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学園3年目
【閑話休題】失意の夏 ~テナチュール侯爵視点~
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「お父上、私はお父上の王家への忠誠心の深さを信じ切れておりませんでした。
今までのご無礼、どうかお許しください」
私は息子のフィーデからの急な謝罪に驚いた。
学園から帰省した息子が、晩餐の折に話があると言ってきたので、何を言うかと思ったら…
「ルース・ユーフォルビアから、全てを聞きました」
と、いきなり十数年来の家庭不和の原因たる家の次期当主の名前を聞かされ、またその話を蒸し返されるのかと心底うんざりしていたところにこの謝罪だ。
伴侶のテルも驚きの表情をしている。
全てを聞いたとはどういうことだ?
ユーフォルビアの8番目は私の子だということか?
いや、それは彼がとある王家に嫁ぐと決まった時、軽率にも教えてしまったはずだ。
それで息子とも溝ができたのだから。
ちなみに伴侶には早々に知られてしまった。
何とか頼み込んでフィーデを身ごもってもらえはしたが、彼の怒りは今も続いている。
まったく嫉妬深いことだ、ゼフを抱いたのはあの時だけ、たった数か月の事なのに。
貴族なら、愛人の1人や2人いるのが普通…
いや、今そんなことを考えている時ではない。
「……一体、何を聞いたのだ、フィーデよ」
「はい、お父上がゼフ殿と「交流」し、かの家との間に子を儲けたのは、王命であった…と」
何だって!?
「生徒会の皆様と共に、ルース・ユーフォルビア殿に対し正室候補から降りるよう、茶会にお招きし説得を試みたときの事です…」
息子はそこで聞いたという話を語った。
それは、とんでもない嘘だった。
だが、自分にとって恐ろしく都合のいい嘘。
それをユーフォルビアの子が我が子に吹き込んだ。
ああそうか、「あの男も私と伴侶との不和を心苦しく思っていたのだ」…などという、お気楽な話ではない。
全てを知ったうえで、私に都合のいい嘘をついた…これはつまり、脅しだ。
「その事が王家の不名誉につながると知って、お父様は自分の不義であるかのように見せかけていたのでしょう?
そして、ゼフ殿も王家をたてるために、あのような不名誉な噂を受け入れているのだと…。
私は自分が心底恥ずかしかった!
噂を信じてユーフォルビア家を貶め…その事を通して本当はお父上の事も貶めていたのです。
本当はお父上、いや、先祖代々、王家に仕えてきたテナチュール家の忠義を信じるべきだったにも関わらず…大変、申し訳ございませんでした!」
何を、どうなっている。
あれほど私を不潔だと嫌っていた息子が、これほど態度を変えてしまうとは。
ここは…どう答えるべきだろうか。
「…ギリー、その話は、本当なのか?」
伴侶のテルが私を射抜くような目で見る。
興奮した息子が、それに被せる様にさらに言う。
「ええ、本当です、テルお父様!ユーフォルビアとはいえ歳を重ねれば産むことは叶わなくなる、だからどうしても12人の子が必要だった国王陛下が、伴侶なき間にも子を成して欲しいと、ユーフォルビア家、それから公爵家と…代々忠臣として信頼している我がテナチュール家にも王命を下したのだ、と…
アルファード殿下からも、言質を頂きました」
な…殿下からも言質を、だと?
どういうことだ、どう考えるべきだ、これは…
「本当か、フィーデ」
「はい、アルファード殿下が生徒会に近づかなかったのは、我々に「お側にいながら殿下を諫められない腰抜け」という悪評をつけない為もあったが、もう一つには後ろめたさがあったのだ、と…。
今まで済まなかった、父を大切にせよ、と…!」
「……そうか」
考えろ、いや、むしろ…どう答えても同じ、なのかもしれない。
肯定すれば「やはりそうでしたか」となるだろうし、
否定すれば「本当は分かっていますよ」になる。
つまり、ルースと殿下によって家庭崩壊が食い止められたという事実は変わらない。
強制的に借りを作らされた…。
「そういうことだったのか、ギリー…!
本当に今まで済まなかった!!
これまでの非礼、どうやって詫びれば…!」
「いや…大したことでは、無い」
ああ、何という事だろう!!
あれほど私を蔑んでいたテルが、新婚の時よりも私に熱い視線を向けている。
ベルガモット家との政略結婚で嫌々嫁いできた彼は、ゼフと「交流」する以前から私を軽んじていたというのに!
「いいえお父上、これは大したことです!
それに、これもルースから聞きましたが、今後由緒ある家に「正室として」嫁がせられる、地位を持ったユーフォルビアの直系を育てるためにも、今回の婚姻は必要なことなのだと…。
私は目先のことしか考えていなかった!
当家が代々仕えてきた王家がその程度であるはずが無かったのに…考えが全く足りなかったのです!
ローズ王国に仕えるものとして、もっともっと広く深く物事を見るようにしなければ、今以上に勉学にも修行にも励まねば、市井の者にも笑われてしまいますね。
爵位が低いと自分が馬鹿にしていた者たちのほうが、正しい選択をしていたのですから…!
危うく家名に泥を塗ってしまうところでした。
テナチュールの名に足るものであるよう、この時より心機一転の志を持ち、尚一層努力致します!
『貴族たるもの、常に上を目指せ』…ですよね、テルお父様?」
「ああ、ああそうだ!さすが我が息子!!
