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学園6年目

卒業式と最後のVIP

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「本日をもって我々はこの学園を卒業し…」

殿下の答辞は滔々と流れる。
これが終わったら卒業式は終わり。
この後に控えた卒業パーティーまでは自由時間だ。

「卒業パーティーでもダンスがあるとは…」

俺の呟きにフィーデ君が囁き返す。

「ほとんどの方が未婚ですからね」
「未婚の人だけ踊れば良いのでは?」
「そういうわけにはいきませんよ!
 殿下は前生徒会長として踊る義務がありますし」
「えええ…」

そういうフィーデ君は次期生徒会長としてアウディ君と踊る…



実は、プリムラ家を潰す前に2人の婚姻届を何とかねじ込んだんだ。

あの時はセリンセ商会の特急ホバー便に随分助けられた。
婚姻届の用紙を持ってテナチュール侯爵の屋敷まで行ってサイン貰って帰って来るまでたった3日…。
特急ホバー便は川も道として使えるから時に早馬より早い…とは聞いたけど、想像以上だった。

幸いだったのは、アウディ君が成人してて親の同意が不要だったことだ。
そっちのほうまでサイン貰いに行ってたら絶対間に合ってなかったと思う…

プリムラ家を潰した時は、別の意味で感慨深くなってみたりして。



「……卒業生代表、アルファード・ローズ」

殿下の答辞が終わり、拍手が巻き起こる。
その拍手の中、卒業生たちは退場していく。
俺と殿下は一番最後だ。

「ルース、行くぞ」
「はい、殿下」

もうエスコートも慣れてきた。
後はダンスパーティーに慣れるだけ…

あっ。

「既婚者は踊らなくて良い法律を作れば…」
「何を考えているんだお前は」
「だって踊りたくないんですもん!」

そんなアホな会話をしながら講堂を出ると、そこには俺たちを待ち構える様にして、アンジャベル卿と見知らぬムキムキのおじさんが立っていた…。

***

「アルファード殿下、ルースど…殿下」
「あの、今までと同じで結構です」
「そうはいかん、ギルドと王家の適度な距離…は置いておいてだな。
 この方がどうしてもルース殿下に会いたいと仰るのでお連れしたんだ」

どうやらこの人は、アンジャベル卿が自然と敬語を使うほどの人らしい。
そうなるとだいぶ範囲が狭まるけど…

まさか。

すると、初めましてのおじさんが俺たちににスッと近づいて小さくてよく通る声で言った。

「初めましてアルファード殿下、ルース殿下。
 冒険者の桜井飛彩ひいろと申します」
「……さくらい?」

まさか、このタイミングで……?

「ええ、こちらでは「英雄えいゆう」と呼ばれたりします」
「ちょ、ちょっと待ってください!?」

ニコニコする桜井氏。
慌てる俺。

「あの、ここでは何ですから、良ければ研究室へ」
「ああ、すまんな…参りましょうか、サクライ殿」

最後の最後に超VIP来るやんけ!!

どうなってんねん!!

***

俺は殿下と一緒に魔法総合研究室分室へ2人を案内し、お茶を煎れた。
アンジャベル卿は通信用タイプライターに興味津々。

「む?ルースど…殿下、これは何だ?」
「ああ、王宮と学園を結ぶホットラインです」

俺がそう言うと、桜井さんが「ホットライン」という言葉に反応した。

「つまり遠距離通信の魔道具ですか」
「うーんさすが異世界関係者、話が早い」

…やっぱり簡単に言葉が通じるのは楽でいいな。

「こっちに無い言葉を伝えるって難しいですよね」
「概念自体が無かったりしますからね」

そんなわけで、時間も無い事だし言葉の説明のいらない者同士で話し合おうという事になり…

殿下とアンジャベル卿の立ち合いの元、俺と桜井さんの会談が始まった。

「俺は転生ですけど、桜井さんは?」
「俺は転移のほうですね。
 高校2年の時にこちらへ来まして…いつの間にかこちらの生活の方が長くなりました。
 部活帰りに近道しようと公園を突っ切ったつもりが、気が付いたらゴブリンに囲まれておりまして」
「ハードすぎる滑り出し!!」
「次から次へ出て来ては襲い掛かってくるもんですから、片っ端からりまして…」
「や…った!?」
「だってゴブリンって魔物でしょ?俺結構オタクなんで、すぐ分かりましたよ」
「いやいやいやいや」

話によると桜井氏は空手有段者で、インハイ出場経験もあるゴリゴリの武闘派。
ゴブリンを狩りまくる漫画を読んでいた事もあり、転移してすぐの事でも躊躇は無かったそうだ。

「ダークファンタジーも結構好きで…
 子どもの時はドラゴンを殺せるくらいのクソデカイ剣を振り回して異形をブチ殺すのに憧れたりして」
「あの漫画ですか!俺も好きで全巻持ってた!」
「めちゃカッコイイですよね!!」

そんなわけで、転移してから今までゴブリンを片っ端からぶっ殺しまくり、助けた村や町は両手に余るほどになり……
その功績から英雄と呼ばれるに至ったそうだ。

別に専門ではないそうだけど、なぜか「呼ばれる」ようにゴブリンに悩まされている地域へ行ってしまうらしい……不思議だな。

「まあ、そんなこんなで丁度今年でこっちに来て30年になりまして。
 それで最近気が付いたんですよ…
 この世界が「薔薇の楽園」に似てるなって」
「えっ」
「自分腐男子ってやつでして、がっつりハマって結構やりこんでたんすよね~。
 スチルコンプは当然、薄い本も公式本も、アンソロまで買い漁って…」
「そ…うなん、ですか」

ま、さ、か……

最後の最後に、答え合わせすんの?

めっちゃ不安しかないんやけど!!
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