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ロイ・ユーフォルビアの恋愛相談室

大人の恋愛相談 2

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書斎で書き物をしていたゼフさんをつれて、応接室へ向かう。

そこでスフィアさんはソファに座り、パラパラと閨教本を眺めていた。

「お待たせしてすみません」
「いえ、こちらこそわざわざすみません」
「ゼフさん、こちらスフィア・グロリオサ様です」
「ええ、存じております。
 ルースからよく話を聞きますから」
「あら、どんなお話でしょうね」

すると、ゼフさんは微笑んで言った。

「あのヘヴィ・グロリオサ候の手綱を握れる数少ない人物だと」

するとスフィアさんは寂しそうに笑って、

「そうですか」

と言った。

部屋の中には少しの間、沈黙が流れた。

重たい空気の中、ゼフさんが言った。

「愛した伴侶の事は、忘れられません。
 新しく愛する伴侶を迎えても、やっぱり…死に別れた伴侶の事は、特別です」
「…そう、です…よね」
「私とグロリオサ候では事情が異なります。
 ロイとスフィアさんも立場が異なります。
 それでも良ければ、少しお話ししましょうか」

そう言ってゼフさんは語り始めた…。

***

最初はあてがわれた結婚だった。

リード父さんは僕を産んだ父さんと死に別れて暫くは平民として暮らしていたけど、ある日突然実家から呼び戻されて、暫くしてゼフさんと結婚させられた。

「リードは僕よりずっと年上だった。
 僕と結婚したときにはすでに40歳で、前の伴侶を無くしてから10年程経っていた。

 多分、実験だったんだ…今代のユーフォルビアの当主は、40歳の、もう10年もセックスをしていない男とでも子どもを作ることが出来るのかの実験。

 僕は18歳になりたてで、閨事も初めてだった。

 ユーフォルビア当主は18歳まで純血でなければならない…18に満たない歳で妊娠するのもまた、出産のリスクが高まるから。

 産める間は生きていなければならない。
 そうしないと、多くの家の予定が狂うから…」

ユーフォルビアの当主は、まず急ぎ子どもが必要な家へ我が子を輿入れさせる為に、最初に父親がはっきりした子どもを産まないとならないんだ。
その後には、跡継ぎ問題で揉めるわけにはいかない家の子どもを密かに産んで、その子を平民の世界で暮らして行けるように教育し…
最後の子どもは、産むだけのものとして扱われても心が死なないように…最初から人の感情をなるべく持たないように躾けられる。

「だから、僕にもリードに対する愛は無かった。
 ただこの人とセックスして子どもを産めば良いんだと思った。
 最初から、3人産んだら別れて他の男と結婚する事が決まっていたし、それだけの人だった」

リード父さんもまた、ユーフォルビアの悪評を信じていた。
純血などとっくに捨てて、セックスに溺れる学園生活を送ってきたんだろうと思っていた。
僕が最初に父さんから聞いた再婚の話は…

あんな色狂いを相手に、本気になどなるものか。
お前を産んだ父を裏切る事にはならない…
だから安心しなさい、といったような内容だった。

「だけど、リードは僕がな事に気付いてしまった。
 セックスどころかキスすら初めての身体なのだと…気づいてしまった。
 そこから少し、おかしくなった」

今まで吹き込まれていた話とあまりにも違いすぎるゼフさんの本当の姿。
父さんはそこから必死にユーフォルビアの歴史を学び、読み解き、そして…
ゼフさんの不幸を、ユーフォルビアの不遇を知った。

「僕を心配して、初めての出産では震える手で僕を励ましてくれた。
 ロイが産まれる時も立ち会ったのだから大丈夫、と言いながら…
 そして僕の事を守りたい、と言い始めた。
 ユーフォルビアの真実を知って、こんな事はもう終わりにすべきだと言った。
 そうして…僕にも、誰かと恋をする権利があって、セックスをする相手を選ぶ権利があると言った。
 そんな事を言ってくれたのは彼が初めてで…
 多分、その時に恋に落ちた」

ルースがこの家を断絶させると言った日、ゼフさんは寝室でこっそり泣いていた。
リード父さんが、生まれ変わってまでユーフォルビアを終わりにしてくれようとしてる…
そんなふうに感じるんだ、と言って。

ルースの黒い目と黒い髪は、隔世遺伝なのかリード父さんと同じ色だ。
そして顔もどことなく父さんに似て、わりと平均的な顔をしているし…でも、時々ゼフさんを彷彿とさせる色気を出すこともあるんだ。
遺伝って不思議。

「僕は、リードを失って、その代わりにロイを手に入れて、ルースを産んだ。そして、リードに良く似た子を手放すことによって、リードとの恋に素敵な結末を加えることが出来た…」
「…ゼフさん」
「リードは僕に、誰かと恋をする権利があるって言った。その誰かをようやく見つけたなって、天国で笑って見てくれてる…そんな結末」

そう言って、ゼフさんは僕に微笑んだ。
そして続きを話してくれた。

「それに、あの時リードを失って悲しかったのは僕だけじゃない。
 父親を失った彼も、僕以上に悲しかったはずだ。
 それでも僕を慰めたり励ましたりしてくれた。
 それに、僕も彼を利用した。どうしても産んでやりたくない相手がいたから…。
 そんなことが少しずつ降り積もって、心の中にリードを住まわせたままロイのことも好きになっていってたんだと思う。
 それはとても怖いことで、駄目なことだとずっと思ってきた…だから、ロイを愛するところまで進むことはできなかった。
 それとね、愛した伴侶を亡くしてから次の伴侶を得ると、多くの人がこう言うんだ。
 じゃああの愛は嘘だったんですね、って。
 そうじゃない、どっちも本物なんだけど…ね」

そしてゼフさんはまた微笑んで…
僕の頬に軽くキスをした。
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