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新婚旅行

海沿いの療養所 2

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「ここが伯父さんのいる療養所か…」

春先の心地良い風が吹く、海沿いのリゾートホテルのような建物。
美しい庭園にプライベートビーチさえあるこの場所は、本来、余命いくばくも無い貴族が最期を過ごしたいと願う高級養護施設だそうだ。

この国の精神病院は残念ながら全て隔離施設であり、風光明媚とは程遠い山奥に建っている。

本当なら、伯父さんはそこへ入院するはずだったんだ。
だけど、攫われて監禁され壊れても尚レイプされ化け物の子を産まされ、そんな辛い人生の行き着く先がそんな場所だなんて…と、何とかこの施設へ伯父さんを入れてくれたのは前国王殿下…
つまりおじいちゃん先生だ。

「…色々、お気遣い頂きました」
「当たり前の事だ」

殿下はきっぱりとそう言い切る。
だけど、俺は違うと思う。

「当たり前ではありません。
 伯父の件に関して、王家が償わなきゃならない理由は1つも無いのに」

王家は、隙あらばユーフォルビアに七代も前の事を償おうとする。
だけどもう、これで終わりにしないと…
ユーフォルビアは一旦幕を下ろすんだしさ。

「……償いたい気持ちが義務に変わった時、きっと憎しみが生まれる。
 王家がユーフォルビアの血筋を目の敵にするような未来は、見たくありませんから」
「…そうか」

殿下は納得したような、納得しないような口調でそう言った。




施設のそばにある神殿に行くと、すでにダグさんとセント神官長が待っていた。

「お待たせしました、ダグさん、神官長」
「…だから、もう神官長じゃないとあれほど」
「別に良いじゃないですか、もう渾名あだなみたいなもんですし」

とはいえ、伯父さんの前では神官長はセントさんと呼ぶべきだろうか…悩む。

ダグさんと神官長の出会いエピソードはOK。
イフェイオン家が潰れたのは本当だ。
ダグさんの架空の父親の話は、アンジャベル卿に頭を下げて良さげな冒険者の人生を借りて来た。

「では行きましょうか、皆さん」
「ああ…そうだな」
「上手く行くと良いな」
「大丈夫、きっと上手くいく」

そう信じてやれば成功率も上がるからな…と殿下が言い、俺たちは緊張しながら療養所の門をくぐった。

***

伯父さんの治療を担当しているお医者さんの案内で、診療所内を歩く。

計画としては、まず最初に俺と殿下の2人で面会してから闇飛ばしを施した後、殿下に闇魔法をかけてもらい、そのサポートをダグさんと神官長にしてもらう…

担当のお医者さんも見守ってくれるそうだ。

「…こちらが、カール・ユーフォルビア様のお部屋です」
「ありがとうございます」

扉をノックして、担当医さんを先頭に部屋へ入る。
初めて見る伯父さんの姿は、ゼフ父さんより少し背が低く、真っ白な髪に透き通るような肌の…
薄幸を絵に描いたようなおじさんだった。

お医者さんが伯父さんに呼びかけた。

「カールさん、今日は甥っ子さんが伴侶の方と一緒にお見舞いに来てくれたよ」
「……」

伯父さんは首を傾げて俺と殿下を見る。
でも、ただそれだけ。
何を言うでもなく…表情を変えるでも無く。
それを敢えて気にせず俺は話しかける。

「初めまして、伯父さん。
 ゼフの末息子の、ルースです」

すると伯父さんはちょっとだけ反応した。

「ぜふ」
「はい、ゼフは父です」
「るーす」
「はい、僕はルースです」
「そうか…きみが、ルース…」

そしてまた黙った。
ちらりと担当医さんを見ると、少し驚いたような顔をしていた。

担当医さんは伯父さんに話しかけた。

「カールさん、甥っ子さんの事、分かるの」
「……」

また反応が無い。
俺は殿下をおじさんに紹介する。

「伯父さん、この人はね。
 アルファード王太子殿下だよ」
「…おう、たいし…」
「うん、王家として伯父さんに話したい事があるんだって」
「……」

伯父さんはまた無言になった。
緊張しているんだろうか…
俺は伯父さんにもう一度話しかける。

「伯父さん、僕の事は、何で分かるの?」
「うん、ゼフからきいた」

そう言って、伯父さんはベッドサイドにあった一通の手紙を俺に手渡した。
担当医さんがまた言った。

「カールさん、手紙、読めたの?」
「……」

なぜかお医者さんの言葉には反応しない伯父さん。

なんでだろう?

俺は手紙を読んでみた。
そこには俺が闇魔法を解く方法を編み出した事や、心に深い傷を負った人を救う研究をしていると書かれていた。

「先生は、こちらの手紙を読んだことは?」
「…いいえ、カールさんが嫌がるので」
「そうでしたか」

俺は伯父さんに聞いてみる。

「伯父さん、僕の研究はまだ、誰にも試したことが無いんです」
「……うん」
「それでも、いいですか」
「…いいよ」
「ありがとう…伯父さん」

そして、

「じゃあ、早速光魔法…かけてみるね?」
「うん」

俺はそっと伯父さんの頭に手を当てて、祈る様に唱えた。

「……秘儀、闇飛ばし」


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