フィーデ、もっと学びなさい。家庭教師を何人付けても構わん、家名に胡坐をかいてはならんぞ!」
…なんということだ。
もう、どうしようもない。
我がテナチュール家はこのまま、「ベルガモット」に取り込まれてしまうのだ…
我が家の伝統である「優雅たれ」は消え、努力などという優雅さとは程遠いものを尊ぶ家に変わるのだろう。
家名だけは、残るけれども。
今までのご無礼、どうかお許しください」
私は息子のフィーデからの急な謝罪に驚いた。
学園から帰省した息子が、晩餐の折に話があると言ってきたので、何を言うかと思ったら…
「ルース・ユーフォルビアから、全てを聞きました」
と、いきなり十数年来の家庭不和の原因たる家の次期当主の名前を聞かされ、またその話を蒸し返されるのかと心底うんざりしていたところにこの謝罪だ。
伴侶のテルも驚きの表情をしている。
全てを聞いたとはどういうことだ?
ユーフォルビアの8番目は私の子だということか?
いや、それは彼がとある王家に嫁ぐと決まった時、軽率にも教えてしまったはずだ。
それで息子とも溝ができたのだから。
ちなみに伴侶には早々に知られてしまった。
何とか頼み込んでフィーデを身ごもってもらえはしたが、彼の怒りは今も続いている。
まったく嫉妬深いことだ、ゼフを抱いたのはあの時だけ、たった数か月の事なのに。
貴族なら、愛人の1人や2人いるのが普通…
いや、今そんなことを考えている時ではない。
「……一体、何を聞いたのだ、フィーデよ」
「はい、お父上がゼフ殿と「交流」し、かの家との間に子を儲けたのは、王命であった…と」
何だって!?
「生徒会の皆様と共に、ルース・ユーフォルビア殿に対し正室候補から降りるよう、茶会にお招きし説得を試みたときの事です…」
息子はそこで聞いたという話を語った。
それは、とんでもない嘘だった。
だが、自分にとって恐ろしく都合のいい嘘。
それをユーフォルビアの子が我が子に吹き込んだ。
ああそうか、「あの男も私と伴侶との不和を心苦しく思っていたのだ」…などという、お気楽な話ではない。
全てを知ったうえで、私に都合のいい嘘をついた…これはつまり、脅しだ。
「その事が王家の不名誉につながると知って、お父様は自分の不義であるかのように見せかけていたのでしょう?
そして、ゼフ殿も王家をたてるために、あのような不名誉な噂を受け入れているのだと…。
私は自分が心底恥ずかしかった!
噂を信じてユーフォルビア家を貶め…その事を通して本当はお父上の事も貶めていたのです。
本当はお父上、いや、先祖代々、王家に仕えてきたテナチュール家の忠義を信じるべきだったにも関わらず…大変、申し訳ございませんでした!」
何を、どうなっている。
あれほど私を不潔だと嫌っていた息子が、これほど態度を変えてしまうとは。
ここは…どう答えるべきだろうか。
「…ギリー、その話は、本当なのか?」
伴侶のテルが私を射抜くような目で見る。
興奮した息子が、それに被せる様にさらに言う。
「ええ、本当です、テルお父様!ユーフォルビアとはいえ歳を重ねれば産むことは叶わなくなる、だからどうしても12人の子が必要だった国王陛下が、伴侶なき間にも子を成して欲しいと、ユーフォルビア家、それから公爵家と…代々忠臣として信頼している我がテナチュール家にも王命を下したのだ、と…
アルファード殿下からも、言質を頂きました」
な…殿下からも言質を、だと?
どういうことだ、どう考えるべきだ、これは…
「本当か、フィーデ」
「はい、アルファード殿下が生徒会に近づかなかったのは、我々に「お側にいながら殿下を諫められない腰抜け」という悪評をつけない為もあったが、もう一つには後ろめたさがあったのだ、と…。
今まで済まなかった、父を大切にせよ、と…!」
「……そうか」
考えろ、いや、むしろ…どう答えても同じ、なのかもしれない。
肯定すれば「やはりそうでしたか」となるだろうし、
否定すれば「本当は分かっていますよ」になる。
つまり、ルースと殿下によって家庭崩壊が食い止められたという事実は変わらない。
強制的に借りを作らされた…。
「そういうことだったのか、ギリー…!
本当に今まで済まなかった!!
これまでの非礼、どうやって詫びれば…!」
「いや…大したことでは、無い」
ああ、何という事だろう!!
あれほど私を蔑んでいたテルが、新婚の時よりも私に熱い視線を向けている。
ベルガモット家との政略結婚で嫌々嫁いできた彼は、ゼフと「交流」する以前から私を軽んじていたというのに!
「いいえお父上、これは大したことです!
それに、これもルースから聞きましたが、今後由緒ある家に「正室として」嫁がせられる、地位を持ったユーフォルビアの直系を育てるためにも、今回の婚姻は必要なことなのだと…。
私は目先のことしか考えていなかった!
当家が代々仕えてきた王家がその程度であるはずが無かったのに…考えが全く足りなかったのです!
ローズ王国に仕えるものとして、もっともっと広く深く物事を見るようにしなければ、今以上に勉学にも修行にも励まねば、市井の者にも笑われてしまいますね。
爵位が低いと自分が馬鹿にしていた者たちのほうが、正しい選択をしていたのですから…!
危うく家名に泥を塗ってしまうところでした。
テナチュールの名に足るものであるよう、この時より心機一転の志を持ち、尚一層努力致します!
『貴族たるもの、常に上を目指せ』…ですよね、テルお父様?」
「ああ、ああそうだ!さすが我が息子!!
フィーデ、もっと学びなさい。家庭教師を何人付けても構わん、家名に胡坐をかいてはならんぞ!」
…なんということだ。
もう、どうしようもない。
我がテナチュール家はこのまま、「ベルガモット」に取り込まれてしまうのだ…
我が家の伝統である「優雅たれ」は消え、努力などという優雅さとは程遠いものを尊ぶ家に変わるのだろう。
家名だけは、残るけれども。
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