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学園6年目

戦という名の総決算 8 ~ヘヴィさん視点~

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「ファイヤアロー」

さっきから俺はそればかりだ。

炎で武器を炙って握れないほど熱くしたり、
そのまま燃やしてみたり、
髪を燃やして恐怖を植え付けてみたり…。

火属性以外の魔法が使えたら良いのにな、と思う事は常にある。
死んだ伴侶と同じ土属性でも持っていたら、土壁で敵の方を囲んでしまう戦法だって取れるだろう。
末の息子の事も少しは分かってやれたかもしれない。

「ファイヤアロー」

正直言わなくても出来るのだが、仕事をしていないように見えるのも困るので時々言う。
戦で面白い事など一つも無い。
死体が出なければその分事後処理が楽なので、できれば敵には降服して貰いたい。
あれは精神的に辛い。

「火魔法使いでなければ出来ないと言われればやらないわけにはいかんしな…」

人は俺を最強だとか魔王だとか言うが、魔力が多いから何だというのか。
燃やすしか能が無いんじゃ、平和な時に何の役に立つのか…

「ああ、そういえば」

以前魔石を錬成だか合成だかするのにやたらと地獄の業火グランドインフェルノを頼まれたが、あの仕事はもう無いのだろうか。
要らぬ妬みを買ってまで魔法師団にいるのもな…。

「ファイヤアロー」

ああいう仕事に付けたら、楽しそうだ。
平和な時でも役に立てる事を探せばいい。
できれば学園の近くか王宮の近くかで働けば、時々ベルガモット侯と手合わせもできそうだ…
あの御仁は工夫の幅が広くて、闘うのが楽しい。
俺に足りん知識を教えてくれたりもする。

「ファイヤアロー」

そうだ、これが終わっ…んっ!?
何だ、さっきのは…風!?

「うおおあああ!!」

違う、風魔法だ!
カイトか!?
違う、剣…!?
風魔法を使う剣士か!?
一気に最前線へ跳躍したぞ!!

「ッああ!」

風魔法で敵をなぎ倒して、
炎を纏った剣で敵をかき分け走るその姿。

「死にたくなければ伏せろ!!」

剣からは炎。
背中には風。

「道を開けろ!お前らに用は無い!!」

猛然と屋敷にただ向かっていく。
あの声は…

「ベルガモット侯!!?」

恐ろしい速度で走り、高く跳躍し、ただ一人屋敷へと向かって行く。

「おいおい、まじかよ…」
「ったく、作戦も何もあったもんじゃねえ」
「はは、でも教授らしいな!」

魔法師団の中から笑いが漏れる。
そういえば魔法師団の殆どが学園出身だな。
なら彼らはベルガモット侯の教え子か…

「…1つ、聞いていいか」
「は、何でしょう副団長」
「ベルガモット侯は、魔法使いだな?」
「そうですね」
「なぜ剣を?」
「貴族の嗜みだそうです」
「は?たしなみ、だと…?」

あれは「たしなみ」レベルの動きか…?
俺も多少は体術をやっているが、戦場でそれを使おうとは思わない。

「学生の時に剣術上級の単位取った魔法使いって、教授くらいじゃないですかね」
「そうそう…あと柔術もだっけ」
「…無茶苦茶だな」

気が付いたらもう、
ベルガモット侯は屋敷まで到達し、

「バルコニーに直接飛び乗ったぞ!?」
「ああ風魔法拳か…ほんと器用なんだから」
「何でもやってみるんだよなあ」
「んで出来ちゃうんだよなあ」
「どっちかっていうと武術棟にいるタイプだしな」
「声もデカイし熱血だからな!」

部下たちはハハハと笑い、また攻撃に戻る…
おっといけない。

「ファイヤアロー」

しかし、なぜ単独で屋敷に乗り込む必要が…?

「そういえばエルム公の姿が無いな」
「屋敷の中に立てこもる気か?」
「あ、分かった!
 それで戦闘が長引かないように、首取って出てくるつもりなんじゃないか?」

なるほど、ただ感情的に突っ込んでいったわけではないのか。
見ると、侯が空けた道を数人の騎士が走っていく。
あれも作戦の内だったのか、それとも作戦の内にのか…

「おーい、誰かこの壁を壊してくれんかの~」
「…あっ」

地面から生えた丸い筒の中から、前国王殿下の声が聞こえる。

「すっかり忘れていたな」
「しかしどうやって壊すんだ…?」
「…知らん」

そのうち誰かが壊しに来るだろう。
火ではどうにもならんからな…

「俺にはどうにも出来ん」
「…確かにそうですね」

火魔法以外に何もない…
こんな俺が妬まれるのもおかしな事だ。

「…おっといけない」

ファイヤアロー。

羨んでも仕方ない。
俺は俺に出来る事をしよう。

「ファイヤアロー…」
「ファイヤアロー…」

……

ちなみに前国王殿下の土壁は、騎士の後ろを走ってきたケンタウレア殿が、見事に破壊して行った。

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