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学園3年目
神官様御一行とお買い物ツアー
しおりを挟むその日、市場は異様な緊張感に包まれていた。
「僕はここでお菓子の材料を買っています」
俺の一人称が「僕」になるくらいの緊張感。
市場の中には30人の神官と5人の書記官、そして屈強な護衛の騎士に神官見習い…。
ざっと合わせて100近い神様関連の人が市場にいるのである。
朝も早くからご迷惑おかけします…
「そうですか、店主殿はどちらに?」
「ふっ、ふぁいっ!わたくしです」
「こちらがお買い上げの物について、説明を」
カリカリ…とペンを走らせる大神殿の書記官5名。
多すぎひんか?
「は、はい、小麦粉、デニー産の、小麦粉、シュペール産の砂糖、ですっ!」
「なるほど、これにした理由は?」
「えー、デニー産の小麦は、薄力粉と言って、グルテンが出にくいので」
「グルテン?」
「小麦粉に水分を加えて練ると、ねばねばしてきますが、それのもとになるものです」
「ほうほう」
「砂糖は産地にこだわりはありませんが、こうしたサラサラと砂のような砂糖があると良いでしょう」
グルテンの説明からかよ!
薄力粉と強力粉の区別も無えし!
グラニュー糖と上白糖の違い…は、難しいから、仕方ないとして…
これは時間がかかるぞ…(汗)
「基本のレシピは、先ほどお伝えした通り…」
「はい、
★薄力粉…100g
★砂糖…50g
★バター…50g
★卵黄…1個分
…ですね」
「そうです、とても覚えやすいですよね。
まずは基本のこれを練習致しましょう」
そう、今日は学園の講堂で、神殿関係者40人相手にクッキー作りの講習会。
そして明日は飴ちゃん作り。
ただ、飴なんて砂糖の塊だから、市場の砂糖を買い占めるなんてことにならないように…とアイリス商会に事前に予約して、水飴やらもろもろの材料と一緒に届けてもらうことにした。
「では、我々も…薄力粉を4kg、砂糖を2kg」
「は、ははー!ありがとうございます」
ごめんよ親父さん…。
それにしても、神殿ってお金払わないの?
全部寄付してもらうスタイルなの?
寄付するといいことあるの?
後で誰かに聞いてみよう…。
そうだ!卵白余るんだし、あれも…。
俺は親父さんに耳打ちする。
「あ、親父さん、俺アーモンド粉欲しいんだ…500…いや、600…」
「おお、いいけど…これは金払ってくれるのか?」
「そりゃ払うよ、俺の買い物だもん。
…あと、砂糖も余分に欲しい、1kg」
「あいよ」
コソコソ…と自分の買い物をしていると、うちの神官長が大きな声で言った。
「それは何を買ったのだ?
神殿の目を盗んで取引とは、怪しいものではなかろうな!!」
その声に反応して、この場にいる神官と神官の護衛騎士が一斉にこっちを見る。
親父さんが怯えて俺の腕をつかむ。
「ひいっ!る、ルース、おい」
「やめてください!怪しいものではありません、ちょっとした茶菓子の材料です」
「ほう、茶菓子?どのような」
神様関連の人々の目が俺に集中する。
やべえめっちゃこわい。
「えーと、先ほどクッキーには卵黄を使うと言いましたが、余った卵白がもったいないので、卵白とこのアーモンドの粉で作れる焼き菓子を作ろうかと…」
神官さんたちのクッキー作り講習で出た卵白をこっそり頂いちゃおうと思って…。
これは怒られる…と思ってたら、神殿関係者たちは何故か一様に微笑んでいる。
「それは、我々も必ず知らねばなりません!」
「白身は捨てずに使うのですね!?」
「神の教えに背くことになるかと…良かった!」
どうやらフードロス厳禁という教義がある模様。
なかなかいい宗教じゃないの、見直したぞ。
「ですが、この粉は先ほどの小麦粉より高価なものです。対価なしにとは…」
「罪を犯さずに済む尊いものです、払いましょう」
払うってよ!?
「ああ、じゃあ、卵白1、砂糖50g、アーモンド粉20g…なので…」
「そうですか、では店主殿、砂糖2kgとアーモンド粉800gを追加で」
「あ、ああ、はい!…っと、ルースは?」
「じゃあ俺は100gで…砂糖は500g」
こんな感じでバターと卵も買い、明日使う砂糖と水飴、その他もろもろを注文するふりをし…
最後に神官さんと護衛の騎士さんで寄付のお礼にと市場へ祈りを捧げるのを見た。
それは見事な結界魔法で…。
向こう半年は上位魔法攻撃を受けても問題ないレベルの強固な結界が市場全体を包んだ。
イドラ君が満足げな顔で言った。
「年に2回、市場の商店主たちと合同で寄付をして、この結界を掛けてもらうんだ。
今年は安上がりで済んで助かったよ」
なるほど寄付をするだけの価値はある。
まさかの現世利益とは…
さすが異世界の宗教、異次元だな。
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