上 下
247 / 586
学園4年目

学者さんたちの交流会

しおりを挟む
「本日はありがとうございました、ルース様。
 次の機会には必ず、納得のいく経済政策をご提案できるように致します」
「ええ、宜しくお願い致します」

王都国立大学での学者さんたちの意見交換会は好評のうちに終了。
現在記念パーティーの真っ最中…
ダンスが付いていないのが救いだ。
国家の恥をさらさなくて済む。

「しかし景気というものは、上がればいいというものでは無いのですな」
「そうですね、急激な景気上昇は、いつか大きな打撃となって返ってくるのでは、と…。
 緩やかに堅実に、が一番です。
 常に飢える国民が出ないことが大事かと」
「確かに、飢えは不幸の始まりとも言いますね…」

そうなんだよね…飢えって治安維持にも関わってくる問題だからね。
お腹が空き過ぎたらまともな思考ができないもん…自殺はもちろん、窃盗・強盗・殺人…暴動が起きたりもするし。
ダンジョンで食料が無くなった時の悲惨さも、クリビアさんから懇々と聞かされたもんな。

そんな話をしていると、また他から声が掛かる。

「科学技術と魔法技術の融合…というお話、大変面白くお聞き致しました。
 やはり魔法の事は学園が最も進んでおりますから、これからは平民と貴族の垣根を超えた連携も必要ですね」
「そういえば農業分野でも面白い話をお聞きしました。
 魔物の死体を焼却した灰を土に混ぜる農法ですか?」
「そういえば、建築に関しても…「魔法工法」でしたか」

次々に話しかけられるんだけど、どうしたもんかな…。
延々と話が続いて会場を抜け出せない。
皆さん、そんなに話に来ても、意見交換会で出た以上のものは出ませんぞ?

ちょっと困っていると、殿下が話に割って入って来てくれた。

「王子の俺よりお前のほうがよっぽど人気があるな」
「そりゃいきなり王族に話しかける度胸のある人は少ないですもん!
 その点、貧乏伯爵家の末っ子ならそれほど気を遣わなくていいですし」
「…それだけが理由だと?」
「まあ、それが現実ってやつですよ…勘違いしちゃいけません」

俺がそう言うと、勝手にくっついてきたテナチュール様と殿下がひそひそ話を始める。

「…これはまたたちの悪い無自覚ですね」
「分かるか、フィーデ」
「聞こえてますよ!?」

んもー!
王子様より俺のほうが人気なわけないでしょ!?
どこの世界のお話よ!

しかし、定期的にこのような会合を開いて欲しいとみんなから言われるんだけど、どうしたもんかな。
俺まだ学生だしな…何の学位もないやつが学会みたいなもん開けないでしょ。
結婚できたら王族権限とかで何か出来るのかもしれんがさ…。

「こうなったら誰かに頼む…あっ」
「どうした」
「ベルガモット教授に頼もう」
「何をだ?」
「この会を来年・再来年と定期的に開催するのを、です」
「なぜ伯父上に…」
「…声が大きいから?」

だってとりあえず「やるぞ!」って言わなきゃ始まんないからさ…。

「…ルース君が名前を貸してくれるなら、僕がやりましょう」
「えっ、本当ですか?じゃあお願いします」

まあ、俺の名前を出したところでどうだって話だけどね!
そんな話をしていると、王大の学長さんに声を掛けられた。

「ああ、ルース様!本日はこのような機会を…ありがとうございます」
「いえいえ、皆様の情熱に押されただけのことで」
「おかげさまで、自分の研究を託せる若者が見つかりました…これで一安心です」
「それは良かった!人生をかけた研究が自分の代で途絶えるのは耐え難いことですから…」
「そうなのです!分かってくださいますか」

そう、古い学問でも、誰かが続けていかなけりゃ途絶えてしまう。
古代魔法はそれを痛いほど教えてくれた。
マグノリア教授がいなかったら、魔法剣は雷属性だけの特権になるところだったのだ。
1つの属性だけが異様にもてはやされるのは良くない。
すべての属性があってこそ、生活は豊かになる…

…なーんてね。
多分やで!
知らんけど!


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

偽物の番は溺愛に怯える

にわとりこ
BL
『ごめんね、君は偽物だったんだ』 最悪な記憶を最後に自らの命を絶ったはずのシェリクスは、全く同じ姿かたち境遇で生まれ変わりを遂げる。 まだ自分を《本物》だと思っている愛する人を前にシェリクスは───?

処理中です...