理由は

・タイムテーブルを組む経験が豊富
・俺に昼飯を食わそうとする
・マナーと敬語が完璧
・貴族名鑑が全部頭に入っている
・執事は代わりがいる

…という事らしい。
二つ目、そんなに大事か?…大事か。俺妊娠してたわ。全然自覚無いけど。

「ウルフレッドは間違いなく優秀な部類だ。
 だが融通が利かんところがある。
 そこさえ直せば補佐局で秘書官になれるのではないかと思ってな」
「秘書官?」
「書類整理だけでも出来れば上々…というかだな、書類が散らかりすぎて敵わん。
 あいつらやお前は場所も置き場も把握しているが、他人が見たら混乱しかしない。
 あれでは新しい補佐局員を入れられん」
「えっ、新しい人?誰か辞めますっけ…?」
「もうそろそろアレらを放逐するからな」
「あっ…あー」

そういえばそろそろコーラス君とミカ君を釈放する時期か。
あれからもう3年か…早いもんだ。

「身元引受人はルージュ様なんです?」
「シャムロック侯が拒否しているからな」
「うーん孫でも動かんかぁ」

ルージュ様は1年前からトリエステのクリニックで働いている。
だから収入云々については問題無いんだけど…

「コーラス君にトリエステのクリニックが乗っ取られないように注意しないと」
「もうあいつに光の魔石でも埋め込んでおけば良いんじゃないか?」
「殿下、それ禁忌ですよ」

何てこと考えつくの!?
薬学コンビに釘をさしておきながら、こっちがやらかすなんて洒落にならん!

「…でもまあ、補佐局の中に何の研究もしてない人を置いとくの、ご批判の元ですしね」
「研究していない事もないがな」
「媚薬の治験に参加しただけでしょ?」

でもまあ、あの件で一応の安全性は確認されたというか…
本当、何も無くて良かったよ。
産まれた子も元気だし!

「まあ、あの薬関連の仕事も終わりましたし、ここからは仕事量を減らして…
 時々は2人で視察に出ましょう、ね?」
「うむ」

うちの子たちもいつの間にか立って歩くようになり、それをおじいちゃん先生がカワユイカワユイと言いながら追いかけ、
その後ろをエルさまとジョンさんの子が追いかけ、
その後ろをヘザー先輩とカート君の子が追いかけ、
その後ろをソラン先輩とイドラ君の子が追いかけ、
その後ろをガーベラ先輩とノースさんの子が追いかけ、
それをアウディ君とフィーデ君の子が楽しそうに見ながらハイハイし、ウィン兄とモロー君の子はお馬さんのぬいぐるみに夢中で、元・影さんとディー兄の子はベビーサークルの柵を蹴倒す勢いで寝がえりを打ちまくる…
という不思議な光景が保育園で繰り広げられている。

「…この子たちの出産準備もしないと」
「そうだな、産着も買い足さねばならんし、ベビーカーの魔石も買い替えねばならん」
「それにこの前「たのしい科学えほん」の2巻が出たからそれも買いたいし…
 今度生まれる子たちのお祝いも買わなきゃならないでしょ」

アレクさんとカレンデュラ先生はもう来月出産予定。
ルディ君とワルド先輩のとこは再来月生まれるって言ってたし、
デューイ君とカイト君のとこも早まりそうって言ってたし、
エルさまとヘザー先輩は2人目を妊娠中で、
シンカンチョーとダグさんとこは2人揃って妊娠中。
薬学の助手さんも妊娠したし、
フリージア先輩も安定期に入ったし…

「めっちゃ生まれるなあ」
「ユーフォルビア恋愛相談室の効果じゃないか?
 出来ないと悩んでいた家が随分減ったと聞くぞ」
「いやいや、不妊治療じゃないんですから」

でも、愛し合えるようになってセックスの頻度が上がれば、妊娠する可能性は増えるからな。
まさに愛はおイエを救う…
まあ、俺としてはそんなに直系に拘らなくてもと思うけどね。

国家は優秀なを求めておるのです!



……とまあ、そんな話を殿下としているうちに口頭と書面での引継ぎは終わったらしい。

「この手帳、そのまま使ってくださいっす」
「えっ、良いんですか?」
「良いも悪いも、この手帳に1年先の予定まで書いてあるんすから、使わねえと仕事にならねっす」
「そんな埋まってるの俺の予定!?」
「だって毎年恒例の行事があるっすもん。
 それと、再来月、ロメリア様とサクライ様との3者会合あるんで、忘れないで欲しいっす」
「大丈夫!ついに海苔を開発したからね」

おっちゃんと桜井さんとの会合は、大体「煎餅の新商品開発会議」なんだよな。
王宮カフェがあって本当助かる…

「あと、もしウルフレッドさんが産休入るような事あったら言って欲しいっす。
 早めに復帰するんで」
「えっ、あ、はい!」

えっ…何、その明らかな動揺。
俺の知らないとこで何か起きてる…?
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