上 下
501 / 586
新婚旅行

The・オーバーツーリズム

しおりを挟む
エランティス領の北東、他国との国境近くにある難関ダンジョン、それが「災禍の大穴」だ。

入口がでっかい竪穴になっていて、中に入るには監視塔の魔道エレベーターを借りなければならない。
受付で身元確認や審査もするそうだ。
さすが「難関」…誰でも入れるわけじゃないんだな。


道中、何人か大荷物を抱えた観光客を見た。
彼らに話を聞いてみると、すでにファンの間で「災禍の大穴観光=野宿」の図式が定着しているらしい。

発売から僅か2年程のうちに…なんてこった。

「監視塔には何人が勤務してるんですか?」
「常駐は5名。
 だが、常時見回りに50~60名程出ている」
「そうなんですか、今までは?」
「観光客が増えるまでは常駐を含めて20名程度だ」
「むしろそれだけで良く足りてましたね?」
「自殺や殺しの名所を見回るだけで良かったからな」

義祖父じい様たちによると、飛び込みたくなる場所と投げ込みやすい場所は同じなんだそう。
あんま知りたくなかったな、そういうの…。

「まあ、それはさておきだな。
 あの小説がこの穴を『失われた魔法の爪痕』とか書いたものだから、本当の話を教えろと監視塔へ乗り込んでくるやつらまで出て、大騒ぎさ」

歴史では「災禍の大穴」は4帝国時代後期に起こった巨大地震の跡だって習うんだけど、ずっと昔から

「どっかの国が人為的に地震を起こすために魔法で穴を開けた」とか、
「地震を起こす魔法を秘匿するために国家が真実を隠している」とか、

いわゆる都市伝説みたいなものがあるんだって。

「地底の皇」は、実はその都市伝説が真実だった…っていうスタンスで書かれているんだけど…
元はと言えば俺とトレッドさんが「暗き森の遺跡」でしてた与太話。

本当に小説になるとは思わなかったし、
それがめっちゃ売れるとも思わなかったし、
書いてるのがトレッドさんの彼氏だとも思わなかった。
だからエランティス領の皆様を困らせる事になるなんて、想像もしなかったんだ…

はあ…どうしよう。

「観光客が来すぎて困るなんて事、あるんですね…」
「そうだな、私達も完全に想定外だった」
「昔から歴史好きがやって来る事はあったんだ。
 ここはダンジョンだから少し離れれば小さくても宿屋はあるし、監視塔には食堂もある。
 小さいが、それで足りていた…今までは」
「…つまり受け入れられる人数以上の観光客が来て困っている…ということですね」
「ああ、その通りだ」
「宿泊場所の不足だけでなく、衛生問題も…」
「あー…」

うーん、典型的オーバーツーリズム。
前世でも急に人が増えて困る話は良くあったけど…
まあ、トイレとゴミはスライム牧場で何とかなるか。
スライム捕まえる壺を作っておこう。

「それから、兵士を増やした事が隣国に不信感を与えているようで、色々と文句を言ってくるようになった」
「さらに困りましたね」

すると殿下が怪訝な顔でお義祖父じい様たちに言う。

「あちらに根回しはしなかったのですか?
 急に国境沿いの警備が2倍3倍になったら警戒するのは分かり切っているではありませんか」
「当然している、だが最近になって難癖をつけ始めたんだ」
「ふむ、そうなると…何か狙いでもあるのか?」
「難癖の内容は何なんです?」
「ああ、うちの国が戦争を仕掛けるとでも思っているのかとか…そういう内容だな」

うーん、めっちゃありがちな内容だな。
そんなつもりはありませんよ、と言っても納得しないアレだ。
しかし、そんなの中央に直接言いに来ることじゃないの?
訳分らんな。

「怒っているぞ、というポーズですかね?」
「ふむ、国内向けのアピールに巻き込まれているのかもしれんな」
「脅して金をせびるパターンかもしれんがな」

それはそれでメンドクサイ話だなあ。

「王都に戻ったら大使の方に聞いてみましょう」
「そうだな、それが良い」

ともあれ、現場に行ってみない事には始まらない。

レッツゴー大穴!!

***

災禍の大穴に着いてみると、美しかったであろう草原にところどころ穴が開いている。

用を足すのに穴を掘ったんだろうけど、埋めるのが適当だったんだな…
あと焚火の跡がちらほら。
よく火事にならなかったもんだ…。

「ああいう場所は、ライフグロウで草を生やして誤魔化すとして…
 観光客が最も集まりやすい所ってどこなんですか?」
「ああ、それは多分水汲み場だろう」
「じゃあ、早速そこに行って話をしてみましょう」

野宿は監視塔の周辺でしてもらう。
穴を観察に行くときは護衛を雇ってもらう…
ということは。

「お義祖父じい様、ギルドへの依頼料をください」
「…それは私達にではなくラウルに頼んでおくれ、ルース殿」

そりゃそうだ。
領税の決裁権は領主様だもんな…。

さすがに「義」祖父様には甘えられないか。
孫は甘やかさないなら孫の伴侶はもっと甘やかさないだろうしな…。

まあ、いざとなったらどうにかしてお金を稼ごう…
補佐室にブレーンは揃ってるしね!

======

「地底の皇」の元になった与太話につきましては
・学園3年目/怒涛の学外研修(暗き森の遺跡)
ご参照ください!


しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

目の前の魔法陣と男に巻き込まれて

葵桜
BL
※厨二病時の厨二病による厨二病異世界BL王道?ファンタジー さっきから根暗くん根暗くんって何なんだ。 名前くらい覚えろやぁ! ってなんで壁ドンされてんのかなぁ...? あ、なんか君の後ろに魔法陣が見えるな!ハハハ! 勇者ぽい自己中顔面アイドル君に巻き込まれなんか異世界転移をとげるらしい。 どうか恋人ができますように。 いや、無双ができますように? 年に数回ぼちぼちとリメイクしています。 終わったあと興味があればぜひもう一度読んでください。 完結は…。できないかもしれないです。気長にお待ちください。申し訳ございません。

処理中です...