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学園3年目

公爵家子息たちの憂い

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今年も夏休みがやってくる。

生徒会役員たちは毎年なら、それぞれの家の別荘へ向かうところだが、今年は違う。

プリムラ会計が言う。
「避暑などしている場合ではありません、早急に別の方策を立てねば、婚約が成ってしまいます」
バイオレット副会長も賛同する。
「そうだな…。
 私の父も何度かに接触を試みたようだが、王宮の手のものによって阻まれているとか。
 何も傷つけようというのではない、少し話をしようというだけなのに、困ったものだ…」
コーラス書記が言う。
「とはいえ、焦りは禁物ですよ?
 婚約は婚約です。
 要は結婚させなければ良いのですから」
フリージア会長が言う。
「だが、王家に婚約破棄されることは十分に瑕疵となるだろう。
 娶りたいという家の為にもなるべく今年中に何とかできればいいがな」

コーラス書記が返す。
「ですが、に無理やり伴侶をあてがわなくても宜しいでしょう?
 独り身でも産めばそれで良いのですから」
シャムロック総務が言う。
「そうですね、あの家の当主なら、それほど問題にもなりませんでしょう」
テナチュール総務も同意する。
「全くです…。
 コーラス様にあそこの当主が「あの」イフェイオン老を誘惑したと聞いたときはぞっとしましたよ」
シャムロック総務がその話を拾って言う。
「好き者の血ですかね?
 が前国王殿下にまで媚を売っているのは」

3人が声を立てず笑うのを、フリージア会長が見咎めて言った。

「どんな人間に対しても、人道に反することを積極的にする訳にはいかん。
 我々はこの国の良識と良心を守るためにコトを成そうというのだから」

コーラス書記がええもちろんです、と同意し、続けた。
「ですが、最悪の場合にはその手段も考えねばならないということです。
 『人の上に立つものは、常に最悪の場合を考えて行動しなければならない』…ですよね、副会長?」
「ああ、そうだ」

ヴァイオレット副会長は大いに頷いた。

***

我々は王国の秩序を守る為に立ち上がらなければならない。

公・侯・伯・子・男、騎士・平民。
この順を無視するなど、あってはならない。

それが彼らの中で「統一された」意見だ。

当然だ、国家への貢献度を見れば分かる。
爵位の高い家ほど、広い領地を経営し税収を支えていることを忘れてもらっては困る。
文化面でも芸術家のパトロンになるなど貢献してきたし、政治の面でも要職に付いて王を支えてきた。

少なくとも、自分の父たちはそうしている。
小さい頃から何度もこの話を聞かされてきた。

「家庭や家族の事など考える暇はない。
 国家を支える事とはそういうことだ」

自分たちはそれで随分寂しい思いをさせられてきた。
厳しい躾や教育にも耐えてきた。
だから、自分たちも王家に敬意を払われるべきだ。
全員、どこかにそういう思いがある。

なのに、アルファード殿下はちっとも自分たちに近づこうとしない。
入学前はまだ良かった。だが入学後は…。

この寮で一緒に暮らして友情を育むつもりだったのに、あの貧相で汚らしい寮に入った。
付き合う相手は地位の低いものが圧倒的に多い。
自分たちとの交流は昨年度までの昼食会のみで、それも直接言葉を交わすことは無かった。
こちらが主催する茶会にも出てくる気配がない。

自分たちが蔑ろにされている…
彼らが肌で感じている事だ。

高位貴族がいかに国家にとって大事な存在なのかが分かっていない王など害悪そのもの。

やり方を改めさせる。
そして、国を支える家が永く続くよう、ユーフォルビアを独占することを諦めさせなければならない。

あの「苗床」は王家のものではない。
この国を支える偉大な家々の為のものだ。
あの家が伯爵である理由はそれ以外に無い。


 「ユーフォルビアは「産むこと」が家業」


家が出来た経緯も含めて、揺るぎない事実だ。
貴族は家業を守らなければならない。
それを王家が私欲の為に捨てさせるのは傲慢だ。

「我々は、力を合わせてアルファード殿下の愚行をお諌めしなくてはならない」

副会長は考えた。
今までの作戦は遠回りしすぎた。
の心を揺さぶって、婚約者の座を固辞させるのはもう間に合うまい。
ではの関心を得られる男を周りに配置する…のも、今の状況を見れば無駄だ。
結局のところ、残された時間を考えると…

との直接対決、しかないな」

ここでもしびれを切らしたのは「バイオレット」。
血は争えない…ということか。

「直接話して、駄目なら…彼に「働きかけ」を」
「かしこまりました」

会長は考えた。
彼に家業を捨てさせるわけにはいかない。
きっと彼らもそれを望んではいないだろう。
それがどんなに人から蔑まれる家業でも。


自分たちに賛同する家も増えた。
自分たちの次の世代の為にもやらねばなるまい。

フリージア会長は正義感を滲ませて、言った。



「必ず成功させよう、ローズ王国の為に」
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