上 下
188 / 586
学園3年目

音楽と魔法 2

しおりを挟む
混乱しているのを良いことに、デューイ君を魔法練習場へ連行。
さすがもう一人の神童、楽譜は全て頭の中に入っているらしい。

半端ねえな。

「じゃあ、夏に港町で見つけたのを、メドレーで…」

美しいフルートの音色が練習場に響く。
と同時に爽やかな風が吹く。
「おお…これは、ブレイズより優しい風ですね」
「そうだな、優しい風…帆船を使っていたときの名残かな」
「この歌を歌いながら船を漕いだのかもしれませんね…」

曲調が変わる。
今度は少し軽快な曲…風が強くなる。
「向かい風に対抗するイメージでしょうか」
「ファイト!ファイト!って感じかな」

さらに曲調が変わって、今度は激しめで早いビート。
すると風はさらに強くなり、吹き荒れる。
「うわ~!すごい!」
「風が曲に応えてるみたいだな!」
「ルディ、飛ばされるなよ!」
「は、はいぃ!!」

ワルド先輩にルディ君がしがみつく。
マグノリア教授はどのくらいの風なのかを体感するのにジャンプしたりして遊んでいる。
「うお~、だいぶ飛ぶな」
「おー、すごいすごい」
ちなみに俺は結界を張って眺めるタイプ。

メドレーが終わってデューイ君がフルートを降ろす。
風がしゅるる…と収まる。

「…こりゃまた、すごいのう…」
「これはどこに楽譜があったの?」
「地元のおじいさんが歌っていたのを聞いて、楽譜に起こしたんです…もう、そのおじいさんしか歌ってる人がいないんだって聞いて、すぐに保存しないとと思って」
「お~、デューイ君ならではだね」
「なるほどのう…おお、そうじゃ!」

おじいちゃん先生がその言葉を聞いて、何か良いことを思いついたらしい。

「王宮音楽隊の連中を各地に派遣して、そういう唄をどんどん集めよう。
 あれだけの奏者がおるのに、外で演奏することが無いのがもったいないと思っておったんじゃ」
「じゃあ、本格的に地方を回ってコンサートを?…興行を得意にしている商会に持って行く材料が増えたな…」
「楽器を運ぶのはやっぱりセリンセ商会なの?」
「もちろん、何でも運びますからね、あそこは」

またもデューイ君を置いてけぼりで盛り上がる一同。
ものすごく重要なことをみんな触れないようにしてるけど、大丈夫かしら。

「まあ、商売の話は一旦置いといて…ねえ、デューイ君」
「は、え、何でしょう」
「デューイ君はどうやら究極の古代魔法使いになっちゃったみたいなんだけど、どうする?」
「えっ」
「下手したら、人間兵器になっちゃう気がする…ああでも、フルートならまだ…ラッパじゃなくて良かったと思うべきなのかも…しれないな」
「どういうことですか!?」
「音楽を聴いて、気分が高揚することってありますよね?」
「それは…ありますね」
「これ、俺が探してた身体強化魔法の形なのかも、しれない」
「は?」
「音楽は人間の心を動かす作用があります、魔力の少ない人が歌うならただの歌…でも、魔力のある人が歌うと」
「…魔法に変わる…?」
「そう、魔力がある人が演奏する音楽もまた…魔法になる。
 多分詠唱に寄らない古代魔法発動の方法が、魔道具楽器での演奏…その楽器を作れるのが現状」
「僕、1人ってことですか…?」
「魔石を使わない魔道具自体が失われた技術だからね」

例えば、だけど。

「突撃ラッパってありますよね」
「ああ、あるな」
「あのラッパが魔道具で、音が届く範囲の人間全部に身体強化の魔法をかけられるとしたら…」
「より多くの敵を殺せるようになるということだな」
「…まさか、そういうことか」

これは極端な例で、そんなことができる可能性は低いのかもしれない。

「デューイ君は今後、ラッパの演奏だけはしちゃ駄目だよ」

でも今のところ注意できるのは…そのくらいかな。

「ただ、そこまでの広範囲に影響を与えるほどの魔力がある人がいなければ使えないから…そこまで心配しなくてもいいと、思うんだけどね」
「…どうしましょう?」
「そこでね、野外コンサートだよ」
「ん?」
「ド派手にやろう!」

作戦は、ある。

「だから、安心してバンバン演奏してよ!
 どの曲がどんな魔法になるか、しっかり知っておかないといけないしね」
「はい!」

魔法の飛び交う演奏会。
デューイ君の魔力がつきるまで、俺たちはそのすごさを堪能したのだった。

しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...