400 / 586
学園6年目
戦という名の総決算 8 ~ヘヴィさん視点~
しおりを挟む
「ファイヤアロー」
さっきから俺はそればかりだ。
炎で武器を炙って握れないほど熱くしたり、
そのまま燃やしてみたり、
髪を燃やして恐怖を植え付けてみたり…。
火属性以外の魔法が使えたら良いのにな、と思う事は常にある。
死んだ伴侶と同じ土属性でも持っていたら、土壁で敵の方を囲んでしまう戦法だって取れるだろう。
末の息子の事も少しは分かってやれたかもしれない。
「ファイヤアロー」
正直言わなくても出来るのだが、仕事をしていないように見えるのも困るので時々言う。
戦で面白い事など一つも無い。
死体が出なければその分事後処理が楽なので、できれば敵には降服して貰いたい。
あれは精神的に辛い。
「火魔法使いでなければ出来ないと言われればやらないわけにはいかんしな…」
人は俺を最強だとか魔王だとか言うが、魔力が多いから何だというのか。
燃やすしか能が無いんじゃ、平和な時に何の役に立つのか…
「ああ、そういえば」
以前魔石を錬成だか合成だかするのにやたらと地獄の業火を頼まれたが、あの仕事はもう無いのだろうか。
要らぬ妬みを買ってまで魔法師団にいるのもな…。
「ファイヤアロー」
ああいう仕事に付けたら、楽しそうだ。
平和な時でも役に立てる事を探せばいい。
できれば学園の近くか王宮の近くかで働けば、時々ベルガモット侯と手合わせもできそうだ…
あの御仁は工夫の幅が広くて、闘うのが楽しい。
俺に足りん知識を教えてくれたりもする。
「ファイヤアロー」
そうだ、これが終わっ…んっ!?
何だ、さっきのは…風!?
「うおおあああ!!」
違う、風魔法だ!
カイトか!?
違う、剣…!?
風魔法を使う剣士か!?
一気に最前線へ跳躍したぞ!!
「ッああ!」
風魔法で敵をなぎ倒して、
炎を纏った剣で敵をかき分け走るその姿。
「死にたくなければ伏せろ!!」
剣からは炎。
背中には風。
「道を開けろ!お前らに用は無い!!」
猛然と屋敷にただ向かっていく。
あの声は…
「ベルガモット侯!!?」
恐ろしい速度で走り、高く跳躍し、ただ一人屋敷へと向かって行く。
「おいおい、まじかよ…」
「ったく、作戦も何もあったもんじゃねえ」
「はは、でも教授らしいな!」
魔法師団の中から笑いが漏れる。
そういえば魔法師団の殆どが学園出身だな。
なら彼らはベルガモット侯の教え子か…
「…1つ、聞いていいか」
「は、何でしょう副団長」
「ベルガモット侯は、魔法使いだな?」
「そうですね」
「なぜ剣を?」
「貴族の嗜みだそうです」
「は?たしなみ、だと…?」
あれは「たしなみ」レベルの動きか…?
俺も多少は体術をやっているが、戦場でそれを使おうとは思わない。
「学生の時にまともな方法で剣術上級の単位取った魔法使いって、教授くらいじゃないですかね」
「そうそう…あと柔術もだっけ」
「…無茶苦茶だな」
気が付いたらもう、
ベルガモット侯は屋敷まで到達し、
「バルコニーに直接飛び乗ったぞ!?」
「ああ風魔法拳か…ほんと器用なんだから」
「何でもやってみるんだよなあ」
「んで出来ちゃうんだよなあ」
「どっちかっていうと武術棟にいるタイプだしな」
「声もデカイし熱血だからな!」
部下たちはハハハと笑い、また攻撃に戻る…
おっといけない。
「ファイヤアロー」
しかし、なぜ単独で屋敷に乗り込む必要が…?
「そういえばエルム公の姿が無いな」
「屋敷の中に立てこもる気か?」
「あ、分かった!
それで戦闘が長引かないように、首取って出てくるつもりなんじゃないか?」
なるほど、ただ感情的に突っ込んでいったわけではないのか。
見ると、侯が空けた道を数人の騎士が走っていく。
あれも作戦の内だったのか、それとも作戦の内にしたのか…
「おーい、誰かこの壁を壊してくれんかの~」
「…あっ」
地面から生えた丸い筒の中から、前国王殿下の声が聞こえる。
「すっかり忘れていたな」
「しかしどうやって壊すんだ…?」
「…知らん」
そのうち誰かが壊しに来るだろう。
火ではどうにもならんからな…
「俺にはどうにも出来ん」
「…確かにそうですね」
火魔法以外に何もない…
こんな俺が妬まれるのもおかしな事だ。
「…おっといけない」
ファイヤアロー。
羨んでも仕方ない。
俺は俺に出来る事をしよう。
「ファイヤアロー…」
「ファイヤアロー…」
……
ちなみに前国王殿下の土壁は、騎士の後ろを走ってきたケンタウレア殿が、見事に破壊して行った。
さっきから俺はそればかりだ。
炎で武器を炙って握れないほど熱くしたり、
そのまま燃やしてみたり、
髪を燃やして恐怖を植え付けてみたり…。
火属性以外の魔法が使えたら良いのにな、と思う事は常にある。
死んだ伴侶と同じ土属性でも持っていたら、土壁で敵の方を囲んでしまう戦法だって取れるだろう。
末の息子の事も少しは分かってやれたかもしれない。
「ファイヤアロー」
正直言わなくても出来るのだが、仕事をしていないように見えるのも困るので時々言う。
戦で面白い事など一つも無い。
死体が出なければその分事後処理が楽なので、できれば敵には降服して貰いたい。
あれは精神的に辛い。
「火魔法使いでなければ出来ないと言われればやらないわけにはいかんしな…」
人は俺を最強だとか魔王だとか言うが、魔力が多いから何だというのか。
燃やすしか能が無いんじゃ、平和な時に何の役に立つのか…
「ああ、そういえば」
以前魔石を錬成だか合成だかするのにやたらと地獄の業火を頼まれたが、あの仕事はもう無いのだろうか。
要らぬ妬みを買ってまで魔法師団にいるのもな…。
「ファイヤアロー」
ああいう仕事に付けたら、楽しそうだ。
平和な時でも役に立てる事を探せばいい。
できれば学園の近くか王宮の近くかで働けば、時々ベルガモット侯と手合わせもできそうだ…
あの御仁は工夫の幅が広くて、闘うのが楽しい。
俺に足りん知識を教えてくれたりもする。
「ファイヤアロー」
そうだ、これが終わっ…んっ!?
