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学園4年目
【閑話休題】ついてきて良かった?
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〈ソラン視点〉
サンドワーム討伐が終わって10日間が過ぎた。
まだルース君は目を覚ます気配がない。
だからルース君抜きでやらなきゃいけないことが沢山ある。
僕は討伐が終わった翌日から、あのサンドワームがあけた砂漠を縦断するほどの大穴の調査をしている。
この穴をどうするかはまだ決まっていないそうだけど、クリビアさんからの提案でそのままダンジョンにするのはどうかって話が進んでいる。
調査が終わって帰ってきたところで、イドラ君に会った。
今日は素材の取引だって言ってたっけ…。
「ソラン先輩、お疲れ様です」
「あ、うん…イドラ君も」
着いてこないと聞いたときは…
ほっとしたけど寂しかった。
着いてきたと分かったときは…
心配したけど嬉しかった。
勝手なものだ…と思うけど、偽らざる気持ちだ。
どうして自分が王国で1・2を争う豪商の長男とお付き合いすることになったのかは分からない。
ただ、遊びでないことは確かだ。
結婚したら今よりも爵位の低いアイリス家に入る事を、承知の上で付き合っているのだから。
「そもそも遊びで誰かと付き合えるほどモテるわけでもないしなあ」
「何ですか先輩、独り言?」
「うん、イドラ君は俺のどこが気に入ったのかな…って、思って」
「そうですね…まあ最初は「見た目」かなあ」
「えええっ!?」
「言ったでしょ、大きな人が好きなんだって」
「そ、それ、本気だったの…?」
どう見たって釣り合わない見た目。
爵位の違いもあって、周りにはファセリア家がアイリス家に無理やり交際をねじ込んだと思われているというのに。
「後は多少の打算かなあ。
俺は見た目がこれだから、第一印象が不利なんですよ…いかにも人を騙しそうな顔してるでしょ」
「ええ!そうなの!?僕は、理知的でかっこいいとしか思わないけどなあ…」
「はは、ありがとうございます。
でもやっぱり商談だと、見た目で最初構えられちゃいますから…。
第一印象で安心感を与えられる人と一緒だったら助かるのになあって思って」
「そんなもんかなあ…」
僕は自分のお腹を見て何だか複雑な気持ちになる。
「でもね、今はソラン先輩の中身も好きですよ。
細かい事を気にしちゃうところとか、ちょっと小心者だったりするところとかも、全部」
「…何かいいとこ無い感じする」
「いいとこだらけですよ?一緒にいて安心します」
「そう?それなら…いいんだけど」
自分は一人っ子でもないし、家は弟に頼めばいい。
学園でも弟は一般棟の授業ばかりを受けているから、当人もそのつもりなのだろうと思う。
魔生物学の研究者として生きる者と領地経営をする者とで分かれて家を継げばいい、と父達も言っていたし、何より弟は虫が嫌いで魔生物学なんか死んでも嫌だと言っていたから。
…本当かどうかは、分からないけど。
僕がつらつらと考えていると、イドラ君が言った。
「そういえば、ついに薬学のお2人が魔力回復の方法を見つけて帰ってきたそうですよ」
「本当!?良かった…どんな方法なんだい?」
「それをこれから聞きに行くところです。
ソラン先輩も調査で魔力を使ってお疲れでしょうし、早速試してみてもいいんじゃないですか?」
「そうだね…ダンジョンの途中でもできるようなのだといいなあ」
僕はイドラ君と一緒に、薬学のブレティラ教授と助手さんの話を聞きに本部へと行った。
***
〈ノース視点〉
「どうしてきちゃったの」
「どうして来ちゃいけないの?」
可愛いほっぺを膨らませてフィアンセが拗ねる。
もし何かあったとき、自分では彼を守れないから…と、同行させない事を何とかあちらに承諾させたというのに。
俺の努力も虚しく、彼は戦場へやってきて、俺の隣にいる。
「死ぬかもしれない、危ない…だから」
「それはノースさんも一緒でしょう?」
「…私は、後方支援だし…」
「僕だって後方支援だったでしょう?
能力的に見ても、僕が前線に行くことはないって分かるじゃない!」
「だけど、魔法、いっぱい使える…」
「そりゃ多少はね?だけど、他の魔法総合のメンバーと比べたら全然だよ」
「そうなの…?」
「そうだよ!
あの人たち見たら分かるでしょ、全員が二つ名持ちだよ?
…ま、魔道具に関しては僕が一番だけど!」
「確かに、そうだね」
でしょう、と言って得意げになる彼。
でも、次の瞬間に不安げになる彼。
「僕、要らなかった?」
「ううん、そんなことない」
「本当に?」
「うん、本当だよ」
ゴーレムの心臓に使う魔石に突貫で細工をしたのは彼だ。この作戦の影の功労者に対して、必要無かったとは言えない。
自分のわがままで、多くの人の命を危険に晒したかもしれなかったのだ。
「ガントレットが来てくれて、良かった」
そっと抱きしめてキスをする。
謝罪と、反省と、でも分かって欲しいという気持ちを込めて、彼が納得してくれるまで、キスをする。
「…もう二度と置いて行こうとしないで。
仲間外れは嫌だから」
「うん…ごめんね、ガントレット」
このまま、どこか二人きりになれる場所へ行って…さっき聞いた魔力回復法のことでも話してみようか。
そうしたら彼はどんな顔で…。
「次からずっと一緒ね…戦うときは」
「うん」
何も知らないフィアンセはニコニコ笑う。
相変わらず可愛いな、と思いながらもう一度抱き寄せてキスをした。
-----------
次回、ついに5年生になります!
