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新婚旅行
久々の学園 5
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「…よし、行ってみますか」
「おう、頼んだ」
俺はお昼を食べて気合いを入れ、古代魔法研究所へと戻る。
「まだ音してるな…出てくるのを待つか」
「いや、ろ…記録した音を流してるのかも」
簡単に録音、と言いたいところだけど、録音っていう言葉がまだ無い状態で口走るのはまずい。
奥の部屋の前で立っててもな…ということで、休憩室らしき部屋でマグノリア教授と世間話をする。
「…そういえば音を記録する機械ってどのくらいの精度なんですか?」
「ああ、かなり正確に記録できるぞ。
二重奏や三重奏もいけるからな」
「へえ…すごい!」
「あとは記録したやつで魔法陣が出るかどうか…」
マグノリア教授によると、最近軍ではイフェイオン邸での戦闘でワルド先輩やルディ君が使った魔法陣を量産しようと画策しているらしい。
「やっぱ古代魔法は詠唱が長いから、短縮できるんならそのほうが良いって話でさ。
けど魔法陣の版を作る時に問題が発生してな」
「まあ、魔法陣を逆に書くんだから何か起きそうですよね」
「そうなんだよ、下書きした途端、版木が割れたり穴が空いたり…。
だったら歌の方でどうにかなんねえかなって」
印刷が駄目なら原本を量産すればいいという事か…
すごいな軍部。
俺は何の気なしに言った。
「一応、魔法を使って書類を複製するのは出来るんですけどね」
「何だって!?」
俺の言葉にマグノリア教授が食いついた。
「ただ、結構面倒な感じで…まだちょっと」
大量の手紙を出さなきゃいけない時に思いついたコピーの魔法、あれからもうちょっと省魔力できないか色々やってみたんだけど、道半ばなんだよな。
しかも物が物だけに…うーん。
「それに、魔法陣に使えるかどうか……」
「それでもいい、やってみてくれ!」
待ってろ、研究員を呼んでくる…と言って、マグノリア教授は慌てて部屋を出て行った。
***
暫くして研究室には人がギュウギュウに押し寄せた。
その人波をかき分けて一人のおじさんが俺の前に立って言った。
「弟がお世話になっております」
「いえ、こちらこそ」
どうやらこの人がネリネ教授のお兄さんらしい。
すでに自分の名前を名乗らないあたり、俺の事も嫌いなのかもしてない。
そんなネリネ兄は俺を睨みながら言った。
「弟には」
「いえ、まだ公開もしてないので…」
「魔法侯爵様…」
「まだですね」
「初?」
「そうなりますね」
するとますますネリネ兄は俺を睨んで言った。
「りょ…準備」
「はい」
すると研究員さんたちが一枚の線画と真っ白な紙を取り出し、机の上に置いた。
そしてポケットの中からゴーグルを取り出してかけ、ノートを取り出し、ペンを構え、俺を見た。
「始めて」
「…はあ」
異様な空気の中、俺は実演しつつ手順を説明する。
「簡単に説明しますと、下に置いた書類の線だけを上に乗せた紙に焼き付けるという方法です。
まず、原本の線以外の部分を結界で覆います…ちょっと結界、線以外の部分」ぷぷぷぽわ…
ふむふむ…カリカリ
「で、写しの紙の裏にも結界を張ります…ちょっと結界、紙の裏、極薄」ほわ…
「これが紙の裏側は白いまま、表面だけを変色させるための準備ですね。
それに原本も痛まなくて済みます」
ふむふむ…カリカリ
「光魔法の結界は物理攻撃に弱いので、この上にさっきの白い紙を横からシュッと載せます。
すると結界を貫通して紙が乗ります。
ちなみにこの程度ではどちらの結界も消えませんから安心してください」
ふむふむ…カリカリカリカリ
「そして結界の効果が切れないうちに炙る…ちょっとフレイム」ぽぽっ
ほほう…なるほど、カリカリカリカリ
「フレイムの効果が収まるのを待って、上の紙をシュッと退けます」
ふむふむ…カリカリカリカリ
「これで完成です」
「…出来ん」
「ですよねえ、だからまだ誰にも」
「…が作れる」
「えっ?」
「光と火。
範囲指定を色、で反転、で範囲指定を面、でシュッっ、でフレイム…………できる」
「………」
そういってネリネ兄はどこかへ消え、研究員たちも続いていなくなった。
全員が部屋から出るのを待って、マグノリア教授が言った。
「…あんな感じで仕事でも最低限しか喋らないし、仕事以外では近寄ってもこないし、挨拶も出来てなくて」
「あっあー…、なるほど」
もしかして、あれは嫌ってるわけじゃなくて、単なるコミュ障ってやつなのでは…。
「あの…ネリネ教授にお兄さんが来てる事、言ってないですよね?」
「ああ、『機密、喋るな』って言うから」
「お兄さんが来てる事を?」
「うん…多分?」
「多分なんかい」
…それ単に「機密を外で軽々しく喋っちゃ駄目だよ」っていう意味じゃね?
