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学園5年目

【閑話休題】パー券のゆくえ

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ここはとある地方の大学。

「今年は冬休みに王宮で用があるとかで…」
「なるほど、それで場所が王宮なのか!」
「どんな服を着て行けばいいんでしょう?」
「正門から入って良いのかな…」

各分野の教授たちが学内のサロンに集まって、ルース主催のクリスマスパーティーのチケットを前に話をしている。
この大学で押さえられたパーティー券は3枚。
つまり参加できるのは3人ということだ。

「今年は学園のほうへ行けなかったので、クリスマスパーティーには行きたいんですよ」
「私は参加したものの、ルース殿とお話する機会が持てなくて…」
「いやいや、今行き詰っている研究のほうを優先すべきで…」

一年に一回は話をしたい人物と化した「ルース・ユーフォルビア」。
数年前にまことしやかに囁かれていた噂は一体何だったのか。
単なる子作りの装置、などという噂は…。

「そういえば、今年は王大のほうで論文発表をされるそうですぞ」
「ああ、薬学の…」
「いや、農学もですね…同じ論文を同時に2つの学会で発表するそうで」
「お一人で?」
「いや、共著が薬学の方なので、多分農学の方をルース殿が、ということに…」
「何にしろ、年明けにもお会いできる可能性はあるということだな」
「ただこの学会、学会員以外の研究者は入れないんですよ」
「王大め、ケチ臭い事をしよって」

国一番の最高学府のくせに…
補助金だってたんまり出てるくせに…
王都にある分、直接ルース殿を来訪することだって気楽に出来るくせに…
ひとしきり文句を言って盛り上がる研究者たち。

それが一段落した時に、1人の学者が言った。

「まあ、うちは1つ種を頂きましたのでね、お譲りしますよ」
「物理学が?何の種をです」
「ちょっとしたすそ野の拡げ方、というところですかね…物理学の絵本を作るのです」
「…ほう?」
「多くの子どもに興味を持ってもらえれば、将来この分野を目指す者が増えるという目算です。
 さらに、この本をルース殿がお子様に買い与える、ということがあれば…」
「儲かりますな」
「正解です」

研究費が稼げて、そのうえ未来にも繋がる!
実現するかどうかも分からない事、未確定の輝かしい将来像、それを人は「夢」と呼ぶ。

久しく現実しか見て来なかった研究者たちは口々に言った。

「それは、化学の分野でも使えそうですな」
「そうですね!理系の分野ならどこでも」
「絵本といえば寓話…という固定観念を打ち壊せ、ということか。
 斬新な発想だ…さすがルース殿」
「問題は絵だな…」
「学生の中から募りましょう」

すっかりその気になって計画を立て始める人々。
簡単にする、ということは簡単ではないが、基本の「き」からまずは始めて…人気が出たら続編も…

「作りましょう、我々なら出来る」
「ええ、王大のやつらに先んじて、この分野を開拓しましょう!」

夢はやる気に繋がる。
具体的なら尚更だ。



…ただ、発言した本人は知らない。
この発想が「異世界発」であるということを…。
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