サンドワーム討伐が終わって10日間が過ぎた。
まだルース君は目を覚ます気配がない。
だからルース君抜きでやらなきゃいけないことが沢山ある。
僕は討伐が終わった翌日から、あのサンドワームがあけた砂漠を縦断するほどの大穴の調査をしている。
この穴をどうするかはまだ決まっていないそうだけど、クリビアさんからの提案でそのままダンジョンにするのはどうかって話が進んでいる。
調査が終わって帰ってきたところで、イドラ君に会った。
今日は素材の取引だって言ってたっけ…。
「ソラン先輩、お疲れ様です」
「あ、うん…イドラ君も」
着いてこないと聞いたときは…
ほっとしたけど寂しかった。
着いてきたと分かったときは…
心配したけど嬉しかった。
勝手なものだ…と思うけど、偽らざる気持ちだ。
どうして自分が王国で1・2を争う豪商の長男とお付き合いすることになったのかは分からない。
ただ、遊びでないことは確かだ。
結婚したら今よりも爵位の低いアイリス家に入る事を、承知の上で付き合っているのだから。
「そもそも遊びで誰かと付き合えるほどモテるわけでもないしなあ」
「何ですか先輩、独り言?」
「うん、イドラ君は俺のどこが気に入ったのかな…って、思って」
「そうですね…まあ最初は「見た目」かなあ」
「えええっ!?」
「言ったでしょ、大きな人が好きなんだって」
「そ、それ、本気だったの…?」
どう見たって釣り合わない見た目。
爵位の違いもあって、周りにはファセリア家がアイリス家に無理やり交際をねじ込んだと思われているというのに。
「後は多少の打算かなあ。
俺は見た目がこれだから、第一印象が不利なんですよ…いかにも人を騙しそうな顔してるでしょ」
「ええ!そうなの!?僕は、理知的でかっこいいとしか思わないけどなあ…」
「はは、ありがとうございます。
でもやっぱり商談だと、見た目で最初構えられちゃいますから…。
第一印象で安心感を与えられる人と一緒だったら助かるのになあって思って」
「そんなもんかなあ…」
僕は自分のお腹を見て何だか複雑な気持ちになる。
「でもね、今はソラン先輩の中身も好きですよ。
細かい事を気にしちゃうところとか、ちょっと小心者だったりするところとかも、全部」
「…何かいいとこ無い感じする」
「いいとこだらけですよ?一緒にいて安心します」
「そう?それなら…いいんだけど」
自分は一人っ子でもないし、家は弟に頼めばいい。
学園でも弟は一般棟の授業ばかりを受けているから、当人もそのつもりなのだろうと思う。
魔生物学の研究者として生きる者と領地経営をする者とで分かれて家を継げばいい、と父達も言っていたし、何より弟は虫が嫌いで魔生物学なんか死んでも嫌だと言っていたから。
…本当かどうかは、分からないけど。
僕がつらつらと考えていると、イドラ君が言った。
「そういえば、ついに薬学のお2人が魔力回復の方法を見つけて帰ってきたそうですよ」
「本当!?良かった…どんな方法なんだい?」
「それをこれから聞きに行くところです。
ソラン先輩も調査で魔力を使ってお疲れでしょうし、早速試してみてもいいんじゃないですか?」
「そうだね…ダンジョンの途中でもできるようなのだといいなあ」
僕はイドラ君と一緒に、薬学のブレティラ教授と助手さんの話を聞きに本部へと行った。
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〈ノース視点〉
「どうしてきちゃったの」
「どうして来ちゃいけないの?」
可愛いほっぺを膨らませてフィアンセが拗ねる。
もし何かあったとき、自分では彼を守れないから…と、同行させない事を何とかあちらに承諾させたというのに。
俺の努力も虚しく、彼は戦場へやってきて、俺の隣にいる。
「死ぬかもしれない、危ない…だから」
「それはノースさんも一緒でしょう?」
「…私は、後方支援だし…」
「僕だって後方支援だったでしょう?
能力的に見ても、僕が前線に行くことはないって分かるじゃない!」
「だけど、魔法、いっぱい使える…」
「そりゃ多少はね?だけど、他の魔法総合のメンバーと比べたら全然だよ」
「そうなの…?」
「そうだよ!
あの人たち見たら分かるでしょ、全員が二つ名持ちだよ?
…ま、魔道具に関しては僕が一番だけど!」
「確かに、そうだね」
でしょう、と言って得意げになる彼。
でも、次の瞬間に不安げになる彼。
「僕、要らなかった?」
「ううん、そんなことない」
「本当に?」
「うん、本当だよ」
ゴーレムの心臓に使う魔石に突貫で細工をしたのは彼だ。この作戦の影の功労者に対して、必要無かったとは言えない。
自分のわがままで、多くの人の命を危険に晒したかもしれなかったのだ。
「ガントレットが来てくれて、良かった」
そっと抱きしめてキスをする。
謝罪と、反省と、でも分かって欲しいという気持ちを込めて、彼が納得してくれるまで、キスをする。
「…もう二度と置いて行こうとしないで。
仲間外れは嫌だから」
「うん…ごめんね、ガントレット」
このまま、どこか二人きりになれる場所へ行って…さっき聞いた魔力回復法のことでも話してみようか。
そうしたら彼はどんな顔で…。
「次からずっと一緒ね…戦うときは」
「うん」
何も知らないフィアンセはニコニコ笑う。
相変わらず可愛いな、と思いながらもう一度抱き寄せてキスをした。
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次回、ついに5年生になります!
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