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学園5年目

予期せぬ出会い ~スプーラ殿下視点~

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昨日、彼の姿を見た時に、少しだけ「良いな」と思った。
そして今日、彼のずぶ濡れになって悔しがる姿に…
どうしてか強烈に、心が燃えるのを感じた。

彼を、あの濡れたシャツの上から、抱きしめたい。
ぎゅっと閉じたあの唇を、自分の舌で開かせて。
そのままベッドへ連れ込んでしまいたい…

一晩だけでもいい、彼を抱いて眠りたい。

出来るなら、毎晩彼を抱いて眠りたい。


魔法使いでありながら、鍛え上げられたその身体。
まだ二十歳になったばかりとは思えない大人びた顔。

勝負が終わって、相手の少年と笑顔で握手するところを見て、その笑顔の下にある悔しさを自分が癒やしてやりたいと思う。
だって、あの顔。
少し困ったような、情けないような…

「…欲しい」
「何がです?殿下」
「あの男を国へ連れて帰る」
「…はっ!?」
「アルファード殿下、あの男を私にくれ」
「…俺のものではないのだが?」
「あのゴード・ジギタリスという男をくれ」
「だから、俺のものではないと言っている」
「では誰のものだ」
「まだ誰のものでもないはずだが…ヘヴィ?」
「は、決まった相手はおりません」
「居ないのか!?」

こうしてはいられない。
彼を迎えに行かなければ。

「ジョン、今すぐ彼に会いたい。案内を」
「え?はっ!?ゴードにですか!?」
「殿下、正気ですか!?」
「彼は殿下が嫌っている魔法使いですぞ!!」

ああ、そんな些末な。
魔法使いかどうかは好き嫌いと関係ない。
貧弱だから嫌いだというだけだ。
あの身体を見ろ!
貧弱とは程遠い、鍛え上げられた肉体を!

「魔法使いかどうかなど、関係ない」
「……まさか、殿下、あの男に恋をしたなどと仰いませんでしょうね……?」
「そのまさかだ、ジョン、早くしろ」
「は…はあ」


先を歩くジョンを急かす。
今すぐ捕まえたい、彼があのシャツを脱いでしまう前に!
走って、選手の出入り口へ急ぐ。
そこには涙ぐむ彼と…
彼を励ます男が2人。

「おやジョン、どうした」
「今日は何で出なかったんだよ~…って、その人、まさか…」
「そのまさかだ、トルセン…」

ああ、彼は悔しくて泣くのだ。
負けた事が悔しくて泣くのだ!!

私は彼にふらふらと近づいた。
そして彼の手を取った。
彼は驚いて私の顔を見た、泣いて赤くなった目で…

「…ゴード、ジギタリス殿、だな」
「…っ、はい、そうです」
「どうか、私と共に、カメリアへ来て欲しい」
「…えっ?」

私は膝を付き、彼に言った。

「私はスプーラ・カメリア。
 観客席からあなたを見初めた男だ」
「…すぷーら・かめりあ?」
「ああ、どうかスプーラと呼んで欲しい」
「…は、はい、では私の事は、ゴード、と…」

混乱している。
混乱しているぞ!!

あまりの可愛らしさに、頭が沸騰する。
反射的に立ち上がって彼を抱きしめ、言う。

「…結婚しよう、ゴード」
「……ふぇっ!?」
「すぐにご家族と面談し婚儀の段取りを付けたい、良いか」
「よ、よくないです!?」

むむ、どさくさに紛れて色よい返事を貰いたかったが、仕方が無い。

「問題ない、私は王子だ。
 君のご両親も私の家柄に不満など持つまい」
「え、あ、え、ええ!?」
「何、駄目というなら攫って帰るまでだ」
「殿下、おやめください!!」

やめろだと?
何をやめろというんだ。
ああ、こんなに逞しくて、愛しい…
これは私のものだ!!

「あっ…あー……」
「ちょっと、何騒い…っ!あ、あに、兄上!?」
「カート、見ちゃ駄目っ!」
「ふわっ!?」

私は衝動のままに彼に口づけをし…
そのまま口内をむさぼるように舌を絡め、


図らずも彼の「初めて」の1つを、奪った。
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