上 下
465 / 586
学園6年目

新聞記者の憂鬱 ~トレッドさん視点~

しおりを挟む
「なあトレッド、お前側室になれないの」
「なれませんよ」
「何とか一人ぐらいさあ…」
「なれませんよ」

俺と上司は最近この掛け合いばかりしている。
なれないものはなれない。
残念ながら。

「折角苗字あんのにさ、勿体ないじゃん」
「勿体ないも何も、もうとっくにケアノツス家なんか無いんですよ」
「貴族名鑑とかに載ってないの」
「載ってたら平民にならんでしょうが!」
「確かにそうだわ」

そりゃまあ血縁がないわけじゃないが、貴族の夜会やら茶会やらに潜入するのに都合が良いから拝借してるようなもんで俺に貴族って意識は1㎜も無い。
魔法も使えないしな。
それが急に貴族面始めたらただのヤベー奴だろ…。

「大体、貴族で殿下と顔見知りならOKってもんじゃないんですよ」
「分かってるよ、何か役に立たなきゃなんないんだろ?なんか無いの」
「無いですよ、俺はただの新聞記者だし、メディア戦略はイドラ…アイリスの御曹司がいるでしょ」
「ああ…そうか、そうだった…」

アイリス家ってのは、どこを買収するわけでもないのに自分たちに都合の良い情報を流すんだ。
それが嘘なら暴き様もあるんだが、嘘じゃなくて本当の事だから質が悪い。
都合の良い真実だけを伝えることができるってのは、マジでヤバい。

イドラ曰く、金を使って情報を流させるのは三流だそうだ。
一流になると、発言1つで勝手に推測を拡げさせられるんだと。

その上で「僕はまだ二流ですよ」と言いやがる…

怖っ。

「あーあ、後宮のドロドロした愛憎劇とか面白そうなのにな…」
「愛憎劇?…そんなもの起きるかどうか。
 あれくらいじゃないですか、シャムロックの長男と平民になった元公爵家の長男の恋愛劇」
「なんだそれ面白そうだな」
「何の役にも立たねえで後宮入ってんのそいつらだけですからね、ほら」

俺は昨日王宮から正式に発表された後宮改革案を改めて上司に見せた。

「エルグラン王子はスライムを利用した環境整備の研究。
 ジョンさんはダンジョン内のスライムの増減で魔物の大発生を予測する研究。
 カートは神殿の監査統括。
 ヘザーはその補佐と土魔法の研究。
 ソランは魔生物研究と古の職業「盾」の再興。
 イドラは貴族の事業計画への助言と指導。
 ノースさんはシャラパールとの友好と交易。
 ガントレットは魔道具開発。
 ルディとワルドは古代魔法の研究、
 カイトとデューイは文化関係の役職に着いて、
 ベルガモット教授は教育関連事業の統括で、
 魔法侯爵4人はそのまま学園で魔法学の教授。
 セント神官長は神殿から来てる王家の監査役、
 ダグは冒険者ギルドから来てる王家の監査役」
「ふんふん」
「ここまでで19人…でも、側室の数は21人でしょ」
「確かに2人足りないな」
「つまりこの残り2人は、特に仕事が無いんですよ」
「…それって表向きの話だろ?」
「…表向きの、話…あっ!そういう事か…
 そんじゃそれくらいは行って聞いてきますよ」
「頼もしいな~さすがトレッド」

この程度を探るぐらいなら、わざわざ側室になる必要もない。
一応あの「招待制学術交流会」に招待される程度には、ルースとの関係が続いてるし…
それに側室なんかになったら、また恋人との結婚が遠のくだろ?
もうそろそろヤベーんだよ。

いい加減にしないと監禁するよ?ってさ。

「側室なんかにならなくても、正室殿下との関係が途切れなきゃこっちのもんでしょ」
「いや、せっかくだから危険な橋渡りたいかなーと思ってさ」
「馬鹿なんすかあんた」

俺は、新聞記者としての誇りも自分の命も捨てたくない!

「潜入取材は命あっての物種ですよ」
「まあ、死んだら記事書けないしな」

というわけで、俺は取材の為に王宮へ向かう。
ルースの友だちって、いつまで名乗れるかは分からないけど…

できるかぎりこの関係は、続けていきたいと思っている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

双子は不吉と消された僕が、真の血統魔法の使い手でした‼

HIROTOYUKI
BL
 辺境の地で自然に囲まれて母と二人、裕福ではないが幸せに暮らしていたルフェル。森の中で倒れていた冒険者を助けたことで、魔法を使えることが判明して、王都にある魔法学園に無理矢理入学させられることに!貴族ばかりの生徒の中、平民ながら高い魔力を持つルフェルはいじめを受けながらも、卒業できれば母に楽をさせてあげられると信じて、辛い環境に耐え自分を磨いていた。そのような中、あまりにも理不尽な行いに魔力を暴走させたルフェルは、上級貴族の当主のみが使うことのできると言われる血統魔法を発現させ……。  カテゴリをBLに戻しました。まだ、その気配もありませんが……これから少しづつ匂わすべく頑張ります!

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。 そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。 そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。 気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。 それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。 魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。 GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...