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卒業後
【おまけの3】新・魔法師団副団長たち
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4/20から新婚旅行編(?)始めます。
まずは肩慣らしということで…
====================
後宮が正室補佐局と名前を変えて始動した頃、団長も副団長も居なくなってしまった王都魔法師団の新体制もまた発足した。
本当はもっと早く発足する予定だったのに、夏休みを利用しての特別講習の予定が色々あってずれにずれた結果今の今まで延期されていたのである。
講師になる予定だった魔法侯爵たちがカメリアの事件に駆り出されている間に夏休みは終わるし、2学期早々にベルガモット教授は倒れるし、大騒ぎだったのだ。
魔法棟5侯爵の父親たちに声を掛けて何とかしたものの…前ベルガモット侯は魔法とは畑違いのお方。
そんなわけで書類作成と文書管理、予算組立に組織運営まで叩き込まれる事になった魔法師団員はぐったり。
その上、発足が春休みを過ぎてしまったおかげで王都魔法師団には学園を卒業したばかりの新人が殺到し、新卒採用まで降って来てすったもんだである。
何でかって?
そりゃもう採用基準が今までと違うからだ。
爵位や身分にこだわるような気配のある者は入れられない。
先の事件ではそこにつけ込まれてやられた。
二度も同じ事を繰り返すわけには行かない。
…そんなわけで、厳しい面接と素行調査の末、新人30名が新たに魔法師団に加わった。
正直に言って魔法の能力より人柄。
ぶっちゃけ魔法は入団してから鍛えれば良いが、18を過ぎてからの思想矯正は難しい。
それこそ闇魔法でも無ければ…。
***
「…で、試験の結果と実力と今までの経歴から順に団長・第一副団長・第二副団長…としていきますとですね、副団長はお二人に…ということになるわけですね」
「嫌だ」
「面倒だ」
「そんなところまでヘヴィさんと似るの辞めてもらえません!?」
現在、王都魔法師団を仮統括するのは王太子正室であるルースだ。
単純に魔力量が圧倒的だからである。
そういうわけで、団長も副団長も居ない王都魔法師団の全権限は人事も含め彼に委ねられている…
簡単に言えば、押し付けられたという事だ。
誰に…って、
そりゃ、
魔王に…である。
そしてルースの話に頑として首を振らないのは、その魔王の息子、グロリオサ兄弟だ。
「もう新団長さんにはOK貰ってるんですから」
「知らん」
「親父の尻拭いなど御免だな」
「ここにこうして客観的資料もあるんですよ」
「主観的には副団長に向いていると思わん」
「そうだな、副団長は…ほら、あの、今年入った…ベルガモット侯の教え子だとか言う」
「それ、5人いるうちの誰ですかね?」
「では光の侯爵の教え子はどうだ、ちょうど2人だし良いんじゃないか」
「どういう計算ですか!?」
どういう計算も無い。
単純に2人が指定できれば良かっただけだ。
要は自分たちで無ければ何でもいいのだ。
魔王の息子たちは言った。
「それより補佐局付きの護衛になりたい」
「それは近衛騎士団の仕事ですね」
ルースにバッサリ斬られる。
それでも2人はめげない。
「くそ…ゴードにもっと魔法拳を教わっておけば」
「今からでもカメリアへ行って習ってくるか…」
「何を企んどるんですか!?」
何を企んでるって、そりゃあ簡単な事だ。
補佐局の護衛になるために、今からでも騎士団に入るつもりなのだ。
2人の思いはこうだ。
「我々は弟を守らなければならない」
「そうだ、言葉が下手で何度も弟を傷つけた分、償わなければならない。
父と同じ様に…」
グロリオサ兄弟の真剣な口ぶりに、ルースはため息をつく。
そして暫くの沈黙の後、仕方なく…といった様子で「ここだけの話」を始める。
「ウェルターさん、バンタムさん。
その…弟さんを守りたいのか、構いたいのかにもよりますけど」
「「どちらもだ、問題ない」」
即答する2人に頭を抱えるルース。
どちらであっても問題しかないんですけど?
という言葉を飲み込んで、続きを話す。
「補佐局付きの魔法使い、というのがありましてね」
「ほう?」
「それはどんな仕事だ?」
何という素直な性格だろう!
駆け引きに疎いグロリオサ兄弟は、すぐに喰いついた。
「以前ヘヴィさんがなさっていたような事ですが…
ダンジョンへの同行や実験の手伝いなどをして頂きます」
「何だ、そんな良い仕事があるのか!?」
グロリオサ兄弟は考えた。
父の跡を継ぐというのなら、魔法師団内から反対意見も出るまい。
副団長は名誉が必要な者に譲ってやれば良い。
「これなら八方丸く治まる!!」
2人は大いに喜んだ。
だがしかし、ルースの話には続きがあった。
「ただ前例からしますと、それなりの役職付きである方が望ましいと…」
「…ふむ?」
「…うん?」
「つまり、副団長になられないのであれば、補佐局付きにはなれません」
「「何だと!!?」」
2人は慌てた。
なるほど、あの親父が副団長などという面倒な地位についたのはこの為だったか…
と、時系列に合わない納得をする位には。
ルースは一瞬悪い顔をしたが彼らは気づかない。
何たるピュアさ加減だろうか…
こんなに簡単に手のひらで転がされるなんて!
「ヘヴィさんも副団長でいらしたでしょ?
