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新婚旅行

三つ目の辺境領

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友好の橋でスプーラ殿下とゴード先輩に会った後、そのまま北上し5日。
俺たちはついにローズ王国をぐるりと一周して、アナガリス領のお隣、ケルベラ辺境領に到着した。

ケルベラは鉱山と古代遺跡ダンジョンが有名なところだ。
でも、とある分野で最近それを凌ぐ注目を浴び始めている場所がある。

南ケルベラ大学。

俺が「魔物の死体を燃やした肥料」を紹介した研究者がいる大学だ。

今日はその先生と一緒にダンジョンの視察。
世界有数の規模を誇るそれは、とにかく広い。

「まさか、ここ一帯がダンジョンなんですか?」
「ええ、帝国時代以前の街が丸ごとダンジョンになっているんです。
 建造物が迷宮に、地下室が洞窟に、公園が森に…小さなダンジョンの集合体ですね」
「だから多様な種類の魔生物がいるんですね」
「ええ、それが作物や土壌に合わせた肥料開発に繋がっております」

昔はライ麦が主だったケルベラも少しずつ小麦の生産が増えている。
でも、それより何より…

「それでその後、ルース様の領地で育てているハーブの調子はどうですか」
「ええ、ハーブティーを全国販売できるくらいに育ってくれています。
 有難う御座います」
「いえ、こちらこそ!
 小麦の生産も肥料の販売も好調ですし、肥料の開発を頼まれる事も増えて、大学の資金も増えて…
 有難い限りです」
「領主様の願いでしたもんね、小麦だけのパンを領民に食べさせてやりたいって」
「そうなんです、私も兄と王都に出た時に食べたあのパンが忘れられなくて…」

その農学研究家の先生は、辺境伯様の弟なのだ。
でもそのおかげで、ケルベラ辺境伯はバリバリの王家派でいてくれる。
その信頼を裏切らないように頑張らないと。

「兄もお二人に会うのを楽しみにしておりますよ…
 あっ、来た来た」

何故なら、ケルベラ辺境伯は…

「おお、ケイネス!出迎えご苦労!
 肥料の材料を取ってきてやったぞ」
「ありがとうジェリド兄様、こちら…」
「これを見ろ!
 狩り時を過ぎて巨大化したブラッド・ボアだ!
 試しに半分食ってみようかと思ってな。
 この前魔生物学の論文で、魔の肉は喰えると…」

本人がめっちゃ強い。
しかも文武両道タイプ。

「ジェリド兄様!王太子殿下の御前ですよ!
 ほら、みんなも!」
「「はっ!!」」

そして領軍は、装備こそバラバラだけど統率バッチリ。
日頃は冒険者に紛れている人も多いとかで、ゲリラ戦が得意…

絶対敵に回したくないタイプ。

まあ、辺境伯全員敵に回しちゃいけないんだけどね。
アナガリス領は騎兵隊がヤバいし、エランティス領は地味に兵士の数が多い。

そんなケルベラ伯とケルベラ領軍の皆様は、俺たちに膝を付いてご挨拶下さった。

「両殿下、ようこそケルベラへ!
 どうですお二人とも、ボアの肉をお試しになりませんか?」
「ふむ…それもいいな。
 ワイルドボアと味が違うのか気になる」
「おや、他のボアをお召し上がりになった事が?」
「茹でたのをな…味が薄くていまいちだったが」
「なるほど、ではこれは焼きで試しましょう…
 総員!魔物の死体を積み込み、屋敷へ帰還する!」
「「はっ!!」」

荷馬車にドカドカと乗せられる大量の魔生物。
魔獣の肉は素材にならないけど食べられる…

「ボア食べ比べか…」
「ルース、また何か考えているな?」
「ボアジャーキー5種詰め合わせ…」

ケルベラ土産にしたら売れるかも?
でも乱獲は困るしな…うーん…

「こりゃまたどうなすったんです?」
「ああ、これがルースの真骨頂というやつだ」

殿下とケルベラ伯が何か言っている。

俺は久々に思考の波に乗り脳を回転させる…

ダンジョンに入る時に困るのは食料不足だ。
簡単にできる保存食があれば…

「干し肉…ベーコン…ウィンナー…?」

ウィンナーなら、肉を細切れにして味付けして腸に詰めてボイルして燻製。
肉をつけ込んでおく必要が無いから、それほど日持ちはしなくてもまずは気軽にできるところから…

「魔法鍋、と、魔法燻製器…取れた魔石を使うなら魔法陣…か…古代魔法…マグノリア教授か…」

俺は荷馬車に無造作に詰まれた魔生物たちを見る。
は食べられる、でも魔はまだ食べてみた事が無い。

「うーん…サーペントならワンチャン…」

「まさか、ルース殿下は蛇を喰う気か!?」
「まあ、蛇ならまだ…昆虫を喰うと言い始めた時は、さすがに全員で止めたがな」
「強すぎる…!!」

それでも魔生物の死骸は肥料として使える。
だから素材以外の部分にも注目が集まっている…
でも持って帰るのは楽じゃない。

「ダンジョン内で物資なり死骸なりを運んでくれる職業…ホバー台車…アイリス商会の隣がギルドだし…あっ」

それか、燃やして灰を持って帰る?
灰を入れる用の袋を用意して…あーでも何の灰か分かんないと困るな。

「…灰から魔生物を特定できる装置…ビスカリア教授に聞いてみよう…」

もし灰から特定できるならありだな。
死体を燃やす用の魔道具があれば便利だったりしないかな。
でも燃やすのもタダじゃない、魔法が必要だったり、火種が必要だったり…

「どの属性の魔石でも嵌めたら炎が出る杖…だからガーベラ先輩…いや、高くなるからスイッチ式で行くべき…だからこれはネリネ教授に相談して…」

うーん、帰りに学園に寄ってみようかな。
手紙を書いておこう…

「そういえば、モロー君は元気かなあ」

ケルベラ領での視察が終わったら、ウィン兄とディー兄と合流だ。
その時モロー君にも会えるといいな。

ケーブルカー、上手く行ってると良いんだけど…。
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