何だ、さっきのは…風!?
「うおおあああ!!」
違う、風魔法だ!
カイトか!?
違う、剣…!?
風魔法を使う剣士か!?
一気に最前線へ跳躍したぞ!!
「ッああ!」
風魔法で敵をなぎ倒して、
炎を纏った剣で敵をかき分け走るその姿。
「死にたくなければ伏せろ!!」
剣からは炎。
背中には風。
「道を開けろ!お前らに用は無い!!」
猛然と屋敷にただ向かっていく。
あの声は…
「ベルガモット侯!!?」
恐ろしい速度で走り、高く跳躍し、ただ一人屋敷へと向かって行く。
「おいおい、まじかよ…」
「ったく、作戦も何もあったもんじゃねえ」
「はは、でも教授らしいな!」
魔法師団の中から笑いが漏れる。
そういえば魔法師団の殆どが学園出身だな。
なら彼らはベルガモット侯の教え子か…
「…1つ、聞いていいか」
「は、何でしょう副団長」
「ベルガモット侯は、魔法使いだな?」
「そうですね」
「なぜ剣を?」
「貴族の嗜みだそうです」
「は?たしなみ、だと…?」
あれは「たしなみ」レベルの動きか…?
俺も多少は体術をやっているが、戦場でそれを使おうとは思わない。
「学生の時にまともな方法で剣術上級の単位取った魔法使いって、教授くらいじゃないですかね」
「そうそう…あと柔術もだっけ」
「…無茶苦茶だな」
気が付いたらもう、
ベルガモット侯は屋敷まで到達し、
「バルコニーに直接飛び乗ったぞ!?」
「ああ風魔法拳か…ほんと器用なんだから」
「何でもやってみるんだよなあ」
「んで出来ちゃうんだよなあ」
「どっちかっていうと武術棟にいるタイプだしな」
「声もデカイし熱血だからな!」
部下たちはハハハと笑い、また攻撃に戻る…
おっといけない。
「ファイヤアロー」
しかし、なぜ単独で屋敷に乗り込む必要が…?
「そういえばエルム公の姿が無いな」
「屋敷の中に立てこもる気か?」
「あ、分かった!
それで戦闘が長引かないように、首取って出てくるつもりなんじゃないか?」
なるほど、ただ感情的に突っ込んでいったわけではないのか。
見ると、侯が空けた道を数人の騎士が走っていく。
あれも作戦の内だったのか、それとも作戦の内にしたのか…
「おーい、誰かこの壁を壊してくれんかの~」
「…あっ」
地面から生えた丸い筒の中から、前国王殿下の声が聞こえる。
「すっかり忘れていたな」
「しかしどうやって壊すんだ…?」
「…知らん」
そのうち誰かが壊しに来るだろう。
火ではどうにもならんからな…
「俺にはどうにも出来ん」
「…確かにそうですね」
火魔法以外に何もない…
こんな俺が妬まれるのもおかしな事だ。
「…おっといけない」
ファイヤアロー。
羨んでも仕方ない。
俺は俺に出来る事をしよう。
「ファイヤアロー…」
「ファイヤアロー…」
……
ちなみに前国王殿下の土壁は、騎士の後ろを走ってきたケンタウレア殿が、見事に破壊して行った。
18
お気に入りに追加
2,458
あなたにおすすめの小説
追放されたボク、もう怒りました…
猫いちご
BL
頑張って働いた。
5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。
でもある日…突然追放された。
いつも通り祈っていたボクに、
「新しい聖女を我々は手に入れた!」
「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」
と言ってきた。もう嫌だ。
そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。
世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです!
主人公は最初不遇です。
更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ
誤字・脱字報告お願いします!
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
双子は不吉と消された僕が、真の血統魔法の使い手でした‼
HIROTOYUKI
BL
辺境の地で自然に囲まれて母と二人、裕福ではないが幸せに暮らしていたルフェル。森の中で倒れていた冒険者を助けたことで、魔法を使えることが判明して、王都にある魔法学園に無理矢理入学させられることに!貴族ばかりの生徒の中、平民ながら高い魔力を持つルフェルはいじめを受けながらも、卒業できれば母に楽をさせてあげられると信じて、辛い環境に耐え自分を磨いていた。そのような中、あまりにも理不尽な行いに魔力を暴走させたルフェルは、上級貴族の当主のみが使うことのできると言われる血統魔法を発現させ……。
カテゴリをBLに戻しました。まだ、その気配もありませんが……これから少しづつ匂わすべく頑張ります!
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい
たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた
人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ
そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ
そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄
ナレーションに
『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』
その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ
社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう
腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄
暫くはほのぼのします
最終的には固定カプになります
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる