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学園6年目

後宮という名の何か、始動 ~魔法総合のひとたち~

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後宮の1階、中央入口から右側の4つの部屋には次々と荷物が運び込まれて行く。

衣装と生活雑貨、本とノートと紙と文房具、真っ白の小さな石が詰まった大きな瓶が1本ずつ。
その隣の部屋には「魔法総合研究室王宮支部」の看板が掛けられ、ティーポットとマグカップと大量のメモ用紙に謎の実験用具と大きな黒板一枚がすでに搬入済みとなっていた。

最近やたらお腹が空くんだよね…と間食のパンを齧りながら、エル王子が言った。
「我が君の結婚式もそろそろだねぇ」

その言葉にカートが反応する。
「ついにルースさんが殿下の伴侶になるんですね…」

さらにヘザーが言う。
「エル王子、いつまでその我が君って使うんですか?」

エル王子は2個目のパンを齧りながら言った。
「そうですね、もうアルファード殿下をからかうのも飽きてきたので辞めようかと」

ジョンが驚く。
「そんな理由で呼んでたんですか!?」

エル王子はふふ、と笑いながら言う。
「だってあの嫌そうな顔、面白いじゃない」

そして全員が笑いだす。
「ひどい!あははは」

すると遠くから声を掛ける人がある。

「おーい皆!片づけを手伝ってくれ~」

学園の校長を今年度限りで辞し、王宮に舞い戻った前国王カルロスだ。
4人はそれぞれ返答する。

「はーい教授」
「そういえば先生の事ももうカルロス殿下って呼ばないと駄目ですよね?」
「公の場でだけな!研究所内では今まで通り呼んでくれんと、調子が出んからのう」
「そういうものですか?」
「うむ、名前は大事じゃぞ」

儂の仮眠室も欲しいのう…などと言いながらカルロス殿下は4人を伴って後宮へ入る。

「エル、こちらを寝室にするので宜しいですか?」
「そうだね、こっちのベッドのほうがちょっと広いからね」
「では、あちらの部屋のベッドは外へ出します…すまん、手伝ってくれ」
「かしこまりました~」

ジョンは家財を運搬してきた男たちと一緒に不要な家具を運び出す。

「ヘザー先輩と僕はこっちを寝室にします!
 天蓋付きでヘザー先輩がよりエロチックに見えるので!」
「ちょ、カート、やめてよう!」
「じゃあそっちもベッドを出すか…すまん、頼めるか?」
「もちろんです!おーい皆、搬出ー」
「「へーい」」

物を運ぶプロフェッショナルたちは軽々とベッドを運び出していく。
それほど筋肉があるようにも見えないのに不思議なものだ。

「カルロス様ぁ!不要なベッドは国王陛下の後宮へ入れるんでしたね?」
「そうじゃ、あっちのベッドは半分腐っとるからの…
 エル王子、スライムは腐った木材を食うか?」
「腐ってれば食べますよ!
 そういえば最近埃や汚れを積極的に食べる種が出て来ましてね、それをあっちにはなっておけば大掃除が捗るのではないかと思って」
「思って?」
はなっておきました」
「うむ、さすがじゃ」

飼育する様になってから、スライムは色々と分化を始めたんです…とエル王子。
どうやらスライムは食べるものや育つ環境によって自分を変化させる事が出来るらしい。
飼育できる魔物としてこれからも研究をしていくことと、もちろん魔生物の大発生を予測する研究も引き続きやっていくという。

「暗き森の遺跡で、大発生前にスライムが殆ど出て来なかったでしょう?
 何かを察して物陰に隠れる性質があるんじゃないかと思いましてね、各牧場に身を隠せるような壺を用意してみることにしたんです。
 上手くいくかは分かりませんが、スライムの動きに異常があれば周辺住民に避難を促します。
 外れたら外れたで、避難訓練にはなるでしょうから」

ただ表向き、この研究を担当しているのはジョンだと発表されている。
冒険者として有名な彼の言う事なら多くの人が耳を傾けるだろう。

「エルの功績を奪ってしまうようで、申し訳ないのですが…」
「功績も何も、伝わらないと意味が無いでしょ?
 魔物の事やダンジョンの事は、隣の国から来た王子様より世界を股にかけて活躍してきた冒険者のほうが説得力があるもの」
「しかし…」
「その代わりジョンさんはいっぱい手伝えばいいと思います!」
「研究はもちろん、施設づくりは僕たちだけじゃ完成できないものね」

カートとヘザーは2人で建築魔法工法も鍛えていくつもりだ。

カートは神殿の監査統括が主業務だが、神童と呼ばれた魔法の腕を腐らせるつもりは毛頭ない。
それに、ヘザーの主業務は土魔法の研究…前国王の研究を引き継いで土属性の権威を目指すのだ。

土属性の魔法侯爵がいないので、土属性の研究は引継ぎが大事…。

「おらんという事すら、誰も気づかんしのう」
「地味にも程がありますね」
「まあ、必要無かったんじゃろうの…。
 土魔法の極大魔法大地崩落フォール・エンドは大昔に戦争で使われた記録が残っとるが、敵どころか味方まで巻き込んでとんでもない大穴を開けたとかで、禁忌の一つになっておるからのう」
「最上位魔法の大地引裂アースクラックだって、大地震の引き金になりかねませんしね」

結局地味な部分しか使い様がないのが土魔法なのだ。
それでも一応、失われた魔法にするのも悔しいから研究だけはするのだが…。

「最後の土魔法侯爵か…どんな人だったんでしょうね」
「さあのう…公式の記録が残っとらんからな。
 それこそ魔法歴史学者にでも聞く方が良いの」
「何だか闇を感じますね」
「そうだね」

火の侯爵家は戦争で断絶した。
土の侯爵家の断絶した理由は何なのか…

またそれは別の話。

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