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学園6年目

戦いという名の総決算 2 ~ベルガモット教授視点~

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学園を出てから6日目の深夜、王都から派遣された軍と合流しエルム公の屋敷へ向かう。
なぜこのような事を起こそうと思うに至ったのかは分からない。

この事態を、エルム公の伴侶殿はどう思っておられるのだろうか。
今もお2人は行動を共にしているのだろうか。

御者台で俺は独りごちた。

「どこで間違ったんだろうな…」
「何が間違いなんだ、ベルガモット殿?」

隣に座っていたケンタウレア殿が耳ざとく私の独り言を聞き取ったらしく話しかけてきたので、少々会話をする。

「エルム公の事だ。
 公爵派が瓦解した時点で首を垂れて王家の派閥に下ることは出来なかったのだろうか、と思ってな」
「…カイトから聞いた所によると、エルム公にはリード・ユーフォルビア氏殺害教唆の嫌疑があるそうだ。
 それが本当ならば、王家の軍門に下ったところで死刑は確定…。
 その時点で、もう引き返す道は無かったのかもしれん」
「しかし、処刑されなくて済みそうな方法がこれしかないわけでは無いだろう?」

確かにこれには「ワンチャンある」かもしれんが…
もう少し穏便に…例えば「国外逃亡」などの方法もあったのでは?
アルテミシア地域まで行けば闇魔法使いとしてそれなりに重宝されて生き残れる可能性が高い。
海を渡るところまでクリアすれば…。

「海を渡る…か。
 そういえばケンタウレア殿はシャラパールの巨大サンドワームと直接やり合ったのだろう?
 私も死体の処理に行ったが、あれはとんでもなく大きかったな」
「ああ、ゴーレムが無ければ勝てたか分からん。
 あの場にいた全員を飲み込んだ後、アルテミシアへ逃げていたら…。
 今頃大変な事になっていただろうな」

確かに、あの時ゴーレムの生成に成功していなかったら…ぞっとするな。

「そうか…ゴーレムがそこまで役立ったとは。
 必死で歌った甲斐があったよ」
「お見事な歌声だった」
「子どもの頃に声楽もやっていて良かったよ」

子どもの頃、か…
そうだ、エルム公にも子どもの頃があったはずだ。
学園に入るまでの間の教育はどうだったのだろう。
そこが間違っていたとするならば……

「学園に入る前の教育を、家まかせにし過ぎるのも問題…ということか。
 新しい教育機関が必要かもしれんな…」
「ああそうか。
 ベルガモット侯爵家は教育関係だったな」
「ああ、本来はな。
 最近ようやく火の侯爵の座を降りられそうでほっとしているんだ」

火の侯爵の座が空いているのは、随分前の戦争で跡取りが死んでしまったからだ。
軍事的な事情から「空席はまずかろう」と、侯爵家の直系たちの中で一番魔力の多い火属性持ちがその座に就くことになっているだけで…

「…魔法というのは努力した分返って来る。
 だから俺でも火の侯爵を名乗れた。
 だがグロリオサ卿と何度も闘って分かった…
 努力で超えられない壁は、ある」

才能の有無については認めるしか無い。
それを知った上で、どうやって生徒たちに努力を促せば良いのか…
自分にとって、今一番の課題だ。

「しかしヘヴィ殿には出来ない事もベルガモット殿なら出来るだろう?」
「そりゃ火魔法以外で負けるわけにはいかん。
 俺は侯爵家に産まれたおかげで充実した教育を受けられたんだ。
 身分が低い者より大体において秀でていなければ、侯爵家である意味が無い」
「…なるほど」

そう、地位に応じて領地があり家業があり、それを全うするだけの教育の機会があり…

「それがあって尚、エルム公はどうしてこの手段を取ったのか分からん。
 戦争は良い物だという教えは無いのにな」
「…直接ではなくとも人を殺した経験があると、違うのかもしれんな」
「教えより経験、か…一理あるな」

行軍は続く。
明け方にはあちらへ着くだろう。
到着したらまずは殿下に連絡をして…
予定ではあちらのほうが半日早く着いているはずだ。

「…ケンタウレア殿、休憩の後は御者を任せても良いか」
「ああ、それは良いが…どうした」
「馬を借りて先へ行く。
 半日も通信が来ないのでは向こうも不安だろう。
 できるだけ早く連絡を入れてやらねば」
「分かった、だが1人で?」
「…1人で行けるならそうするがな」

設置にはガーベラの立会いが必要だし、何より…。

「…先遣隊もいるのだし、大丈夫だろう」
「そうだな」

ケンタウレア殿が思う危険と俺が危惧しているものは違うだろうが、何となく会話がかみ合ったので良しとする。

「馬どころか馬車を借りるはめになるかもしれんがな…」
「?まあ、侯爵殿ともなればそういう待遇になるか」
「……そうだな」

開戦まであと少し。

何も無い事を祈ろう。

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