補佐局は王家に最も近い場所ですから、団長や副団長のような役職付きの人でないと余計な噂が出て困りますからね…」
「「なるほど分かった」」
…かくして、新生王都魔法師団は始まった。
思いの外チョロい副師団長2人と共に…。
まずは肩慣らしということで…
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後宮が正室補佐局と名前を変えて始動した頃、団長も副団長も居なくなってしまった王都魔法師団の新体制もまた発足した。
本当はもっと早く発足する予定だったのに、夏休みを利用しての特別講習の予定が色々あってずれにずれた結果今の今まで延期されていたのである。
講師になる予定だった魔法侯爵たちがカメリアの事件に駆り出されている間に夏休みは終わるし、2学期早々にベルガモット教授は倒れるし、大騒ぎだったのだ。
魔法棟5侯爵の父親たちに声を掛けて何とかしたものの…前ベルガモット侯は魔法とは畑違いのお方。
そんなわけで書類作成と文書管理、予算組立に組織運営まで叩き込まれる事になった魔法師団員はぐったり。
その上、発足が春休みを過ぎてしまったおかげで王都魔法師団には学園を卒業したばかりの新人が殺到し、新卒採用まで降って来てすったもんだである。
何でかって?
そりゃもう採用基準が今までと違うからだ。
爵位や身分にこだわるような気配のある者は入れられない。
先の事件ではそこにつけ込まれてやられた。
二度も同じ事を繰り返すわけには行かない。
…そんなわけで、厳しい面接と素行調査の末、新人30名が新たに魔法師団に加わった。
正直に言って魔法の能力より人柄。
ぶっちゃけ魔法は入団してから鍛えれば良いが、18を過ぎてからの思想矯正は難しい。
それこそ闇魔法でも無ければ…。
***
「…で、試験の結果と実力と今までの経歴から順に団長・第一副団長・第二副団長…としていきますとですね、副団長はお二人に…ということになるわけですね」
「嫌だ」
「面倒だ」
「そんなところまでヘヴィさんと似るの辞めてもらえません!?」
現在、王都魔法師団を仮統括するのは王太子正室であるルースだ。
単純に魔力量が圧倒的だからである。
そういうわけで、団長も副団長も居ない王都魔法師団の全権限は人事も含め彼に委ねられている…
簡単に言えば、押し付けられたという事だ。
誰に…って、
そりゃ、
魔王に…である。
そしてルースの話に頑として首を振らないのは、その魔王の息子、グロリオサ兄弟だ。
「もう新団長さんにはOK貰ってるんですから」
「知らん」
「親父の尻拭いなど御免だな」
「ここにこうして客観的資料もあるんですよ」
「主観的には副団長に向いていると思わん」
「そうだな、副団長は…ほら、あの、今年入った…ベルガモット侯の教え子だとか言う」
「それ、5人いるうちの誰ですかね?」
「では光の侯爵の教え子はどうだ、ちょうど2人だし良いんじゃないか」
「どういう計算ですか!?」
どういう計算も無い。
単純に2人が指定できれば良かっただけだ。
要は自分たちで無ければ何でもいいのだ。
魔王の息子たちは言った。
「それより補佐局付きの護衛になりたい」
「それは近衛騎士団の仕事ですね」
ルースにバッサリ斬られる。
それでも2人はめげない。
「くそ…ゴードにもっと魔法拳を教わっておけば」
「今からでもカメリアへ行って習ってくるか…」
「何を企んどるんですか!?」
何を企んでるって、そりゃあ簡単な事だ。
補佐局の護衛になるために、今からでも騎士団に入るつもりなのだ。
2人の思いはこうだ。
「我々は弟を守らなければならない」
「そうだ、言葉が下手で何度も弟を傷つけた分、償わなければならない。
父と同じ様に…」
グロリオサ兄弟の真剣な口ぶりに、ルースはため息をつく。
そして暫くの沈黙の後、仕方なく…といった様子で「ここだけの話」を始める。
「ウェルターさん、バンタムさん。
その…弟さんを守りたいのか、構いたいのかにもよりますけど」
「「どちらもだ、問題ない」」
即答する2人に頭を抱えるルース。
どちらであっても問題しかないんですけど?
という言葉を飲み込んで、続きを話す。
「補佐局付きの魔法使い、というのがありましてね」
「ほう?」
「それはどんな仕事だ?」
何という素直な性格だろう!
駆け引きに疎いグロリオサ兄弟は、すぐに喰いついた。
「以前ヘヴィさんがなさっていたような事ですが…
ダンジョンへの同行や実験の手伝いなどをして頂きます」
「何だ、そんな良い仕事があるのか!?」
グロリオサ兄弟は考えた。
父の跡を継ぐというのなら、魔法師団内から反対意見も出るまい。
副団長は名誉が必要な者に譲ってやれば良い。
「これなら八方丸く治まる!!」
2人は大いに喜んだ。
だがしかし、ルースの話には続きがあった。
「ただ前例からしますと、それなりの役職付きである方が望ましいと…」
「…ふむ?」
「…うん?」
「つまり、副団長になられないのであれば、補佐局付きにはなれません」
「「何だと!!?」」
2人は慌てた。
なるほど、あの親父が副団長などという面倒な地位についたのはこの為だったか…
と、時系列に合わない納得をする位には。
ルースは一瞬悪い顔をしたが彼らは気づかない。
何たるピュアさ加減だろうか…
こんなに簡単に手のひらで転がされるなんて!
「ヘヴィさんも副団長でいらしたでしょ?
補佐局は王家に最も近い場所ですから、団長や副団長のような役職付きの人でないと余計な噂が出て困りますからね…」
「「なるほど分かった」」
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