当て馬にも、ワンチャンあってしかるべき！

学園3年目

婚前旅行 8

熱気球の飛行実験の後、砂漠地帯に繰り出してサンドワームの効率的なおびき出し方やら倒し方を実験したりしていたらいつの間にか帰る日になった。

宮殿まで行って帰りの挨拶をして、来たときと同じように数台の馬車に乗り込んで帰る。
帰りの荷物を積んでいると、ノースさんが俺にシャラパール語で言った。

「やはり普通のサンドワームも増えているように感じるな」
「多い、やっぱり？」
「ああ、たった2日間で30匹以上はかなりだ。わざわざおびき寄せる実験をしたからだとしても、これほど潜んでいるなんて異常だと思う」
「そうなの、困ったね…」
「今回の方法を広めて、冒険者を使って、少しずつでも倒す量を増やすよ」

おびき寄せ方は簡単だ。
プラウで地面を真っ直ぐ掘り返していくと、そのうち地面から出てくる。
倒す時はアロー系の魔法で頭から尻尾までドーンと串刺しにするか、剣で縦にぶった斬る。
エルさまレベルだと、素材とりの事も考えて皮目ギリギリまでウインドカッターで縦にスパンと切って倒せる。完全に神業だ。

「頼まれた分かった、帰り退治する、出来るだけ」
「ああ、死体処理と素材回収班をつけている。
　そいつらにやり方を覚えさせてくれ、頼む」
「分かりました」
「こんなに簡単におびき寄せられるなんて、やはり食料に困ってるんだろう…砂の下にサンドワームがうじゃうじゃいるのかもしれないな」

恐ろしい…出来るだけ倒していこう。
俺はノースさんと分かれて殿下のいる馬車へ。

「話は終わったか？出立だ」
「はい」

殿下の号令で、宮殿を後にする。
砂漠地帯を行き来するのは大変だ。
乾燥しているからかウォーターに大変魔力を使うので、水を持っていかなくちゃならない。
食料は乾物中心だし、とにかく水がいる。

「オアシスからオアシスへ移動するにしても、大変ですよね」
「そのオアシスの水も減っているそうだからな」

やっぱりあいつのせいなのかしら。
そうだとしたら、今年中に決着をつけたいな…。

「そういえばノースさんは残るんでしたよね？」
「ああ、巨大ミミズの件も含め、乾燥化の進行度合いも砂漠を飛んで調べてみるとのことだ」
「事故が無ければいいですね」
「そうだな…。道中、休憩場所でもミミズ討伐を行うのだろう？あまり根を詰めないようにな」
「分かりました」

＊＊＊

「ほい！出たぞい！」
「ウインドカッター！」ヒュパァーン！
「こっちも出たよー！」
「ファイヤーアロー！」ビュワーッ！メラメラ！
「次々出ますね…あ、出た」
「ふん」ザシュっ！
「先生、こっちも！」
「おー、いくぞ！プラウ！」
「こっちも行くよー！プラウ！」
「みんなが強いからいいですけど…プラウ！」

シャラパール宮殿から馬車で3時間ほどの村。
畑が乾燥して困ってるらしいと聞いて、みんながやる気になっている。

ここでも面白いように出るな…。
死体処理と素材回収係は大忙し。
地面の堅いところへサンドワームの死体を運んでは魔石を取り出し皮を剥いで中身を燃やす。

「サンドワームの中身はいい肥料になるんです」
「ほんとだ、コロコロした土みたいなる」
「魔力も含まれているんで良く育ちますよ！」

あっ、そうか、土属性だから…なるほど。ん？
じゃあ魔物の死体を肥料にして薬草育てたら魔力いっぱい吸ってるなんてことはないのかしら。
帰ってから聞こうっと。

「もう少しだけ向こうもやってみますか？」
「うむ、プラウが届く範囲を広げる訓練じゃの」
「じゃあ、限界まで長く…プラウ！」
ヘザー先輩は真っ直ぐ…1㎞近くまでプラウで砂を掘り起こした。すごい。
「凄いのー！どれ、儂も…プラーーウ！」
おじいちゃんはもう少し長く掘り進めた。
さすが土属性教授…俺もやってみよ。
「俺も行きまーす！遠くまでプラウ！」
うーん、ヘザー先輩のよりちょっと短いかな…
そのかわりちょっと範囲が広いか。
これはしっかり練習しないとな…。

「掘りすぎだ教授！セイっ！」ブシュウゥ！
「ヘザー先輩もだぞ！オラァ！」バシュゥ！
「すげー、いっぱい出てきた！」パァーン！
「今回は盾いらないね…
　ウォーターアロー！」ブシャァ！
「範囲が広いとそのぶん呼びやすいのかな…
　遠い所は頼みます！」
「任せとけ！ウィン！」「りょーかい、ディー！」

あの2人、馬乗ると倍強いなー。
うわ、行きがけの駄賃に一匹倒してった。
遠くのもあっという間…うーん殺戮。
死体はイドラ君とモロー君がホバー台車で回収に向かう。
「行ってきまーす！」ススーーイ……
やたら乗るの上手くなったなぁ…羨ましい。




「よし、一旦休止！」
「はーい！何匹取れましたかね？」
「22匹だ」
「えー！実験の時より多いですね」

死体処理と素材回収についてきた兵士の人もクタクタ。やり方は…覚えたみたいだけど。

「我が国には土魔法使いが少なくて…参考にするにはちょっと難しいかもしれません」

ということなので、土魔法のプラウに特化した魔道具の作製を請負って帰ることに。

「出来たら持ってきますね」
「うん、待ってるよガントレット」チュッ。

ノースさんはしばらくこっちに残って気球のことやらサンドワームのことやらをやってくれるらしい。
海を挟んで遠距離恋愛か…。
電話みたいな魔道具があればなあ。

「あっ、今頃誘われて出てきたのがいる」
「あらあら…ウインドカッター」バッシュウ！
「忘れてた、プラウの後消しとかなくちゃ…
　ウィンド、範囲広め、地面の上」ブワワワー

サンドワームは風属性の魔力を嫌うらしいので、必ず最後にはこれをやらないとね。

「これの魔道具も欲しいです！」
「分かった、作るして持ってくる、一緒に」

数作るとなると鉱山の工房に頼んだほうがいいな。
こっちは殿下を通じて頼むとしよう。


そうやってサンドワーム駆除をしながら港へ行く。
ついた頃には素材たっぷり魔石ゴロゴロ…
素材はコリアス商会へ持ち込んで一財産だ。
ついてきた兵士さんは嬉しそう。
魔石は頂いて帰り、魔道具を作るのに使うことに。

「ではまた朝に」
「お疲れさまでした！」

今日は港で一泊。

出港は朝…ノースさんとガーベラ先輩は最後の逢瀬を楽しむべく、2人で高級宿へ消えていった。