「…仕方ないなあ」
俺はネリネ教授に忘れた話をするついでに、お兄さんが地下に来てる事もお伝えする為、またも長い階段を上るのであった……。
「おう、頼んだ」
俺はお昼を食べて気合いを入れ、古代魔法研究所へと戻る。
「まだ音してるな…出てくるのを待つか」
「いや、ろ…記録した音を流してるのかも」
簡単に録音、と言いたいところだけど、録音っていう言葉がまだ無い状態で口走るのはまずい。
奥の部屋の前で立っててもな…ということで、休憩室らしき部屋でマグノリア教授と世間話をする。
「…そういえば音を記録する機械ってどのくらいの精度なんですか?」
「ああ、かなり正確に記録できるぞ。
二重奏や三重奏もいけるからな」
「へえ…すごい!」
「あとは記録したやつで魔法陣が出るかどうか…」
マグノリア教授によると、最近軍ではイフェイオン邸での戦闘でワルド先輩やルディ君が使った魔法陣を量産しようと画策しているらしい。
「やっぱ古代魔法は詠唱が長いから、短縮できるんならそのほうが良いって話でさ。
けど魔法陣の版を作る時に問題が発生してな」
「まあ、魔法陣を逆に書くんだから何か起きそうですよね」
「そうなんだよ、下書きした途端、版木が割れたり穴が空いたり…。
だったら歌の方でどうにかなんねえかなって」
印刷が駄目なら原本を量産すればいいという事か…
すごいな軍部。
俺は何の気なしに言った。
「一応、魔法を使って書類を複製するのは出来るんですけどね」
「何だって!?」
俺の言葉にマグノリア教授が食いついた。
「ただ、結構面倒な感じで…まだちょっと」
大量の手紙を出さなきゃいけない時に思いついたコピーの魔法、あれからもうちょっと省魔力できないか色々やってみたんだけど、道半ばなんだよな。
しかも物が物だけに…うーん。
「それに、魔法陣に使えるかどうか……」
「それでもいい、やってみてくれ!」
待ってろ、研究員を呼んでくる…と言って、マグノリア教授は慌てて部屋を出て行った。
***
暫くして研究室には人がギュウギュウに押し寄せた。
その人波をかき分けて一人のおじさんが俺の前に立って言った。
「弟がお世話になっております」
「いえ、こちらこそ」
どうやらこの人がネリネ教授のお兄さんらしい。
すでに自分の名前を名乗らないあたり、俺の事も嫌いなのかもしてない。
そんなネリネ兄は俺を睨みながら言った。
「弟には」
「いえ、まだ公開もしてないので…」
「魔法侯爵様…」
「まだですね」
「初?」
「そうなりますね」
するとますますネリネ兄は俺を睨んで言った。
「りょ…準備」
「はい」
すると研究員さんたちが一枚の線画と真っ白な紙を取り出し、机の上に置いた。
そしてポケットの中からゴーグルを取り出してかけ、ノートを取り出し、ペンを構え、俺を見た。
「始めて」
「…はあ」
異様な空気の中、俺は実演しつつ手順を説明する。
「簡単に説明しますと、下に置いた書類の線だけを上に乗せた紙に焼き付けるという方法です。
まず、原本の線以外の部分を結界で覆います…ちょっと結界、線以外の部分」ぷぷぷぽわ…
ふむふむ…カリカリ
「で、写しの紙の裏にも結界を張ります…ちょっと結界、紙の裏、極薄」ほわ…
「これが紙の裏側は白いまま、表面だけを変色させるための準備ですね。
それに原本も痛まなくて済みます」
ふむふむ…カリカリ
「光魔法の結界は物理攻撃に弱いので、この上にさっきの白い紙を横からシュッと載せます。
すると結界を貫通して紙が乗ります。
ちなみにこの程度ではどちらの結界も消えませんから安心してください」
ふむふむ…カリカリカリカリ
「そして結界の効果が切れないうちに炙る…ちょっとフレイム」ぽぽっ
ほほう…なるほど、カリカリカリカリ
「フレイムの効果が収まるのを待って、上の紙をシュッと退けます」
ふむふむ…カリカリカリカリ
「これで完成です」
「…出来ん」
「ですよねえ、だからまだ誰にも」
「…が作れる」
「えっ?」
「光と火。
範囲指定を色、で反転、で範囲指定を面、でシュッっ、でフレイム…………できる」
「………」
そういってネリネ兄はどこかへ消え、研究員たちも続いていなくなった。
全員が部屋から出るのを待って、マグノリア教授が言った。
「…あんな感じで仕事でも最低限しか喋らないし、仕事以外では近寄ってもこないし、挨拶も出来てなくて」
「あっあー…、なるほど」
もしかして、あれは嫌ってるわけじゃなくて、単なるコミュ障ってやつなのでは…。
「あの…ネリネ教授にお兄さんが来てる事、言ってないですよね?」
「ああ、『機密、喋るな』って言うから」
「お兄さんが来てる事を?」
「うん…多分?」
「多分なんかい」
…それ単に「機密を外で軽々しく喋っちゃ駄目だよ」っていう意味じゃね?
「…仕方ないなあ」
俺はネリネ教授に忘れた話をするついでに、お兄さんが地下に来てる事もお伝えする為、またも長い階段を上るのであった……。
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