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学園6年目

新聞記者の憂鬱 ~トレッドさん視点~

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「なあトレッド、お前側室になれないの」
「なれませんよ」
「何とか一人ぐらいさあ…」
「なれませんよ」

俺と上司は最近この掛け合いばかりしている。
なれないものはなれない。
残念ながら。

「折角苗字あんのにさ、勿体ないじゃん」
「勿体ないも何も、もうとっくにケアノツス家なんか無いんですよ」
「貴族名鑑とかに載ってないの」
「載ってたら平民にならんでしょうが!」
「確かにそうだわ」

そりゃまあ血縁がないわけじゃないが、貴族の夜会やら茶会やらに潜入するのに都合が良いから拝借してるようなもんで俺に貴族って意識は1㎜も無い。
魔法も使えないしな。
それが急に貴族面始めたらただのヤベー奴だろ…。

「大体、貴族で殿下と顔見知りならOKってもんじゃないんですよ」
「分かってるよ、何か役に立たなきゃなんないんだろ?なんか無いの」
「無いですよ、俺はただの新聞記者だし、メディア戦略はイドラ…アイリスの御曹司がいるでしょ」
「ああ…そうか、そうだった…」

アイリス家ってのは、どこを買収するわけでもないのに自分たちに都合の良い情報を流すんだ。
それが嘘なら暴き様もあるんだが、嘘じゃなくて本当の事だから質が悪い。
都合の良い真実だけを伝えることができるってのは、マジでヤバい。

イドラ曰く、金を使って情報を流させるのは三流だそうだ。
一流になると、発言1つで勝手に推測を拡げさせられるんだと。

その上で「僕はまだ二流ですよ」と言いやがる…

怖っ。

「あーあ、後宮のドロドロした愛憎劇とか面白そうなのにな…」
「愛憎劇?…そんなもの起きるかどうか。
 あれくらいじゃないですか、シャムロックの長男と平民になった元公爵家の長男の恋愛劇」
「なんだそれ面白そうだな」
「何の役にも立たねえで後宮入ってんのそいつらだけですからね、ほら」

俺は昨日王宮から正式に発表された後宮改革案を改めて上司に見せた。

「エルグラン王子はスライムを利用した環境整備の研究。
 ジョンさんはダンジョン内のスライムの増減で魔物の大発生を予測する研究。
 カートは神殿の監査統括。
 ヘザーはその補佐と土魔法の研究。
 ソランは魔生物研究と古の職業「盾」の再興。
 イドラは貴族の事業計画への助言と指導。
 ノースさんはシャラパールとの友好と交易。
 ガントレットは魔道具開発。
 ルディとワルドは古代魔法の研究、
 カイトとデューイは文化関係の役職に着いて、
 ベルガモット教授は教育関連事業の統括で、
 魔法侯爵4人はそのまま学園で魔法学の教授。
 セント神官長は神殿から来てる王家の監査役、
 ダグは冒険者ギルドから来てる王家の監査役」
「ふんふん」
「ここまでで19人…でも、側室の数は21人でしょ」
「確かに2人足りないな」
「つまりこの残り2人は、特に仕事が無いんですよ」
「…それって表向きの話だろ?」
「…表向きの、話…あっ!そういう事か…
 そんじゃそれくらいは行って聞いてきますよ」
「頼もしいな~さすがトレッド」

この程度を探るぐらいなら、わざわざ側室になる必要もない。
一応あの「招待制学術交流会」に招待される程度には、ルースとの関係が続いてるし…
それに側室なんかになったら、また恋人との結婚が遠のくだろ?
もうそろそろヤベーんだよ。

いい加減にしないと監禁するよ?ってさ。

「側室なんかにならなくても、正室殿下との関係が途切れなきゃこっちのもんでしょ」
「いや、せっかくだから危険な橋渡りたいかなーと思ってさ」
「馬鹿なんすかあんた」

俺は、新聞記者としての誇りも自分の命も捨てたくない!

「潜入取材は命あっての物種ですよ」
「まあ、死んだら記事書けないしな」

というわけで、俺は取材の為に王宮へ向かう。
ルースの友だちって、いつまで名乗れるかは分からないけど…

できるかぎりこの関係は、続けていきたいと思っている。

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