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学園5年目

【閑話休題】お隣の国

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ローズ王国の西、大河を挟んだ向こう側にカメリア王国がある。
ただの冒険者だったジョンに爵位を与えた国であり、エルグラン王子の故国でもあるその国は、風光明媚な土地を生かした観光業と農業が主な産業だ。
特に果物は有名で、それを利用した各種酒類は各国へ輸出されている。

当然王城の農園にも、葡萄畑や林檎の林が拡がっている。
その美しい風景を城の最上階のバルコニーから見ている一団がある。

「…エルグランのやつ、あれだけ支援を受けておきながら側室止まりとは…。困った奴だな」
「ええ、その通りです殿下」
「やはり次のカメリア国王は、スプーラ殿下をおいて他にありませんな」
「当然だ、あれに王が務まるはずがない。
 風魔法しか取り柄の無い軟弱者にな」

カメリア国王第一王子のスプーラとその取り巻きだ。

第一王子のスプーラは、第二王子のエルグランと実の兄弟でありながら性質は全く違う。
魔法より剣を好み、
考えるより直感で動くことを好み、
自分を褒め称えるものを側に置きたがる。

すでに国内の有力貴族から3人の伴侶を得ているが、一度抱いただけで「気に入らない」といって次を求めている。

「ローズの王には30人の側室が認められているのに、カメリアの王には30人の側室を認めないという道理はない」

と度々口にしているところから見るに、単に気が多いというわけではなく野心家でもあるらしい。

「ところで、ローズへ送ったワインはどうなっている」
「それが、まだ保管されたままになっている、と…」
「我が国のワインは高級品でありますから、何か祝い事の時まで取っておくつもりかもしれませんな」
「あちらの国の酒は酸っぱくて飲めたものではありませんからね」
「もしかして酢を酒だと思って飲んでいるのかもしれませんぞ?
 今代の王は暗愚だと評判ですからな」

はははは…。
一団は声を上げて笑う。

ローズ王国の今代の王の愚かさは、王家に近い家からも愚痴が零れるほどだ。
現場を見せなければ問題の1つも理解できず、周囲の者が必死で教え・支え、ようやく王として格好がつくようになった…と、観光に訪れた貴族がぼやくほどだ。

そして、次に王になる予定の王子もまた、正室を娶る前だというのに、すでに側室30人に加え愛人まで幾人も囲っている色狂いだという。
彼らは口々に言う。

「我々の諫言を無視して、我が国の大事な苗床を無茶苦茶に踏み荒らしたのです」
「我々は最後の苗床であるルース殿だけでも王子の毒牙から守ろうと…。
 なのに卑怯にも国民を扇動し、婚約という既成事実まで作ってしまったのです!
「新聞も雑誌も儲かれば良いという態度で、我々の言葉を聞きもしない…。
 ローズをあの王子の手に渡すわけにはいきません」

だからエルグラン王子にはルース殿よりも先にご懐妊頂かなくてはなりませぬ、と何人もの貴族が言うのだ。
今代の王から、アルファードを経ずにその子に王位を託す他無い、と。

「どうかお力を貸して頂きたい」
「ああ、スプーラ殿下のような方が次期国王であればどれほど良かったか…」

なるほど、であればローズ王国を自分が陰から支えてやれば良いのだ。
エルグランが産んだ子であれば、叔父としてその子を導くことも出来るだろう。
隣国の友好国の次期王である私が可哀想なローズ王国の民を救ってやらねば…。

「それに、弟と向こうの王子の間に子が出来ればアルファード殿の側室であり続けられる。
 もうカメリアに戻る必要も無い…一石二鳥だ」
「ええ全く」
「そうで御座いますね」

だからスプーラ第一王子は…
あのワインクリスマスプレゼントに強力な媚薬を仕込んだ。

「あれを一杯でも飲ませられれば、エルグラン程度の色香でも十分その気にさせられるだろう」

剣よりも魔法を選んだせいで、自分の風魔法で吹き飛んでいきそうな細身の弟。
アレを抱きたいと思わせるにはそれくらいしなければ…。

「護衛につけたジョン殿の半分でも、あれに筋肉が付いていればなあ」

静と動、
慎重と大胆。

「どうせエルグランが側室になれたのも、ジョン殿のおまけみたいなものだろう?
 だからあの時、一代限りの爵位などと言わず良家の養子にすべきだとあれほど進言したというのに…
 父上も男を見る目がない」
「……エエマッタク」
「……ソウデゴザイマスネ」

性質が全く異なる兄弟だが、何故か好きな男のタイプだけは同じだった。

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