上 下
396 / 586
学園6年目

戦という名の総決算 4 ~ベルガモット教授視点~

しおりを挟む
「あー…ブロウ…お前たち~あの男に付いて行って本当に良いのか~?命が惜しくば投降せよ~」

校長が前国王陛下としてエルム公陣営に呼びかけている。
何とも間が抜けた棒読みぶりで投降を呼びかけているが、完全にあれは敵を煽っているだけだろう…

「こんな時に~部屋の中で震えとるよ~な~情けない人間に付いて行って~悔いは残らんのか~?
 お前らに~勝ち目なんぞ~ありゃせんぞ~!
 おいヘヴィ、ちょっとアレ出してくれ」
「はっ」

ヘヴィ殿が学園祭の時に見せた炎の龍を、敵の眼前に再現する。
敵陣に動揺が走り、何十人かは剣を降ろし、何人かは剣を捨ててこっちへ走ってこようとする。
それを見て自分も続こうとする者が出…

その時、バルコニーに人影が現れた。

「『止まれ!!』『剣を捨てたものは拾え!』『持っている者は剣を構えよ!』『我々は戦わねばならん!!』」

その言葉に、投降しようとしていた者達の動きが止まる。
剣を捨てた者は言われた通りに剣を拾い、剣を降ろした者たちは剣を構え直した。

バルコニーの人影は演説を始めた。

「『見掛け倒しの魔法に囚われるな!』『正義は我々にある!』『愚かな王を倒し』
 ローザンヌの平和を守るのは我らだ!」

…ローザンヌの平和?
ローズの平和ではなく?

「『王家に従わされた騎士達よ聞け!』
 『正義は、この国だけでなく他国をも救おうとする我らにある!』
 『今すぐ!諸悪の根源たるその爺の首を刎ねよ!』」

…光の魔石がくすんできた。
どうやらバルコニーにいる者は闇魔法使いのようだ…
となれば、エルム公か、エルム公の伴侶殿か、どちらかという可能性が高い。

「『君たち程の騎士道精神の持ち主ならば、こちらに正義のあることが分かるはずだ!』
 『まずは前国王の首を刎ねよ!』」

バルコニーにいる者は、随分と熱心に校長の首を刎ねろと要求する。
だが、こちらの騎士は動じない。

なぜなら光のブローチと同じ効果がある魔道具を全員が持っているからだ。

ルースが手紙と共にそこら中へ配布したそれは、鉱山都市の職人の手に渡り一気に大量生産された。
魔石の色に拘らなくて済むそれは、どこの工房でも作ることが出来たのだ。
発注していたのは、もちろんアイリス商会。
あそこの長男がニコニコとそれを配布しているのを見て、俺はある種の恐怖を覚えた。



…向こうの主張が終わると、今度は校長が言い返した。

「やーーい、たんしょーほーけ~!
 まぐろ~のチキン~~!!
 ~チン~のエルム~は童貞~以~下!!」
「何を言っているんだ」
「カルロス様御乱心か?」

最低過ぎる煽りに頭が痛くなる。
全く、校長は遊びが過ぎる!
腐っても公爵家、貴族の筆頭である家の当主がそんな簡単に煽られるわけが…

「やかましい糞爺!このくたばり損ないが!!」
「勃起も射精も人まかせ~
 テク無し種無し度胸無し~!」
「種無しじゃねえ!!孕ませた事ぐらいあるわ!
 このハゲ!!」

駄目だ、完全に煽られてる…煽られてるよ公爵。
俺は頭を抱える。
そこへ通信が入る。

「…エルム公の姿はあるか、だって?」

そうだな…喚き散らしている内容からして、信じたくは無いが、どうやらあれは本人のようだ。
俺は「バルコニーで怒鳴っている」と打電する。
通信が終わり、自陣の先頭に目を向ける。
すると、今度は妙な踊りと共に煽る校長が見えた。

「儂~がハゲな~らお前はつるっパゲ~お前の親父も~つるっパゲ~」
「うるさい!!誰かあのジジイを殺せ!!」
「おーやおや?闇魔法無しの命令じゃ~1人の兵も動かせんとは!
 なっさけないのォ~公爵家の当主が聞いて呆れるわ~い!
 お尻ぺんぺーん、うんこちんちーん!」
「この…!『お前らあのジジイを殺せ!!』」

うおおおお…と敵陣からウォークライ。
こちらも負けじと声を上げる。
校長の前に大きな盾を持ったソランが立ちはだかる…

誰かが言う。

「…史上最低の開戦だな」

俺はあちらに打電する。

開戦した、と。

しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...